【せたがや図鑑】 WARP HOLE BOOKS
せたがや図鑑で本屋について調べているりおんです。
今回は、尾山台にあるWARP HOLE BOOKSの黒川さんにお話をお伺いしました!
1.尾山台で本屋を始めたきっかけ
ーー生活者同士の距離感や雰囲気が理想的な尾山台
私の本業は本屋ではなくデザイナーです。
「作ったサービスをお客さんにもっと知ってほしい」「お店を始めるのでロゴを作ってください」といった、会社や行政からの依頼に応えることを仕事にしています。
2016年、尾山台で奥さんがピアノ教室を始めたことで尾山台が身近になりました。もともと目黒区に住んでいたのですが、当時住んでいた町はお店と人の距離感が「遊びに来る人と提供する人」といった関係性。でも、尾山台はお店をやってる人もそこに暮らしているし、お店に来る人も近くに暮らしている。生活者同士の関係性や距離感がいいなと思ったんです。
ーーまちの一員として仕事と活動を考える
尾山台を知ったきっかけは、タカノ洋品店という学校用品を扱うお店の3代目が高校の同級生だったからです。彼が商店街で色々やろうとしていたことを手伝う中で、尾山台に顔見知りが増えていきました。最初はほぼボランティアで、自分の技術がまちのために活かせるならいいかな?くらいの気持ちでやっていたんです。でもだんだん自分もまちの一員、当事者として物を作るのが面白くなっていきました。こういうロゴがあったらみんな楽しいんじゃないかと想像することは、クライアントさんから依頼をいただいてデザインをすることとは全く違う喜び、楽しさを感じました。
当事者として人に喜んでもらってみんなで嬉しくなる。そういう物作りもあるよなって思いました。もちろん予算があって、いついつまでに売れる物を作ってください!みたいなことも好きなので、その両側をやるのが楽しくなりました。
そこから尾山台のこと、地域に関わることを沢山やるようになりました。中でも代表的なのがおやまちプロジェクトという取り組みです。そのご縁でますます多くの方と一緒に活動するようになりました。これまで、まちですれ違っていただけの人とお話することが、とても楽しかったんですよね。まちには多様な人がいるので、まちの人の話を聞くってデザインのインスピレーションにもなるし、この人に喜んでもらうにはどうしたらいいかな?ということを考えられるようになって、仕事にも良い影響がありました。
ーー自分の子どもが育つまちに本屋さんがないことが嫌
尾山台のことをいろいろやってるうちに、どんどん尾山台のことを好きになっていくんですけど、一つ気になっていたのが「本屋さんがない」ということでした。僕は本屋さんがとても好きなので。時々、まっすぐ家に帰りたくないな、ちょっと本屋さんに寄って帰りたい...みたいな気持ちになるんです。例えば、仕事が上手くいかない時とか、自分の中をかき混ぜ直したい時とか。そういうふらりと刺激を貰える場所がまちにないのはすごく寂しいと感じました。
ちょうど子どもが生まれたタイミングだったこともあって、自分の子どもが育つまちに本屋さんがないのってちょっと嫌だなって思ったんです。欲しい本が決まっている人はAmazonで買うことができるんですけど、決まってない人が立ち寄れる本屋さんを作りたい…ということを尾山台の人と飲んだり会ったりしたときにはよく話していました。
本屋にしたこの物件は、もともと高級パン屋さんだったんですが、1年も経たないうちに閉店してしまったんです。それを見た時に、ここがパン屋さんじゃなくて本屋さんだったらいいなと尾山台の人たちに話していました。そしたら、ここの大家さん知ってますよという人が現れて、紹介しますねって言ってくださって。それまで散々欲しい欲しい!と言ってきたので、じゃあ自分でやってみようかなという感じで始まりました。
2.正式オープンまでの一年
ーー教えてもらいながら本屋さんを育てる
お店を借りたのが2021年の6月1日です。
本屋をやろうと思ったところまではよかったんですけど、仕入れの仕方も分からないし本当に何も知らないので、言ったら赤ちゃんですよね。本屋さんの赤ちゃん(笑)まずは練習が必要だって思いました。この店舗の狭さで、何をどう並べたらいいかもわかない。尾山台の人がどういう本が欲しいかもわからない。一年かけて準備するというコンセプトで、少しずつ少しずつ始めることにしました。
最初の月は掃除したり、次の月はフリマみたいに板一枚の上に十数冊で営業しました。それが二十冊、四十冊、百冊になり、店員さんが増えたり、営業日がだんだん決まって...そうやって、2022年の6月10日に正式オープンしました。
普段お店で働いているのは、東京都市大学の学生たちです。おやまちプロジェクトの活動で知り合った、本屋さんで働いていた人が本の並べ方とか仕入れ方とかを教えてくれています。何もわからずに始めたら、知ってる人たちが助けてくれたんです。普通だったら最初に作るロゴも、お店をやりながら、少しずつ作っていきました。ロゴはモグラのマークなんですけど、そのマークを見て「パペット人形でYouTubeをやりたい」って話で盛り上がってたら、常連さんが作ってくれたり、入り口にあるドアマットも近くに住んでる人が作ってくれたり。いろいろな人がつくりますよー手伝いますよーって言ってくれます。僕の感性でお店を作ってるというより、お店を開いてお話しながら、教えていただきながら本屋さんを育てています。
3.接客する時に意識していること
ーーお客さんとお話ができたらいいな
お客さんをあまりお客さんと思いすぎないことを意識しています。ご近所の方に会うという感じですかね。お客さんが来店した時も「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」って言ってます。本を買っていただくっていうよりお話ができたらいいなっていう気持ちが大きいです。本当はお茶とか出したいです。
さっきの話につながるんですけど、一緒に何かできそうな人を探しています。本のお話をしながら、「一緒に作りましょう」みたいなことは結構言ってるかもしれないです。写真撮るのが好きって言われたら「お店の写真撮ってください」とか。図々しいかもしれないけどそういう可能性を楽しんでいます。
他にもWARP HOLE BOOKS CLUBという会員制度があります。一緒にお店を作る仲間の集まりで、定期的にメンバーの方たちと会議をしています。例えば、このクラブをどうやって運営したらいいですか、なんてことをみんなで集まって夜8時から10時くらいまでしゃべるんです。こういうことをやってほしいとか、逆にそれはやらないでほしいとか。こんなグッズ作ってほしいとか、これから夏になるけどどういうフェアやったらいいですか??とか、みなさんと相談したりお話ししたりしています。
4.やりがい
ーーお客さん同士の出会いが嬉しい
本が売れたということ以上に、「この人とこの人が出会った!」みたいなことにやりがいを感じます。前にこのパペット人形を見て、お客さんに「私も編み物したいです」「どうやったらこういうのが作れますか、そういう本はありますか」と聞かれたんですけど、オリジナルなのでそういう本はありません。「でもどうしても作りたいんです」と言うので、パペット人形の作者さんを紹介したら、お2人が仲良くなってくださって。「来週の日曜日に2人で近くのカフェで編み物をします」と報告をしに来てくれました。「すご!そんなことあるんだ」と思いました。そういうのがめちゃくちゃ嬉しいですね。本も買ってほしいけど、それよりそういうことかな。
5.本屋さんを開いてみて感じたこと
ーー別世界というより地続きみたいな本がいいのかもしれない
思ってたのと違ったことはたくさんありました。それこそ、2021年6月に店舗を借りた時、事業計画として、お店をこうしたい!とか、完成イメージをいろいろ書き出しました。でも、かなり間違ってましたね。いきなり始めなくてよかったなって思います。
いろいろな地域の本屋さんに行って素敵だと思ったことが自分の中に残っていて、真似したい!あれやりたい!という気持ちで書いていたんだと思います。そういうのは全部違いました(笑)
最初は、作家性の高い、アート本がもっと必要とされると思ってたんですけど、そうでもないんですよね。まちの人がふらっと来るから、マニアックすぎず、かといって優しすぎず、日常から遠すぎないものがいいんだなとわかってきました。本は、私たちを別世界に連れて行ってくれるじゃないですか。始める前は、そんな別世界への扉をまちの中に作りたいというイメージがあったんです。ちょっとマニアックな本を置いて全然知らないところに連れていきたい!でも、マニアックな本ならワープできるのか?といったらそんなわけなくて、日常の中での小さな視点の変化をくれる本。そういう本が合っているようです。本当に別世界に連れて行かれちゃうと大変というか(笑)今と地続きにある本がいいのかもしれないです。
そういえば最初の頃は選書頑張らなきゃ、絶対知らない本置かなきゃ、もっと探さなきゃ!と、変な張り切り方をしていました。けれど、それもなくなりました。「この本ありますか?」って聞かれても全然知らないことも多いんです。そういう時は「どんな本なんですか?面白そうだし仕入れてみます!」とお話をして、実際に仕入れる。そんなゆるい温度感でやってます。最初の頃は「本ありますか?」「ないです」っていうのも心苦しかったんですけど、世の中にはたくさんの本がありますし、うちになくてもいいし、あってもいいしって思うようになりました。力が抜けてきたような気がします。
6.おわりに
今回、世田谷区の尾山台にある本屋WARP HOLE BOOKSの黒川さんに取材をさせていただきました!貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
インタビューを通して、黒川さんは優しい雰囲気を持った親しみやすい方だと感じました。訪れたお客さんに本があるかどうか聞かれた時に「面白そう!仕入れてみます」とお答えしていたことが印象的で、その柔軟さがこの素敵な場所を作っているのだろうと思いました。
インタビューをする前に本屋さんが好きかどうか黒川さんに質問されて、「旅行先でも本屋に行って、母親から観光地のどこよりも本屋にいる時が元気だねと言われたことがある」と答えたら共感してくださって嬉しかったです。
小さい町だった自分の地元にも本屋さんは当たり前のように何軒かあったので、暮らしている町に本屋さんがないということは私には想像ができません。そんな中実際に本屋さんを開き、地域の人たちと共に作り上げていった黒川さんの行動力はいくら本屋さんが好きとはいえ到底真似できないことだと思いました。
本当に素敵な本屋さんだったので、またお伺いして今度はゆっくり過ごしたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。みなさんにもぜひ訪れてみてほしいです!
○WARP HOLE BOOKS
〒158-0082
世田谷区等々力2-18-17 神谷ビル103
営業時間:毎週金土日祝日 14:00〜18:00(最終金曜日は14:00〜21:00)