素敵な本たち紹介(不定期開催)
期末レポート・試験期間に入ると決まって他のものが脅威的な捗り方をする。前回は料理にのめり込んでいた私だが、今回は読書。最近読んだ中で特に印象深かった2冊を紹介しようと思う。コロナウイルス関連の問題も相まって、心配事がごろごろ転がっている社会の中で、鬱々とした無力感と孤独を感じていた私を奮い立たせてくれた2冊だ。
1. 僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ ブレイディーみかこ著
優等生の「ぼく」が通う元・底辺中学は、毎日が事件の連続。人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。落涙必至の等身大ノンフィクション。ー書籍帯より引用
物語は、貧富の格差や人種差別問題等、複雑なトピックを内包するイギリスの元・底辺中学校に通う、著書ブレイディさんの息子さんの言動を軸に展開していく。一見ほのぼの系子育てエッセイにも見える本書だが、読んでみて全く違うことを実感した。ライトな文体ながら、イギリスのリアルな姿をこれでもかと言わんばかりにまざまざと写し出すのだ。
🌱本書が教えてくれたこと🌱
・「誰かの靴を履いてみること」はこの時代に無くてはならない考え方。
・違いや相容れない部分があっても相手を知り、理解しようとする姿勢の重要性。
ブレイディさんの息子さんとその友達を見ていると、ポリコレや様々な価値観の応酬でガチガチに強張った私の思考が柔らかくなっていくのを感じた。子どもたちが、日々多くの知識をスポンジのように吸い込みながら、荒削りながらも互いを知ろうとする熱い心と豊かな感性を持って関わっていく様子に、感嘆が止まらなかった。もしかしたら、子どもは、大人よりあっという間に隣人と、世界と繋がっていけるのかもしれんな・・・。感嘆のため息の嵐。
彼らを見守るブレイディさんのどっしりとした姿勢と、我が子への揺るぎない信頼も最高にロックでカッコ良かった。
本の中で息子さんが彼なりの定義として、エンパシーとは「誰かの靴を履いてみること」だと述べる場面がある。誰かや何かに共感する感情であるシンパシーとは違い、エンパシーは「他人の感情や経験などを理解する能力」のことを言う。勝手に湧いてくるシンパシーも大切だが、私はこれからを生きる者として、エンパシーにより意識を向けたいと強く思った。シンパシーに呑まれ疲弊しないように飼い慣らしつつ、エンパシーを育んでいきたい。感情として湧いてくる前者は時に、疲弊と無力感の根源になる一方で、後者は建設的なディスカッションに繋げられる能力だと感じるからだ。
イギリスのとある街にある中学校とそのコミュニティでの出来事でありながら、なぜか「他人事」とは思えない、今地球に生きる私たちが考えるべきこと、そしてそれらへ向き合うヒントが随所に散りばめられていたと思う。
2. サード・キッチン /白尾悠著
留学したアメリカで、初めて迎えた孤独な冬。尚美を救い、変えたのは、出身地やLGBTQ、経済格差など、あらゆる学生が集い運営する食堂<サード・キッチン>との出会いだった。−書籍帯より引用
尚美は言葉の壁によって孤独感や劣等感を感じながらも、自分が心地良いと思える場所<サード・キッチン>に出会うのだが、多様なバックグラウンドを持つメンバーたちと接していくうちに気付かされる内なる偏見・差別によって自己嫌悪に陥る。
これ、読書感想文の課題図書にして欲しい。多くの人に読んでほしい。切実に。もっと早くこの本に出会っていたら・・・と読みながら何度思ったことか!
🌱本書が教えてくれたこと🌱
・内なる偏見・差別に気づき自己嫌悪に陥るのは決して悪いことではない
・自己嫌悪に安住せず、それらを他者を知ろうとする材料に使うことこそ最重要
全編を通して、尚美の心情変化が繊細で、物語小説としても十分に楽しめた。特に言葉の壁で劣等感に苛まれる部分は、自分が留学していたときの歯痒さが手に取るように思い出されて、苦い気持ちになった。言葉の壁に阻まれ、イケてる同級生たちに時にバカにされながらも、乾いた笑いを携えて必死に仲間に溶け込もうと足掻く尚美。自分の無知・無自覚で人を傷つけたことを悩む尚美。自分の中に潜む偏見と差別を自覚し、そのジレンマで苦しむ尚美。どの瞬間も相手に誠実であろうとする尚美の根底には、他者への優しさと配慮がある。人を傷つけてしまうことに人一倍自覚的な彼女だが、歩んできた歴史や、過ごしてきた環境によって思わず相手を苦しめてしまう。私は彼女ほどの誠実さはないが、それでも共感する部分は多くあった。
本書では、後悔を"ものすっごく悲しい気持ち”と表現する。戻したいといくら思っても戻せない過去。消し去りたくなるような恥ずべき歴史。だからこそそれに対峙し、未来を変えていくことが必要なのだと、尚美を通して淡々と教えてくれる。
大学に入ってから、社会について自分の知らなかった多くのことを学んだ。その度に、自分の無知や偏見が他者をこんなにも無自覚に傷つけていたのか、と途方もないやるせなさと恥を感じた。こんな気持ちになるくらいなら、知ることをやめてしまいたいなぁと、学びに対して超絶ネガティヴモードになっていたのだ。本書はそんな私に、「それでいい。それこそがスタートだ!」と力強く背中を押してくれているような気がする。自分にとって心地良い場所の外へ、あえて飛び出していきたくなった。
改めて本を通して見えたことを整理できた気がする。また不定期開催しよう!
素敵な本たちとの出会いに感謝。
さあ、レポートあと1個頑張るかな・・。