機械翻訳の時代に英語を学ぶ意味とは
昨日、twitterでこんな投稿を見かけた。どうやら次の問いを間違える人が40%以上もいるらしい。
次の2つの文が表す内容は、「同じ」でしょうか、「異なる」でしょうか。
「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」
当然ながら内容は「異なる」。
第1文は「幕府」が主語であり、「追放する」と「命じる」が動詞である。「追放」の目的語は「ポルトガル人」。「命令」についてはthat節を取っており、that節内の主語と動詞はそれぞれ「大名」と「沿岸の警備」である。
第2文はヘンテコな文である。結論から言えば、日本語の特性として「される」の表現には受動態と尊敬の2つの意味があり、どちらで解釈するかで文章全体の主語と目的語を入れ替えてしまうことにある。受動態だ!と思いこみ解釈をする人と、尊敬だ!と思いこみ解釈する人で、文の解釈がまるっきり変わってしまうのだ。
つまり、「ポルトガル人は追放され」の部分は、
受動態解釈
主語=誰か、目的語=ポルトガル人、動詞=追放する
尊敬(要は能動態)解釈
主語=ポルトガル人(尊敬対象)、目的語=誰か、動詞=追放する
の2つが生まれる。後半についても、
受動態解釈
主語=大名、目的語=[S=幕府、V=沿岸警備]、追放する=動詞
尊敬(要は能動態)解釈
主語=幕府(尊敬対象)、目的語=[S=大名、V=沿岸警備]、動詞=命令
となる。尊敬解釈の時は「大名から」という表現を脳内で勝手に「大名に」とぼやかしている。
機械が翻訳してくれる時代で英語を学ぶ意味とは
中学校や高校で英語を学習すると思うが、そこでちゃんと「英語を学ぶ理由」を教えてくれる先生は数少ないと思う。ありがちな理由は「将来英語が話せると仕事の範囲が広がる」である。要は「実用的だ」と言うことだ。だが、そもそも英語を使用しグローバルに働きたいという人ばかりではないし、将来的に英語を話す予定のない人は目的を失うだろう。勿論シンプルに考えて「英語が話せること」は1つのアドバンテージなのであるが、英語が話せるために勉強する、というのはいささか手段の目的化なのではと思う。
英語を学ぶ意味を「ちゃんと」教えてくれた先生が1人だけいる。英語の先生ではなく、現代文の先生だったが。
自然言語処理が発達し機械が翻訳をしてくれる時代が到来しつつあるが、それによって「英語」を学ぶ目的が喪失したわけでは全くない。そもそも君たちは「英語を話せるために」英語を勉強しているわけではないのだ。英語を学ぶ目的は2つある。1つは自身の言語を相対化し言語表現や文構造を分析すること。もう1つは「言語化」という、事象に対する避けられない具体化がどういうものか、別な言語による言語化を経験して理解することである。つまり英語を学ぶ目的は「日本語を理解するため」である。日本語で正しく表現し、情報を伝えるためには「英語の学習」が必要なのだ。
私たちが日本語でどのように情報を伝えているのか、メタから見るためには「英語」が必要なのである。また、日本語による言語化がどういうものかを理解するためにも、別な言語による言語化を経験する必要があるのだ。これが機械が勝手に翻訳してくれる時代に英語を学ぶ意味だと思う。
日本語に生きる、英文法の授業
よく、英文法の授業は日本の英語教育の問題点として叩かれることが多い。確かに英文法は「みんなそう話してるから私もそうする」の集大成であり、一種の法則に過ぎない。自然発生的に話されている英語の共通部分を後から取り出しただけである。あたかも「文法によって英語が出来上がっている」かのような誘導は、英語を難しく感じてしまう要因の1つかもしれない。だが今になって、日本語を話すシーンに英文法の授業は非常に生きていると感じる。
例えば、受動態と能動態の入れ替えである。日本語は受動態が使いやすい言語であり、特にビジネスシーンなどで「表現を丁寧にしつつ誤魔化したり」する時に多用される。だが、そのような文章は混乱を生じることが多い。なぜなら受動態で表現するとき、能動態に入れ替えた時の主語(要は本来の主語)は「by S」で処理されてしまい、これが省略できてしまうからである。つまり、例えば
組織内における透明性は向上されるべきだ。
など。「具体的に誰が取り組むのか」、主語が省略されているため意味のない文章になっている。こんな文章書かないよと思うかもしれないが、実際たくさん転がっている。能動態の文章を使えば問題ないため、日常では能動態を多く使用するようにしている。表現がダイレクトすぎると言われることもしばしばあるが。
そんな「英語の学習が日本語に生きている」ということを、頻繁に日本語で難しいことを考え言語化するようになってから、恩恵という形で感じている。英語そのものの勉強も継続しているが。
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