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掻きたい場所が掻けない

いぬうた市の空の下、のんびりとした空気が漂っている、
住宅街の中で、突然叫び声がしました。
「かゆいー!でも足が届かないー!一体、僕はどうしたらいいんだー!」
あっ、これは、きゅん君の声ですね。
きゅん君、何があったんですか?
「どうもこうもないよ。急に背中が物凄く痒くなったんだよね。でも掻こうにも、僕の足が届かない場所なんだよ。前足でも後ろ足でもさ。あともうちょっとで届きそうなんだけど、これ以上がんばったら、関節外れちゃうし、こうしている間もどんどん痒みは増してくるし、僕はどうすればいいっていうの?」
と言いながらも、何とか前足、後ろ足を駆使して、
背中を掻いてますが、問題の場所には届いてないようです。
ならば、こうしたらいいんじゃないですか?
今、ちょうど寝室のベッドの上にいますよね。
シーツはタオル地でだいぶ毛羽立っていますから、
そこに仰向けになって、背中をこすりつけたら、
いいんじゃないですかね。
「あっ、それはナイスアイデアだね。早速やってみるよ!」
と、おもむろに仰向けになり、背中をくねくねさせながら、
痒みの場所をシーツにこすりつけ始めた、きゅん君です。
どうです。きゅん君、痒みは解消されましたか?
「そうだなあ。だいぶいい線いってるんだけど、まだ痒みは取れないなあ。何というか、今ひとつパワーが足りないんだよなあ」
そう言って、更に背中をシーツに押し付けますが、
納得がいかない表情の、きゅん君です。
だいぶしつこい痒みなんですね。
それは困りましたね。
でもこれ以上の策はなくお手上げ状態なんですけど。
てなことしていると、今まで何処かにいた、
ぐーちゃんが、きゅん君のいる寝室にやって来ました。
「何か、バタバタとうるさい音がすると思えば、やっぱり、きゅんね。何をバカみたいに、のたうち回っているの?」
ぐーちゃんは、まだ、きゅん君がベッドの上で仰向けで、
背中をこすりつけているのを見るや否や、
開口一番こう言いました。
「バカみたいとは何だ!バカみたいなのはこの僕の背中の痒みだ!そんなこと言うんだったら、この痒いのを何とかしてくれ!」
きゅん君は、ぐーちゃん曰くの、
のたうち回りながら言葉を返します。
「そうね。何だか見ていられない程に哀れさが漂ってるから、ここは、ぐーが背中をかいてあげるわ」
それはよかったですね。きゅん君。
最初から、ぐーちゃんに頼むべきでしたね。
「ぐーがもっと早くくれば、僕はこんな目に合わなかったんだよ。ああ、気持ちいいー!そこだ!そこだ!ぐー」
早速、ぐーちゃんの前足で背中を掻いてもらいながら、
憎まれ口は忘れません。
けど、言葉と裏腹に大変気持ち良さそうな、きゅん君です。
じゃあこれでめでたしめでたしですね。
今度、ぐーちゃんが痒くなった時は、
きゅん君に掻いてもらえますし。
「ううん。ぐーは大丈夫よ。ぐーは例え痒くなっても、きゅんの足なんか借りないわ」
えっ、でも、ぐーちゃんの足が、
届かない場所だったら、どうするんですか?
「その時は、ぐーはお眠りして、ぐーの夢の国の支配人さんに掻いてもらうの」
ですって。

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