すべて灰色
急な雨に備えて窓の外ばかり見ている。
洗濯物を取り込むタイミングを見計らっているのだ。
夏の尻尾がそこらじゅうでとぐろを巻いている。
たまに立ち上がっては雲を膨らませて雨を降らしている。
そんなことがあるから外ばかり見ている。
そわそわしながらも退屈な僕は、庭の外壁の向こうを背伸びして
見てみたりしている。道の向こうにカラスが死んでいる。
ついばんでいた気配の木の実がコロリ横で寝ている。
少し考えた後、荷物を揃えて外に出ることにした。
少し先の空き地にスコップを抱えて妻と出かけた。
雨はここで降り出した。
植物が生え放題のそこは掘ってみると岩ばかりで全く穴にならない。
傘をさしているのももどかしくなり、びしょびしょで構わなくなる。
そこらじゅう掘り返してみるが理想の穴とは程遠いので諦めることにした。少しカラスの方に歩きながら考えた。川に流そう。
木の実が寝ている横に車をつける。車の後部座席にとっておいた包装紙の束を広げ、道からカラスを拾い上げ寝かすようにそっとおいた。
亡骸を観察する余裕はなく残りの包装紙で包んだそれは
とうもろこしと全く同じ大きさで、重さだと思った。
ワゴン車にスコップにビショビショの夫婦。
なぜか取り巻く少しの興奮に押され頭の中で「これはまるで犯人のようではないか」と確認はしなかったが同時につぶやいた。
こんな車の運転は初めての経験だった。後部座席に最低限のおくるみで横たわる新生児を乗せた運転のようだった。入り口に立ったそれと、出口を出たばかりのそれを一緒にしていいかはわからないがあまりにも近い感覚なのだからしょうがない。他愛もない会話も出ない車内で得体の知れない蒸し暑さを我慢しながら大きな川に向かった。娘を保育園に送り迎えする道も景色が全くかわって見えた。川横のパーキングに車を止め、段取りも相談していないのにスムーズな殺人犯夫婦は殺したとうもろこしを大事に抱えすっかり雨のやんだ蒸し暑い川岸の草むらに降りた。川にそっと流し入れられるほどの都合よさはなく初めて妻がどのように投げ入れるか?で戸惑っているのが見てとれた。体の向き、放り方、その後の足位置を小さくレクチャーし、せーので川の深めの箇所に投げ入れた。その黒くてとうもろこしのような大きさの重さの死体にはもうすでに魂は入っていなかった。
その証拠によくぷかぷかと浮かんだ。ちょうど夕陽が向かう方向に流されていった。妻が川辺で摘んだ花を後から投げ入れたが届かなかった。
逆光で光の色と黒色だけの景色を二人で少しの間ボーッと見ていた。
「まるでガンジス川みたいだね」
と言ったのが僕だったか妻だったかは忘れてしまった。
すっかり雨の止んだいつもの道で娘を保育園に迎えに行った。
楽しそうに今日の出来事を話す娘はとても可愛かった。
帰り道、とうもろこしが死んでいた場所を通ると、横でコロリと寝ていた木の実が残っていた。紫色だと思い込んでいた木の実はどこにでもある緑色で、事件の証拠を残さずその場にコロリ寝転がっていた。