官能短歌写真展『満たされず満たせずそばにいる夜に』(展示短歌23首)
2022年12月3日~12月11日にAtelier Y原宿にて、官能短歌写真展『満たされず満たせずそばにいる夜に』を開催させていただきました。
ご来場くださったみなさま、ありがとうございました。以下、展示短歌23首です。
「どれくらい好き?」に答えてくれるまで先生120秒も待ちました
かけひきも知らないでいる年下の手をスカートの裾に導く
彼氏とはできないことをしたくなる制服を脱ぐきみをみてると
すり減ったガラスの靴で駆ける夜 夢見る頃を過ぎたとしても
浅瀬から手を振るきみに溺れたらひとりの夜を泳ぎ切れない
貸していた傘はあげるわそのかわり悲しい顔とかしないでいてね
ベランダの四角い空を汚す雨ねえ今だって触れていいのに
白シャツに透けるホックを確認し立ち漕ぎで追い越していく夏
男って好きじゃなくてもできるよと急に男になる男の子
避妊具を買いに走ったコンビニできみのアイスを選んでしまう
ねえ次に止まった赤でキスしよう雨の高速道路をゆけば
帰したくなくなるなんて抱き寄せて帰さないとは言ってくれない
夏のチョコレートのごとく通知音ひとつでやわく折れ曲がる意志
満月がきみのからだの凹凸につくる影には引力がある
猥談にたいして「もう」と目を細めてる仕草すらエロくて困る
粘膜と粘膜からが浮気なら後ろめたくない愛を探そう
禁煙と同じ手口で絶ちたくてさみしいくちをだれかで塞ぐ
熱い息わたしのなかにいれて ほら 空気穴ならここにあるから
空洞がばれないように生きているコンシーラーで塗りつぶす朝
きみが背を向けて寝た日も夜はあける言葉より正確に愛して
さみしさを楔のように刺し込んで傷つけながら交わっている
「いく」でなく「いってもいい?」と聞くきみが新(さら)のシーツに汗を吸わせる
口移しの氷が光る今だけは誰かでいるのを許してほしい
言葉にならないものを心の底に沈めたとき、わたしたちは歌を聴いたり、詩を読んだりするのでしょう。わたしにとってはそれが、物語をつくることでした。
脚本ではなく短歌をつくるのは初めての試みですが、わたしは想像の余白がある短歌が好きです。手探りでつくった31文字はなんだかさみしそうで、両手ですくえば指の隙間からこぼれ落ちそうでしたので、一首一首に寄り添うような写真とショートフィルムをつくりました。短歌を添えることで写真に文脈が生まれ、ショートフィルムによって短歌の外の世界を体現できるのではないかというのが、本展の企画の出発点でした。
どうして“官能短歌”なのかというと、ロマンポルノが好きだからというのがひとつの理由です。ロマンポルノでは10分に1回の濡れ場という制約が物語の推進力になっていて、情事の前と後とでは嫌が応でも関係性が変わってしまいます。その不甲斐なさがたまらなく愛おしく、本展のテーマを「満たされず満たせずそばにいる夜に」としました。わたしたちはままならない心とからだを抱えて生きていますが、作品を通して、あなたも、あなたの人生も美しいと謳っていけたらと思います。
開催にあたり、繊細な写真と映像で官能短歌の世界をつくってくださった福島裕二さんには大変お世話になりました。レンズを通してなにもかも見透かされているのではないかと思うほど、福島さんの撮った作品には心が溶け出していました。厚くお礼申し上げます。
そして、快くご出演いただいた彩月貴央ちゃん、高嶋香帆ちゃん、野々宮ミカちゃん、“あざといのにピュア”なヘアメイクでお世話になったmonmoさん、撮影をお手伝いいただいた湯澤祐紀さん、ギャラリー展示でお世話になった上野翔太さん、関係者の皆さまに心から感謝を申し上げます。
最後になりましたが、企画から長らく本展を支えてくださった繭ちゃん。わたしの創作活動は、美しい友人である彼女を撮りたいというのが発端だったりします。彼女の存在が私を誘惑し、突き動かし、導いてくれました。彼女がいなければこの写真展は成立しなかったでしょう。心から感謝を申し上げるとともに、引き続きラブコールを送らせていただきたいです。
寺田御子