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庭のキンモクセイ



優しい匂い。
優しい季節。
私の秋は、キンモクセイの香りからはじまる。


甘い香りなのに、ちょっとセンチメンタルに包まれる不思議な、オレンジの花が咲く木。


我が家の庭には、大きなキンモクセイの木がある。

2階のベランダに届く程成長したキンモクセイの木は、秋になると優しい香りを振りまいてくれる。

物心ついた頃には、キンモクセイは大きく成長していたので、優しい香りを当たり前のように浴びていた。

小学生の高学年になったころ、どこからともなくやってくる秋の優しい香りに気が付いた。

「ねぇ、ねぇ、この甘い香りは何?」

庭の掃除をしているおばあちゃんに聞いた。

「あぁ、これだよ。」

庭の端にあるひと際大きな木を指さして、おばあちゃんは言った。

「キンモクセイだよ。
 この時期だけ、オレンジ色の可愛い花が咲くんだよ。」

「そうなんだぁ。私、この匂いすき。」

「そう!お母さんもこの匂い好きだわぁ。」

この時から、キンモクセイの香りはおばあちゃんと過ごす庭の香りになった。

就職して東京に住み、
忙しくて季節の移り替わりさえ掴めない時。

帰宅するくらい夜道で香るキンモクセイが、何度も固まった心をほぐしてくれた。

キンモクセイの香りがすると、私は決まっておばあちゃんのところへ帰りたくなる。


気高い人
謙遜
真実

キンモクセイの花言葉だそう。

花言葉でさえ、おばあちゃんのイメージにしっくりくる。

私もおばあちゃんのようにキンモクセイの花言葉が似合う大人でありたい。

実家の庭を香りで埋め尽くす程に成長したキンモクセイの木。

あの大きなキンモクセイの木には及ばないけど、数年前に経てたマイホームの庭にもキンモクセイの木をお迎えした。

「ママー!この甘い匂い、なにー?」

「キンモクセイだよ。
  この時期だけ、オレンジ色の可愛い花が咲くんだよ。」

「そうなんだぁ。良い匂いだね!
 私、この匂い好き!」

「オレもー!」

「ママも、この匂いすきだなぁ。」

秋を迎えたころ、子供達とあの日と同じ会話をしている私がいた。

離れた場所にいても、心が離れてしまっても、
キンモクセイの香りが家族の絆をつなぎとめてくれる。

このキンモクセイの香りが、この日の思い出が、いつかこの子たちの心を救ってくれますように。

私がおばあちゃんにもらった優しい思い出のように。

あぁ、キンモクセイの花が咲く季節が待ち遠しい。


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