ショートショート「みんなで動かない」
「もうちょっとそっち行ってよ」
「むりだよ、こっちも詰まってる」
「そっちは?はしっこ空いてるんじゃ無い?」
「パンパンだよ」
真っ暗な部屋がゆらゆらと揺れる。
いい匂いが充満している。
「あんまり動くなよ、せっかくお母さんが綺麗に並べてくれたんだから」
ぼくらの階下から声がきこえた。
「あいつ、えらそう」
「自分が主役だと思ってんだよ」
「うそだろ、一番の引き立て役じゃん」
「喧嘩するなよ」
キキーッと甲高い音がしてぐわんと部屋がひっくりかえりそうな程に揺れた。
「ふんばれ!汁をこぼすな!」
「みんな動くな!がんばれ!」
「うわ、つぶれる!」
大騒ぎだったがなんとか耐えた。
揺れが落ち着いた。
ぼくらは静かにその時を待つ。
長い時間が過ぎた。
「そろそろかな?」
「そうね、緊張してきた」
つぎの瞬間、天井がガバッと持ち上がった。
あたりがパッと明るくなり、こもっていた空気がスッと抜けた。真っ黒な大きな瞳がふたつ、僕らを覗き込んで言った。
『弁当めっちゃ寄ってる!』
(完)
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たはらかにさんの「#毎週ショートショートnote」に参加しました。今週のお題は「みんなで動かない」です。