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ハムストリング肉離れの再発リスクを最小限に抑えるために目指すべき状態とは?


サッカー選手に多いケガのひとつにハムストリング(太もも裏)の肉離れが挙げられます。
このケガはスプリント動作時に引き起こされることが多いと言われています。そのため、そのような動作の反復が多いサッカーでは、ハムストリングの肉離れと隣り合わせといっても過言ではありません。

また、ハムストリングは肉離れが再発しやすい筋肉とも言われています。
そのため、トップアスリートにおいても試合復帰直後に再発してしまうケースは少なくありません。

トップ選手に限らず、学生アスリートやアマチュアアスリート、スポーツ愛好家の方々においても同じことは言えます。
むしろこのようなカテゴリーでやられている方々の方が、復帰後に再発してしまうことを多く経験されているのではないでしょうか?

その背景にはさまざまな要因が考えられますが、ひとつに不完全な状態での復帰が挙げられます。

今回のnoteでは、再発の危険性を最小限に抑えるためのいい状態とはいったいどのようなことなのか医学的知識をベースに解説していきます。

専門知識を噛み砕いた内容となっているため、選手や指導者の方々にも読んでいただき、復帰後に再発しない体作りの参考にしていただけたら嬉しいです。

なぜハムストリングは肉離れしやすい?

前述したようにハムストリングはスプリント動作で肉離れを起こしやすい筋肉ですが、その理由となる背景には大きく分けて以下の2つあります。

・形態(構造上)の問題
・動作中にかかる負荷量の問題

これらについて一つ一つ噛み砕いていきましょう。

|形態(構造上)の問題

ハムストリング(大腿二頭筋だいたいにとうきん半膜様筋はんまくようきん半腱様筋はんけんようきん)は羽状筋うじょうきん、平行筋と呼ばれる形状をした筋肉と言われています。
(※大腿二頭筋(長頭)・半膜様筋=羽状筋/大腿二頭筋(短頭)・半腱様筋=平行筋)

羽状筋は肉離れを起こしやすい筋肉とされ、ハムストリング以外にも肉離れを起こしやすい太もも前(大腿四頭筋だいたいしとうきん)やふくらはぎ(下腿三頭筋かたいさんとうきん)も羽状筋といわれています。

羽状筋・平行筋はそれぞれの特徴があります。

羽状筋は力の入るスピードは遅いもののより強いパワーを発揮できる特性がある

強力なパワーを発揮できる反面、パワーを発揮できるまでのスピードは遅いため、スプリント動作など素早く大きな力を求められる動きの際に肉離れしやすいのではないかと考えられます。

スプリントスピードとハムストリングの力発揮速度の関係性を研究した論文では

ハムストリングの最大筋力をより素早く発揮できる選手のほうがスプリントスピードも速い

参考文献「The Influence of Hamstring Muscle Peak Torque and Rate of Torque Development for Sprinting Performance in Football Players: A Cross-Sectional Study」

と報告しました。

スプリントスピードの向上に伴い、ハムストリングにはより素早いスピードでの伸縮(パワー発揮)が求められるため、肉離れのリスクも高まると考えられます。

|動作中にかかる負荷量の問題

スプリントスピードだけでなく、スプリント動作そのものがハムストリングへ強い負荷をかけると言われています。

ハムストリングが肉離れするきっかけは大きく分けて2つ。

スプリント型
スプリント中に足を大きく振り出した際に受傷
→過度にハムストリングが伸ばされた状態で怪我をする
ストレッチ型
スプリント中に足が過度に前方へ降り出して着地した際に受傷
→過度にハムストリングが伸ばされ、強い負荷(体重)が加わり怪我をする

この2つのタイプはスプリント動作におけるlate swing phase足を前方へ振り出す時early stance phase足を着地・片脚で支える時のタイミングで発症します。

late swing phaseにおいて、ハムストリングは大きく引き伸ばされます。
この際、大腿二頭筋(長頭)は110%も引き伸ばされます。そのほか半膜様筋は107.5%半腱様筋は108.2%引き伸ばされます。

実際にlate swing phaseにおける大腿二頭筋長頭にかかる負荷量を測定した研究では以下のように報告されています。

走動作中遊脚期後半(=late swing phase)の大腿二頭筋長頭に関して、筋腱移行部きんけんいこうぶ付近および腱膜付近の筋線維はより大きく伸長される。

参考文献「Musculotendon variability tissue strains experienced by the biceps femoris long head muscle during high-speed running.」

(※筋腱移行部とは、筋肉を骨に付着させるためにより強固なすじへ徐々に変化する部位のこと)

このことからスプリント動作中、ハムストリングは常に過度に伸ばされるストレスがかかり、肉離れの危険性が高いことがわかります。

early stance phaseでは、着地時に前脚が過度に前方へ流れないようブレーキをかけるよう股関節や膝関節を少し曲げた状態で固定しようとします。
トップスピードを速くするためには身体の重心を効率よく素早く前方へ移動させることが求められ、それには着地時に下半身の安定性(固定力)が必須となります。

  1. ハムストリングはこのタイミングで過度に引き伸ばされながらも最大限の力を発揮して下半身を安定させ、素早い重心移動に貢献してくれます。
    ハムストリングに限らず、肉離れは筋肉が引き伸ばされながらも力を入れた(負荷がかかった)際に発症すると言われています。

early stance phaseでは、肉離れにつながりやすい力の入れ方をするためストレッチ型の肉離れを起こしやすいと考えられています。

さまざまな背景からハムストリングは肉離れしやすいと考えられています。そのため、復帰を目指す上ではこれらのストレスに抵抗できるための状態に仕上げる必要があり、痛みが取れたからすぐに復帰するという考え方は非常に危険です。

一体いつまで休めばいい?-MRI結果をもとにした復帰に必要な時間-

ある海外の文献では、

同一シーズンにハムストリング肉離れを再発した選手の多くは、競技復帰までの期間が短いと報告しました。さらに、受傷後2週間以内の競技復帰は再発の危険因子の一つであると報告しました。

参考文献「Recurrence of Hamstring Injuries and Risk Factors for Partial and Complete Tears in the National Football League: An Analysis From 2009-2020」

前述したさまざまな負荷に対して耐えられる状態に戻すには、受傷時の状態(重症度)によってそれぞれ安静期間が必要となります。

|MRI画像診断による重症度分類

ハムストリングに限らず、肉離れ重症度の診断には医師によるMRI画像診断が必須です。
スポーツ現場などでMRIがない環境で肉離れの重症度を暫定的に推測するためには、当該筋を伸ばした際の痛み(伸張痛)の有無で推測します。
※伸張痛の有無に関わらず後日必ず医療機関へ受診し、医師による確定診断を受けましょう。

画像引用「肉離れの診断と治療」より

肉離れを起こしている筋肉のなかでも、その場所や傷の深さによって重症度が決まります。

type Ⅱの多くは大腿二頭筋に発症するといわれている

上記の分類は「どの部位に」肉離れが起きているか、そのタイプによって競技復帰までの期間を予測します。
その後「どの程度の傷の深さ」によっても復帰までの期間に差が生まれてくると報告されました。
特にtypeⅡ(主に大腿二頭筋)の肉離れは、その差が顕著だったと報告しています。

|重症度分類による競技復帰時期の予測

前述した重症度分類をもとに競技復帰までのおおよその期間を推測することが可能です。

typeⅡ 2度以上の場合、スプリント動作開始前にMRI画像診断にて状態を確認してから判断することが推奨されている

リハビリにおいては、これらの時期を参考に逆算してスケジュールを組んでいくことになります。

例えば、Ⅱ型2度損傷で医師から競技復帰まで6−8週と診断された選手がいたとします。
このような選手の復帰までのスケジューリングを以下のように想定します。

伸張時痛を消失させるにも状態に応じてケアしながらも患部へかかるストレスの原因を特定・改善させるためのリハビリが重要となる

type Ⅱの2度損傷(3度も含む)では、ジョギングまでは理学所見(患部の痛みなど)に応じて段階を進めていくが、スプリントや強いキック動作などはMRIで修復度合いを確認してから許可する

参考文献「ハムストリング肉離れ」

あくまでも大まかなスケジューリングですが、競技復帰まで1ヶ月半から2ヶ月と長く感じるかもしれません。しかし、それまでに達成しなければならない条件(前述の理学所見といわれる)が多々あり、円滑に復帰するためには意外と凹んでいる暇がなかったりします。

特に、伸張時痛は残りやすいです。ある程度の期間安静にして感覚的に良くなってもハムストリングの動きが硬いままで実際に負荷をかけると痛みが残っていることも少なくありません。

スケジューリング通り進めていくためにも状態に応じたリハビリが求められます。

ハムストリングの状態を確認するための

前述したようにハムストリング肉離れから競技復帰していくためには、段階的に設けられた諸条件をクリアしていく必要があります。

主観的にいい状態にあると感じていても実際にハムストリングへ負荷をかけると痛みが残っていることも多いため、復帰前には必ず確認しましょう。

適切な安静期間を経て、競技へ復帰する際の一定の基準はいまだ明確にはされていません。しかしながら、海外の研究ではハムストリングの柔軟性に焦点を当てたテスト(Askling H-test)に合格した人は、再受傷率が低かったと報告されています。
患部の痛み(伸ばした際の痛み・力を入れた際の痛み)が消失した上で、Askling H-testやその他のテストに合格(症状の陰性化)した状態を目指すことが、再発の危険性を最小限に抑えた状態での競技復帰につなげられると考えられます。

|収縮時痛の確認

後述する伸張時痛含め、肉離れの状態が良好であれば負荷をかけても痛みを感じることはありません。そのため、負荷をかけた際の痛みの有無を確認にすることは、ハムストリングの状態を確認する上で欠かせないものとなります。

このテストでは、実際にハムストリングに力を入れた際の痛みの有無を確認します。

|伸張時痛の確認

スプリント動作において、ハムストリングは伸ばされながら活動するため柔軟性も欠かせません。肉離れが完治していない状態や傷は治っていても柔軟性の低下から痛みにつながっている場合、反対足よりも可動範囲が低下していたり規定ラインよりも動かせなくなっています。

|動きの中での痛みの確認❶-Askling H-test-

競技復帰を目指す上では、動きの中でもハムストリングの状態を確認していく必要があります。このAskling H-testは、膝を伸ばしたまま股関節から大きく足を振り上げた際の痛みや違和感などの症状の有無を確認する方法です。

スプリント動作の中でもlate swing phase時にかかるハムストリングへの負荷と同様の負荷をかけることができ、トップスピードでのスプリントが行える状態か確認することができます。

海外の論文では、このAskling H-testで陰性(症状がない状態)にした上で復帰した選手の再受傷率は約1.6%であったと報告しています。

このテストが陰性になることを目指すことで再発の危険性を抑えられる可能性が考えられます。

|動きの中での痛みの確認❷-デッドリフト-

Askling H-testがlate swing phase時のテストであれば、このテスト(厳密に言えばテストというよりも基本動作での痛みの誘発があるか確認するもの)は、early stance phase時にかかるストレスを再現したものになります。

early stance phase時、ハムストリングは引き伸ばされながらも力を入れる必要があり、デッドリフトも同様な力の入り方で姿勢を保持しようとします。
そのため、この動作を通してスプリント時に求められるハムストリングの力発揮を行っても問題ないか確認することが可能であると考えられます。

Askling H-test同様に動作中に痛みや違和感の有無を確認します。

まとめ

今回は、再発率の高いハムストリング肉離れに対して再発の危険性を最小限に抑えられるであろう理想的な(良い)状態についてまとめました。

再発してしまう人の特徴としては「短すぎる安静期間」「柔軟性の低下」「痛みによるもしくは潜在的な筋力の低下」など不完全な状態で復帰してしまうことです。

スプリント動作そのものがハムストリングの肉離れに直結しやすいスポーツ動作といえます。そのため、競技復帰を目指す上で同じような負荷・ストレスを加えても痛みや違和感などの諸症状を感じない状態にしていく必要があります。

今回紹介したテスト方法は、簡便で誰でもできるようなものだと思います。いまの状態が適切なものなのかわからない方は、ぜひ実施して状態を確認してみるのもいいかと思います!

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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