アメリカで日本人起業家を増やすために投資家として何ができるかを考える
この数週間、ずっと考えていることがあり、あまり考えが纏っていないのですが、その思いに任せて一旦、書いてみることにします。
きっかけとして、去年から母校の一橋大学の学生に対して、年に1回、VCに関する授業?レクチャー?をすることを始め(如水ゼミと言って卒業生がゲスト講師となり、現役学生にキャリア体験を共有する仕組み)、今年の回が先日、ありました。Zoomなので、学生の表情や反応が見えず、画面に向かって夜11時から深夜2時頃まで話をするのですが、先ほど学生からの感想文みたいなものが送られてきて、それぞれやはり感じることがあるみたいで、そのフィードバックを見ると、やって良かったなと思う訳です。
一方で、この現役の大学生が今後、どういうキャリアを歩むのかな、日本という国は次の世代に対して、どのような機会を与えられるのかな、とアメリカにいる自分としては思うことも多々あります。
日韓スタートアップ創業者コミュニティ
4月末にベイエリア在住の小林きよさん達に誘われて、以下の韓国と日本の起業家を対象としたミートアップにお邪魔しました。想像はしていたものの、確かに韓国からの起業家や投資家層は日本のそれよりも遥かに厚く、圧倒的な差を感じました。
原因は恐らく複合的で、色々な側面はあると思うのですが、Anyplaceのさとるが以下ブログで書いている通り、アメリカで挑戦する日本人起業家の量と質を圧倒的に増やす必要があると考えています。
上記ブログの中で、投資家に対する以下の提言もあります。これは耳が痛い話でもあるのですが、一方で人様のお金を預かっているVCとしては悩ましい側面もあります。
割り切った言い方をすれば、VCにしてみれば成功する、成功する可能性が高いスタートアップに投資をするのが命題で、起業家の国籍は全く関係ありません。GFRで投資を行なっている起業家も、過去の経験や実績等は多分に考慮に入れるものの、国籍や人種については考えたことも、議論の対象となったこともありません。
もちろん、特定の人種、特にunder-represented/underserved foundersに特化したVCも存在しますし、Unshackled VenturesやOne Way Venturesのようにimmigrant founderに特化したVCもあります。それが良い、悪いというのではなく、そのような特定の人種、国籍のfounderに特化したVCは数が少ない、という実態があります。
韓国人起業家に投資をするVCの存在
では、アメリカで挑戦する日本人起業家をサポートする投資家を増やすためにはどうしたら良いのか?もちろん、そのような思いを持つエンジェル投資家を増やす、というのはあるのですが、これは集団的な取り組みにはなり得ず、個々人の判断に委ねられることが多いと思います。一つ、事例として学ぶことがあるなと思ったのはアメリカで挑戦する韓国人起業家に特化して投資をするVCの存在です。
Primer Sazze PartnersというベイエリアベースのVCがあります。初めてその存在を知ったのは、数年前に投資を検討した、とあるゲーム系スタートアップの創業者がたまたま韓国系で、彼らの既存投資家として名前を聞いたのがきっかけです。その起業家から、そのファンドはアメリカの韓国系起業家のスタートアップのみに投資するファンドだと説明を受け、なんとまあニッチな領域に投資をするVCだな、と勝手ながらに思ったのを覚えています。
それが3年ぐらい前だったのですが、冒頭で書いた韓国・日本の起業家を繋げるミートアップで、そのファンドの創業者がスピーカーとして来ていたので、同イベントの運営を担っていたDatzにお願いをして紹介をして貰いました。Kiha Leeという方なのですが、すごく気さくな方で、2週間前にPalo AltoのPhilz Coffeeで1時間ぐらい話をしました。彼との話は多くの学びがありました。
まず、勝手にPrimer Sazzeはアメリカの韓国人起業家だけに投資をするファンドだと思っていたのですが、実態は韓国でも投資をしており、70-80%は韓国での投資、20-30%のみがアメリカでの投資で、このアメリカでの投資が韓国系起業家への投資に該当するとのことでした。そして、過去のリターンに関しては、韓国での投資が殆どのリターンを上げており、アメリカでの投資はリターンという観点では貢献が少ない、とのことでした。
イコール、韓国での投資では良い案件に入れているということだと思うのですが、Primer Sazzeの大きな差別化はやはりベイエリアをベースとしているファンド、というブランディングとのこと。アメリカに進出をしたい韓国の起業家にとってはPrimer Sazzeにぜひ投資をして欲しい、と思うようです。日本で言うWiLやDNX Venturesのブランディングに近いのかも知れません。実際に韓国の知り合いに聞くと、彼らの韓国でのreputationは相当、高いのだとか。
そのようなファンドを運営できる大きな理由の1つが、ファンドへ投資をする投資家、Limited Partners or LPの考えがあります。韓国は国をあげてスタートアップのグローバル化を進めており、KVIC(Korea Ventures Investment Corp、日本で言う中小機構に近い存在)やKDB Bank(Korea Development Bank、日本で言う日本政策投資銀行 or DBJ)といった公的機関が積極的に海外のVCにLP出資をしており、その大きな出資条件が韓国スタートアップ、もしくは韓国人創業者のスタートアップに投資をすること、になります。
例えば、とあるVCが100億円ファンドを立ち上げていて、KVICから10億円の出資を受けた場合、この10億円は必ず「韓国スタートアップ、もしくは韓国人創業者のスタートアップ」に投資をする必要があります。そう、覚えている人は覚えているかもしれませんが、これは一昨年に中小機構が発表したものとほぼ同じです。中小機構が求めるものは、海外VCに例えば10億円を出資した場合、その海外VCはその10億円は日本のスタートアップに投資をしなければならない、と言うものでした。
KVICの条件はもう少し緩く、彼らの場合は海外VCが、例えばアメリカベースなんだけど、韓国人創業者が立ち上げたスタートアップであれば投資をして良い、としています。ここで前述のPrimer Sazzeの話に戻るのですが、彼らのファンドの主要LPはこのようなKVIC、KDB Bankで、彼らが求める条件に沿って、アメリカにいる韓国系起業家に投資をしている訳です。
日本人起業家に投資をするVCを作れないか?
ここで勝手な提案は、アメリカ(だけに絞る必要はないのですが、日本外)で頑張る日本人起業家に特化して投資をするファンドを作りませんか?と言う提案です。起業家は起業家で頑張っている訳です。それに応えて、投資家は投資家で、できることをしませんか?と言う提案です。その為には2つの課題があります。
1つは、まずはそのようなファンドに出資をしてくれる投資家を集める必要があります。上記の中小機構やDBJがこの話に乗ってくれればとっても有難いですが(その為には上記のLP出資条件を緩める必要があるのだと思いますが)、個人の方、企業の方、機関投資家の方、このような方向性、方針に賛同してくれ、且つ実際にお金をコミットしてくれる投資家を募る必要があります。ファンドサイズは多分、$5Mあればスタートとしては十分で、$10M集まれば御の字です。ファンドサイズが大きければ、起業家をレイターステージに辿り着くまで支え続けることができるので良いのですが、最初から$50Mとか$100Mを集めるのは無理な話なので、まずは小さくても始めることが大事だと思います。
もう1つはそれを運営しているくれる人材=ファンドマネジャー=General Partner(GP)を探すことです。残念ながら、GFR Fundでその(仮称)日本ファンドを運営するのは、コンフリクトが発生するので難しいです。なので、新しく、できればフルタイムでそのファンドを運営してくれる人材を探す必要があります。ただ、これは1点目の投資家集めよりかはハードルは低いかもしれません。と言いつつ、悩ましいのは、通常、投資家はGPと言う人に投資をするので、ちょっと鶏と卵的な側面はあります。GPが決まらないと投資家も出資を決められない、と言う状況が発生する可能性はあるかもしれません。
何はともあれ、日本ファンドに出資をしてくれる投資家と、それを運営するGPが必要です。繰り返しになりますが、起業家は起業家で本当に頑張っています。日本を飛び出し、異国の地で、常に逆境と闘いながら、何とか生き残ろうと四苦八苦しています。それに投資家として応えたいな、とすごく思います。が、既存のGFRの枠組みではそれはできないので、全く新しい枠組み、新しいファンドを作れないかな、と妄想しています。
もちろん、(仮称)日本ファンドの立ち上げを目指す人が現れたら、僕の自由時間の120%を費やし、サポートします。曲がりなりにもGFRではこれまで3つのファンドを立ち上げていますし、ファンド設立や運営に関し、それなりの知見と経験は溜まっています。それは惜しみなく共有し、必要な投資家への紹介、サポート等はしたいと思います。
このような思いに賛同してもらえる投資家 and/or GPになりたい人がいたら、是非是非ご連絡ください。話しましょう! @TeppeiTsutsui