吉田修一・著『国宝』を読んで歌舞伎役者の夢を共に追う
七代目菊五郎の『100年インタビュー』では歌舞伎に何が大事かを知りえたが、映画版の主要キャストが情報公開された吉田修一の新聞小説『国宝』には歌舞伎役者の生涯が描かれていて興味深かった。
小説では歌舞伎囃子の雪をイメージさせる「語り調の文体」でドロドロを鎮めているが、朋友のライバル(横浜流星)は才も熱意もありながら(吉田修一の作品らしく)幸せにはなれず、小説の結末に至っては、歌舞伎舞踊を極めようとした主人公・喜久雄(吉沢亮)の姿が、80年代の終わりに流行ったフランス人監督の映画を彷彿とさせる。
私は父性を感じたくて歌舞伎を見るようになったのだが、舞台の上で死臭のむんむんする役柄を生きている歌舞伎役者たちを日々の現実の世界に繋ぎ止めている物は、父性であり、伝承だと思うに至った。『国宝』の主人公は女方で、実の父親を目の前で亡くしている点も意味深である。
著者は執筆にあたり、中村鴈治郎の黒衣として舞台裏での取材を続けたそうだ。
小説には舞台中の通路や奈落で交わされる会話が生き生きと描かれている。とても、好きだったが、映画の主要キャスト12人の中に長崎の幼馴染、兼、歌舞伎座での付き人・徳次の名前がないところを見ると、映画は任侠の息子だった喜久雄が大阪に逃げ、弟子入りした上方の歌舞伎役者・花井半二郎(渡辺謙)の家族(寺嶋しのぶ)とのドラマが中心になるのかなぁと思っている。映画の公開が楽しみだ。