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バタを買います

先日、夫が「どんだけ!!」と叫んだ。
そして、その数時間後に私も同じように叫ぶことになったと書いた。

これには理由がある。

昨年の秋、5年ビザの有効期限が切れるので、更新手続きが必要となった。次は10年単位で自動更新されるビザ(permanente)への切り替えになると聞いており、10月から準備をしてなんとか申請を済ませた。


さて、12月の中頃、警察署からメールが届いた。

申請したビザについての通知だ。

favorableと書いてある。

これはいいことだ! この通知を持って警察署に来てくださいとある。

幸運なことに数日後の予約が取れたので、当日は朝ごはんもそこそこに鼻息荒く警察署に向かう。

もう一度書いてみるが、今回の更新はこれまでの5年ビザ(temporal)の有効期限が切れるので、今後は10年単位で更新でき手続きもうんと楽になるというビザ(permanente)に変更することだった。

警察署の前で名前が呼ばれるのを待つ。

部屋に入り、パスポートと書類を手にわくわくしながら新しいビザを待つ。

「はい、結果オッケーって本部から連絡が来てるわ。よかったな。5年のテンポラルビザを発行するわな」

聞き間違えたかと思い、もう一度言ってもらう。

何度聞いても、私が今回もらえるのは5年のテンポラルビザだと言う。

それはすでに持っているのだ、今回はその5年のテンポラルビザの有効期限が切れるので、次は自動的にペルマネンテの10年になるはずですと言ってみる。

「わかるわかる、君の言うてることはわかるで。理屈はそうなるはずや。でもな、本部からの連絡で5年て書いてるねん。だからわしらもどうにもできひんわ」

このあたりで、ああここはスペインだったことを思い出し始める。

去年は日本に帰れなかったため戸籍謄本やらを日本から取り寄せ、翻訳し、弁護士さんにも相談したことで1000ユーロぐらいかかった今回の更新、次はもう自動更新だからと思っていたのだが、また5年後に同じことをやるのかと思うと、そしてまた1000ユーロかかるのか? と思うと、何としても今回10年ビザにしてもらわないといけないと思う私がいる。

もう一度調べてもらう。

「あ、あれや君、申請日が早すぎたんちゃう? これ有効期限が切れる前に申請してるやろ。だからちゃうか」

そんなはずはない。何度も読んだ申請プロセスの用紙には、有効期限が切れる少し前から申請可能となっている。逆に遅すぎてはだめなのだ。

「そやな。そしたら、あれか、君なんか書類に不備があったんやろ」

スペインなので、あくまでも私のせいである。

「まぁ君さえよければ、今日5年ビザ発行できるで? しとく?」

甘い誘いに乗ってはいけない。

「失礼を承知で申し上げますが、仮にですよ、仮に。先方が間違っている、なんて可能性もあったりしますか……?」

「まぁそりゃあるかもしれんな。でも多分そんなはずないで。どうする? 5年いっとく?」

まるで、ライス大盛いっとく? のような言いぶりに、笑いそうになるが、笑い事ではない。

ちょっと考えたい旨申し出て、本部に確認する手段はあるか聞いてみる。

「あるで。メールや。電話はな、わしらがかけてもでーへんから無理や!」

おじさんのぼやきのような返事に、そうか彼も本部からの連絡を私に伝えているにすぎないわけで、もし私を助けたくても(そんな風に思っているかはわからないが)助けられないのだなというもどかしい状況が感じられた。

「とりあえず、メールしてみ。返事来るかわからんけど、ダメもとや。それで、5年しかあかんて言われたら、もっかい帰ってきたらいい。また5年ビザ発行したる」

意気揚々として出かけた朝だったが、警察署を出るころには足取りが少し重かった。しかし、何回も確認したプロセスと提出書類のことを思うと何か不備があるとは考えにくい。地元の人からの在住証明(応援メッセージ)も提出したのだ。みんなにどう報告しようか。

帰ってすぐに本部の警察署にメールを送ってみる。こういう正式な文書をスペイン語で書くのは、そして宛先が警察署、テーマがビザ更新となると普段よりも神経を使うのであるが、神経を使ったところで私のスペイン語がレベルアップすることもないので、丁寧に書くといっても限度がある。内容が伝わればいいことにしよう。

何とかメールを送って、一息入れようとお茶の準備をする。

20分後、お茶とビスケットを持ってパソコンの前に座ったら、
スペイン語のメールが一通届いていた。

Efectivamenteから始まっていたそのメールは、

10年のところを間違えて5年てしてた」とあった。

先日、夫はスペイン人とのミーティングが永遠に始まらない、終わらないことで叫んでいたが、私の叫んだ『どんだけ!』には、こういう経緯があったのだった。

「ごめんで済んだら警察いらんで」
小さいときそんなことを言われた記憶があるが、今回は相手が警察であり、スペインだからもちろんごめんはないのである。

でも、こんなに早くスペインの役所からメールの返事が来ることはまずない。おそらく私のメールを読んだ人は

「あ、やっば! 間違えた」

と思って急いで返事を書いたに違いない。

そうである、つまり向こうの間違いであった。

なので、おそらく私は10年のビザをもらえるのである。

5年いっとく? の誘惑に負けなくてよかった。

それからしばらくして携帯にもメッセージが届き、改めて書類を送りなおすから、届いたらもう一度地元の警察署に行くようにと書いてあった。

地元の警察署に報告のメールを送る。

こちらもすぐに返事が来た。

「Efectivamente。僕らも今読んだわ、間違いやったらしいな。明日来れる?」

明日は仕事だから行けません、と言うと、じゃあもう年明けまで予約とれへんでと返事が来た。

そんな脅しには負けるまいよと思い、年明けに予約を取り直した。

その予約が一昨日である。

氷点下となった朝、眉毛とまつ毛を凍らせながら警察署に向かう。

「今度こそ、10年ビザがもらえるんですよね?」

「そやそや、よかったなぁ。いうてみるもんやな」

おじさんはこの間より笑顔が増えてうんと優しかった。

手続きもスムーズに終わる。

「でな、今日はビザまだあげられへんねん。手続きに45日ほどかかるわ。ビザできたら、メールするからそしたら取りに来てな」

45日。

もうなんでもいいのだ。とりあえず無事に更新できたことがわかったので、一安心である。

「レジェスマゴス(東方の三賢者)のプレゼントみたいですね!」

「なぁ! ほんまに!」


というわけで、無事にビザ更新ができたと言えそうです。

まだビザは手元にないけれど、マリアさんたちと約束したバタ、もう購入してもいいのではないかと思っている。

こうなったら、前に宣言したとおりなるべく派手なものを買うのだ!!

やー!


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