東洋経済オンラインの特集記事に対する問題点の整理

 こちらの記事をご覧ください。
「東洋経済オンライン:特集「発達障害は学校から生まれる」第5回「発達障害児「学級に2人」、衝撃結果が広げた大波紋
文科省や都の調査に教師が反発した理由とは?」

 この記事を読んで、どうも一方的な方向から結論を導くように構成された記事であるように感じています。発達障害の専門家としてちょっとこの記事の問題点を整理したいと思います。

 まず記事が問題としている2002年の文科省調査ですが、調査の際、現場の一部から「レッテル貼りになる」と反対があったのは事実です。しかし、それは発達障害の概念を認めずに個々のニーズに応じた支援の提供の必要性を否定するもので、新しい障害概念を受け入れられない旧態依然とした感覚が背景にあります。これらに対して「認識を改めるよう」当時の文科省や専門家会議は調査の実施に際し強く現場に介入していったと聞き及んでいます。記事中に出てくる実名の方のコメントで申し訳ないのですが、「『手がかかる』で済んでいた子ども」という教員の言葉にそれが表れています。つまり以前は『手がかかる』で済ませていた(つまり放置していた)実態があり、それではダメだという時代の変化が要求されていたのです。

 2002年の調査結果や2007年の特別支援教育の開始により現場の認識が大きく変わり、一人ひとりの特性に教師の目が向くようになり、それに対する支援の必要性を現場が認識するようになりました。以前は十把一絡げにされていた子どもの多様性が重視されるようになったと言えるでしょう。
 その結果、10年後の2012年の調査で6.5%という結果が出てきた時には「いや、そんなものではない、氷山の一角だ」という声の方がむしろ大きかったです。またアメリカやイギリスなどでは特別支援教育のニーズを持つ子どもの割合は日本よりも高く、アメリカは約13%、イギリスは約15%です(文科省資料「諸外国における特別支援教育の状況について(令和元年9月5日))。日本の通常学級在籍率6.5%に支援学級・学校の在籍率約3%を加えて約10%と考えると、日本の文科省の調査結果は必要以上にレッテルを貼っているのではなく、かなり慎重であるといえると思います。

 また記事ではこの調査の方法についても触れられています。「75の質問項目に沿って子どもの言動を教師が評価する」と、なんだかすごく問題のあるような書き振りがされてますが、これは精神医学・心理学の分野では当たり前の科学的妥当性のある方法で、複数の評価項目を合算することで信頼性を確保し、さらに一定以上のカットオフスコアを設けることで誤差による過剰な診断を防ぎます。さらにこの調査では複数名で評価をチェックするということになっているので、教師個人が好き嫌いで判断しているようなものではないのです。

 さらに記事では“言動”と表現されてますが、これは本来「行動」と表されるべきもので、評価者の主観になりやすい子どもの内面を推測して回答するような質問(例えば「怒りっぽい」)を避けて、明確に観察可能な行動によるもの(例えば「聞きもらしがある」)を設定するというものです。
 そもそも、これらの項目は国内外の発達障害に関する研究から集められた妥当性の高いものです。たしかに一部の項目は、その後の研究で「本当に妥当なのか」と議論されたものもありますが、全体としての妥当性・信頼性は損なわれていません。

 これらのことから、今の学校現場が必要以上に発達障害とレッテルを貼っているわけはないこと、そしてその抽出方法に問題があるわけでもありません。その意味でこの記事はかなり一方向に偏っていて、何かしらの結論に読者をミスリードさせるようになっていると思います。

 たしかに発達障害の子どもが特別支援学級に転籍することは安易に行われるべきではありません。そのためには通常学級の中での支援体制の充実(授業のUD化の促進、支援員の拡充など)が図られるべきですが、支援学級在籍数の増加がイコールでインクルーシブ教育に逆行するものでもないと思います。これはフル・インクルージョンとモデレート・インクルージョンというインクルージョンの考え方の違いによるもので、これは発達障害に限らず、その他の障害にも関係することなので別途議論したいと思います。

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