お腹を出してみたものの
それはおやすみ前のちょっとした、くつろぎ時間のこと。
いぬうた市の、きゅん君は自宅の2階の寝室のベッドの上で、
ママに甘えていました。
頭を撫でられたり、耳を揉んでもらったりして、
すっかり気分が良くなった、きゅん君、
これはいよいよ次はお腹をいっぱい撫でてもらおうと、
目をつぶって仰向けになりました。
しかし、しかしです。
いくら待っても、ママの手がお腹にきません。
あれ、おかしいな?
と思って、横にいるハズのママを見ると、ママは、
きゅん君を撫でて、疲れたのか?
寝落ちしてしまっている様子です。
何だ、ママ、寝ちゃったのか。残念だな。
と、仰向けのまま、きゅん君、ガッカリしていると、
ふと、ママのいる場所とは逆方向から、
強い視線を感じ、そちらの横を見ると、
ぐーちゃんが今までの、きゅん君の様子を見ていたようで、
その、きゅん君と目が合うや否や、
にんまりと笑ったのでした。
そんな、ぐーちゃんを見て、自分が今、
仰向けでいることが急に恥ずかしくなった、きゅん君は、
「あーあ、疲れた。疲れた。さてそろそろ寝るとしようかな」
と言って、とりあえず伸びをして、ごまかしました。
しかし、時すでに遅く、そんなことでは、
ぐーちゃんのことはごまかせられません。
それどころか、そこから、ぐーちゃんの追及が始まります。
「きゅん。ダサいわ。あまりにもダサいわね。ママにお腹を撫でてもらおうとしたのに、そのママはもう寝ている。それに気付かず、しばらくの間、ずっとお腹を出して、ニヤニヤとママの手を待ってた、きゅん。あまりにもダサすぎるわ」
と、きゅん君のニヤニヤはとうに終わってしまいましたが、
今度は、ぐーちゃんがニヤニヤする番のようで、
そのニヤニヤが止まりません。
やはり見事にその、きゅん君の恥ずかしい行動の、
一部始終を、ぐーちゃんは見てたんですね。
確かに、ぐーちゃんのおっしゃる通りです。
しかし、きゅん君も素直にそれを認めるのは、
恥ずかし過ぎるようで、必死に抵抗を試みます。
「バカなことを言うもんじゃないよ。ぐー。僕がそこまでしてお腹を撫でてもらいたい訳ないじゃないか。そりゃ、ママに撫でられるのは嬉しいけど、そこまでおねだりしてまでするもんじゃないよ。だって犬が仰向けになるということは、あなたの好きにして下さい。っていうことだからね。だからよっぽどのことがないと仰向けなんかしないさ。仰向けの安売りは絶対ごめんだね」
と、きゅん君、渾身の弁明をすると、
「そこまで、きゅんが言うんだったら、今回は、ぐーの見間違いかも」
と折れてくれて、
きゅん君、ふー、何とか助かった。
と息を撫で下ろした、その束の間、きゅん君を中心として、
ぐーちゃんと逆方向の横にいるママが、
ムクっと、起きた気配を感じ、
「あっ、ママが起きたー!ママ撫でてー!」
と、反射的にまた仰向けになる、きゅん君なのでした。
ついさっき、仰向けの安売りは絶対しない!と言った、
舌の根も乾かぬうちに。
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