見出し画像

路面電車の残影

毎週土曜日の朝7時20分に坐禅の会に出るようになって10年以上になる。小さな集まりで3、4人で30 分瞑想してお茶を飲んで解散。パンデミックが始まってからは室内での集まりは止めて坐禅の時と同じ時刻に市内のいろいろなトレイルの入り口で待ち合わせて1時間のウォーキングを一緒にしている。

Interurban railroad

先週末、初めての場所を歩いた。昔、トロリー電車が走っていた軌道をトレイルに転用したもので、そういう遊歩道はあちこちにあるのだが、このトロリートレイルは元々のレールが細かったか、それとも歩く人が少ないのか両端の木々の勢いに押されてところどころけものみちのようにとても細くなっている。トロリートレイルの終点の手前は急に曲がって高速道路の側道と並走するかたちで数ブロック続き非常に味気ない場所で終わっていた。フェースブックに写真を載せたら、ある人から、元々は隣町のダウンタウンまでトロリーが走っていたようだと、パン工場の横を電車が走っている旧い写真のリンクが送られてきた。グーグルマップの衛星写真を開けてみる。もしも、その写真のあたりまで軌道があったとしたら、どこを通っていたのだろう。拡大してみて合点がいく。トロリートレイルが不自然に急に曲がっていた場所を塞ぐようにエンジンオイルの精製会社がある。そして、その敷地内に貨車の軌道が引き込まれているのだ。その軌道を伸ばせばトロリートレイルにつながる。枕木とレールが外されて自然に帰りつつある部分と、人ではなくオイルを積んだ貨車を引き込むレールとに分かれて、人々が乗降に使った元々の終点だった場所とは全く違う箇所で、とてつもなく遠くまで行く貨物線路とつながったのだ。そういうことを考えるとワクワクするような、反面悲しいような気持になる。

Narrow Gage Railroad

以前コロラド州の西のほうを訪れた時、人里離れた沢沿いに狭軌鉄道の跡が続く場所を見た。案内してくれた人が、鉱山ラッシュの頃には人口が多く町や村があったと教えてくれた。今は家も鉄道も跡形もなく大自然の中。時代が進めば進むだけ技術は進歩して物事は便利になり繁栄すると思うのに、いろいろ不便だったであろう昔のほうが鉄道が張りめぐらされて各々が車を運転しなくても生活できていた。もともと鉄道が走っていて、今はないところへ行くといつもそういう不思議な感覚にとらわれる。

Department Store

数年前に106歳で亡くなった夫の祖母が、10代のころ、恐慌で家計が苦しくて必要なものが買えない彼女の母親を気遣って、汽車に乗って大きな町へ行き、デパートで母親のために冬用の暖かいコートを自分の貯金で買ってきた話をしてくれたが、祖母の生家があったあたりは今は駅など微塵もない広大な農業地帯だ。車がなければどこへも行けない。そして。車で街に出ても彼女が買い物を楽しんだようなデパートはもうない。ここ数年でウォルマートなどの超大型スーパーとオンラインショップに押されてこの地域のあらゆる老舗のデパートはことごとく潰れてしまった。もう、店員さんにアシストしてもらって化粧品を選んだり、違うサイズの靴をバックルームから持ってきてもらうような経験はできないのだ。デパートもトロリー電車と同じで、あるとき急に人々の関心がはなれて見向きもされなくなり、維持することができなくて跡形もなくなる。そしていつか、今ここにそんなサービスがあったら便利だっただろうにと思う後世のひともいるのだろうか?