モスバーガーのポテト
子供の頃、おばあちゃんの買い物に付いて行くのが、私にとっての日常だった。
お母さんは妹たちを見るのに忙しく、お父さんは仕事で家にいない日が多かったので、おばあちゃんが連れ出してくれる買い物は一種のイベント!
遠くに行くわけでもない。
特別なお店に行くわけでもない。
ただ、近くのスーパーに歩いて買い物に行くだけの、良くある日常の風景。
そんなおばあちゃんとの暮らしの中で、私は、生活の知恵を学んだ。
おばあちゃんに付いてでかけたスーパーはいくつかあるけど、特に商店街の入り口にあったお店に通う日が多かった。
子供の足で歩いて15分くらいだろうか。
数メートルお気に入り小さな横断歩道と信号があり、車の行き交う道は、一瞬一瞬景色が移り変わる。
駅前の大通りを真ん中辺りまで歩いていくと、向かい側の道路沿いにスーパーがある。
ピッポー、ピッポーと青信号の音につられ、おばあちゃんと二人スーパーに向かって歩いてく。
店内に入ると、カートを押しながら料理に使う食材をカゴに入れていくおばあちゃん。
おばあちゃんの買い物はとてもゆっくり。
食材を手にとり、じっかり眺め、鮮度を確認する。
「このカレイ、大っきな卵がついとるわぁ。
今日は、カレイの煮付けにしようかなぁ。
お父さんが好きだけんなぁ。」
おばあちゃんが手に取る食材は、だいたい誰かの好きなもの。
自分が食べたいものより先に、誰かが喜ぶ食材を手に取る。
おばあちゃんの優しさが滲み出る瞬間だ。
ただ、おばあちゃんの買い物はとてもゆっくり。
店内を歩いていると、必ず知り合いに出会い、世間話が始まる。
「あら〜、ご無沙汰してます。
お元気ですか〜?」
こうなったら、買い物は終わらない。
私は、店内をウロウロして話が終わるのを待つ。
しばらくすると、レジに並ぶおばあちゃんの姿があった。
会計が終わると、おばあちゃんに教えてもらいながら、商品の袋詰めを手伝う。
「長話してしまってごめんねぇ。
ちょっと休憩して帰ろうかぁ。」
おばあちゃんの視線の先には、スーパーの向かいにあるモスバーガー。
「お母さん、ここのポテト好きだわあ。
ホクホクしてて美味しいがぁ。」
テーブルに運ばれてきたのは、茶色い籠に入ったポテト。
「熱いけん、気をつけて食べないよぉ。」
「あッッ、ふぅい!
でも、美味しいね!」
「てらちゃん、
お手伝いしてくれてありがとねぇ」
「お母さん(おばあちゃん)は、
お話するの好きだなぁ。
そんなに話すことあるだ?」
おばあちゃんは、いつものニコニコ顔で笑っていた。
「本当だなぁ。
でも、久しぶりに会った人や
顔見知りの人と話すると、
安心するんだがん。
あ〜、元気でよかった〜。
お母さんも元気でおって、
またバッタリ会えたら
お話しできるようにおらんとなぁ。
って思うんだわぁ。」
これが、
誰とでも仲良くなってしまう
おばあちゃんの魔法の正体だ。
側から見るとなんてことない会話でも、
心を温めてくれる時間になるのかもしれない。
「てらちゃん、そろそろ帰ろうか。
お土産にもう少し買っていく?
ポテト。」
「そうだね!
2人も食べたいよね」
妹たちへのお土産にポテトを買って、
おばあちゃんと2人、
いつもの帰り道を歩く。
お腹もいっぱい、
心もポテトのようにほかほかになる。
そんな、モスバーガーのポテトの思い出♩
優しさはいつでも温かい。