酒を飲む理由がない、という理由で酒を飲んでいる　＃６

たまに行くロックバーでこんなことがあった。
ラム酒をコーラで割った「キューバリブレ」というカクテル頼んだら、マスターがラムの種類はどうする？と訊いてきた。特にこだわりがなかったので、おまかせでと頼むと、「まあ、コーラで割ったら全部一緒なんだけどね」と彼は言った。それでもプロか！　
なんとも夢のない話だが、僕はこの会話からコーラで割ったら安い酒でも飲めるじゃんという結論を得た。どんどん物価が高くなる昨今、ちょっとしたライフハックである。
それ以来、僕は毎日パックの安い焼酎をコーラで割ってちびちびと飲んでいる。そのうち、香典返しで貰ったあのどうしようもないお茶を淹れて割るという裏技も編み出してしまった。自分の才能が恐ろしい。
これを読んでいる方の中には、お前はそんなに毎日酒を飲む理由があるのかと思った方もいるだろう。
毎日ヘトヘトになるほど一生懸命働いている訳でもないし、ゲームばかりしていて出歩かないので、懐かしい友人と再会して、旧交を深めるということもない。酒を飲むための真っ当な理由が見当たらない。僕の日常には酒を飲む理由がない。
言ってみれば、なんてしょうもない日常を生きてるんだ俺は、というやけくそな理由で酒を飲んでいる。

～毎週日曜夜に更新～
自主連載企画『２７歳で死ぬと思ってた』
文：寺田功夫
絵：タチカワ(https://linktr.ee/kyotaro071)