ラオス・タイ イサーンを歩く旅 5
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サコンナコーンという田舎町にいる。
これといってやることもないので、宿の前の商店でコーヒーを注文し、
店に置いてあった店主のおっさんのギターを弾かせてもらったりしてだらだら過ごす。
夜8時過ぎ、お腹が減ったのでレストラン探しに町に出るが昼間通りかかった店が軒並み閉め始めている。
仕方なく近くのパン屋でパンと、コンビニでビールとおつまみを買って部屋で過ごした。
田舎の夜は早い。
サコンナコーンからナコーンパノムを目指す。
メコン川沿いの町。ラオスとの国境の町だ。
そう、またメコンに再会するのだ。
何回目の再会だろう。
サコンナコーンのバスターミナルからナコーンパノム行きのバス。109バーツ(400円)。
当然のように今回もロットゥー(乗り合いバン)かと思って待っているとめちゃくちゃ快適な2階建ての観光バスが目の前に停まった。
どうやらタイ北部のチェンマイから900kmの距離を夜通し走ってきたバスらしい。
おれが乗るのは終点のナコーンパノムまでの最後の100km弱の区間。
快適な長距離バスでの短距離移動。
1階の乗客はおれひとり。足も伸ばせて快適だった。
メコン川と寺院の町 ナコーンパノム
サコンナコーンからナコーンパノムまでは1時間半で着いた。
バスの降り口で待ち構えていたトゥクトゥクに乗る気にならず、20分ちょっと歩いて町に向かった。
ナコーンパノムの町はノンカーイと同じようにメコン川沿いに集中している。
そしてやっぱりノンカーイと同じように川の目の前には市場があって、その前はのんびりとしたウォーキングストリート。
カフェやジュース屋台が並んでいてのんびりしている。
イサーンではこのナーガの像をよく見かける。
イサーンに伝わる神話で、
昔、ナーガの怒りを買って滅ぼされ、湖の底に沈んだ王国がイサーンにあったと言われている。
インド神話では釈迦が悟りを開く時に守護したのがナーガだと言われていて、仏教国タイでも守護神として人気があるみたい。
イサーンではナーガの像に手を合わせる人たちが多い。
夜になるとやっぱり川沿いにたくさん屋台が出る。
ノンカーイよりはこじんまりとしていたけど、人は多く集まって川沿いでのんびりと過ごしていた。
久しぶりに川のある町に来てみると、やっぱり川があるというだけで雰囲気が明るく、時間の流れが穏やかな感じがする。
このまま、また内陸に戻るつもりだったけど、川沿いに南下してもう一つメコン川沿いの町ムクダハーンにも寄ってみることにした。
やっぱりメコンはいいなあ。
ラオス、ベトナムへの玄関口 ムクダハーン
ナコーンパノムからロットゥーメコン川沿いに南へ2時間行ったところにある町ムクダハーン。
連日のロットゥーの移動も我ながら板についてきたと思う。
ファンが温い空気を掻き回す長閑なバスターミナルで、屋台で買った甘ったるいコーヒーや肉まんをつまみながら現地人たちと一緒にだらーっと座って待ち、
定員オーバーのロットゥーに乗って現地人たちと肩膝をくっつけ合いながら移動する。
イサーンの風景に混ぎれ込めているような気がして気分は最高だ。
現地の人のふりをする、というのがいつもおれの旅の大きな目的なのだ。
ムクダハーン、メコン川のすぐ近くに取った宿はエレベーターがあるような立派なホテルだった。
5階の部屋の前たどり着くと、清掃のおばちゃんたちが大声でおしゃべりをしながら部屋の清掃をしていた。
おれがルームキーの部屋番号をみせると、スイッチが切り替わったみたいに動きが素早くなり、まだ手付かずだったおれの部屋の清掃を3人がかりで始めた。
「ここに座って待ってて」みたいなことを言われただ座っているおれの目の前で手際よく部屋が整えられていく。
旅をしていると数えきれない数のホテルに泊まるわけだけど、清掃の現場をまじまじとみるのは初めてで、その手際の良さに思わず見惚れてしまう。
清掃が終わるとおばさんたちは笑顔でワイ(合掌)をして出ていった。
間近でプロの仕事を見れたことで、当たり前に心地よく部屋を使えることに大きな感謝の気持ちが生まれた。
この立派なホテルは1泊450バーツ(1700円)。
今回の旅ではだいたい1泊350〜500バーツくらいを目安に宿を取っていて、この値段はいつもどおり。
昨日のナコーンパノムの宿は470バーツで、古ぼけたホテルの2階。
申し訳程度の窓があるくらいでシングルベッド、お湯はぬるーい宿だった。
今度は450バーツで5階でバルコニー付き。
エアコンの効きもよく、広いシャワールーム。
ダブルベッドの広い部屋だ。
宿の予約は運次第。
ネットの写真も値段もあてにならないことがある。
ギャンブルなのだ。
はずれの方が多いから期待していない分、今回みたいな時テンションが上がる。
バルコニーからはちらっとメコン川と対岸のラオスが見える。
考えてみると部屋から外国が見えるなんてことは初めてだしおもしろい経験かも。
今回イサーンでのもう一つの目的。
それが伝統ダンスミュージックに欠かすことのできない楽器、エレクトリックピンを買うこと。
ムクダハーンでは初めてピンを売ってる店を発見し、少し触ってみた。
初めて触ったので比べようがないけど、1種類しかなかったし他にも触ってみたいので、
とりあえずファーストコンタクトだけ。
質や品揃え的に後々行くコーンケンという大きな町で買う予定で何軒かの楽器屋をリサーチしてある。
夜、ナイトマーケットに向かう途中激しいスコールが降ってきた。
屋根伝いにマーケットの前まで行って屋根のある店の前で雨宿り。
止んだと思ったらまた降る。
これの繰り返しなので大人しく宿に帰る。
この日から何日かタイ全域に大雨警報が出ていて、バンコクでは記録的な浸水が起こったみたい。
大都市の手前の田舎町 カラシン
ムクダハーンからまた内陸に向けてUターン。
大都市コーンケンの一歩手前、カラシンに寄り道。
ムクダハーンからロットゥーで190バーツ(700円くらい)。
今回のロットゥーはなぜかいつもの倍近い金額なのに、乗車率150パーセントの超満員で、大きなバックパックを膝の上に乗せて、いつもよりキツめの移動。
最後部の3人シートに4人で座っているので全員で背もたれが使えない。
これが旅の最初ならちょっと参ってしまっていただろうけど、もう乗り方のコツがわかっているので余裕。
タイ人たちの中にひとり外国人が混じって肌をくっつけ合いながら、むんむんのロットゥーで移動するということが、なぜかどこか心地良く感じ始めていた。
今、エアコンの効いた東京の部屋から客観的に振り返ると、快適とはほど遠いこの環境に心地よさを覚えるなんて我ながらクレイジーだと思う。
そんな意味のわからないゾーンに入った状態で2時間半かけてカラシンについた。
カラシンのバスターミナルは珍しく町の中心近くにあって楽だった。
歩いて5分ちょっとの宿にチェックイン。
一泊510バーツ(1900円ちょい)。
可もなく不可もないホテルだけど、この旅最高額。
田舎町だとホテルが少なく、前日に探すとちょっと高くて微妙なホテルしか選択肢がなくなることがわかった。
そうすると田舎では宿泊費がかさむ。
まあ数百円の違いではあるんだけど。
ここからはできる範囲で早めに宿を予約するようにしよう。
宿の近くを歩いていると日本語が書かれた暖簾を見つけた。
久しぶりの日本食にテンションが上がりラーメンを頼んだけどスープが甘ったるくて全然美味しくなかった。
カラシンはサコンナコーン並みの田舎町で特にやることはなかった。
カフェアマゾンでコーヒーを飲んで市場を散歩する。
1軒だけ飲み屋を見つけて夜風にあたりながらビールを飲んだ。
こんな田舎でもなんだかんだでルーティンをやることができる。
タイは田舎でも最低限のものはなんでもあって発展している国だと実感する。
店で軽く飲んだのちコンビニでビールとご飯を買って帰って、夜はゆっくり部屋で過ごす。
夜が早いイサーンでは慣れっこになった。
大都市コーンケン
いよいよ大都市コーンケンへ。
久しぶりの都会は楽しみすぎる。
それにウドンターニー以来の数日滞在。
久しぶりに毎日移動から開放されて、少しゆっくりできる。
カラシンからロットゥーでたった1時間でコーンケンのバスターミナルに着いた。
今までバスターミナルはどこの町も全く同じような造りだったけど、
さすがは都会、規模が全然違っていてバスターミナルにコンビニまである。バスタ新宿かな?
しかもファミリーマートなのが都会っぽい。
雨上がりでgrabバイクが捕まらないので、待ち構えていたトゥクトゥクで町に出る。
コーンケンの町はとても大きく、
でもやっぱり田舎の都市らしく空気がスロー。
中心地にはセントラル(タイの大型モール)があって、
大きなホテル、そしてその周りにはパブやバーがちょこちょこある。
おれが泊まった宿の斜め前のモールには、トムトムコーヒー(フロム韓国の24時間カフェ)があり、夜行性のおれにはぴったりな場所だった。
エレクトリックピンを探す
コーンケンくらい大きな町ならピンの種類や質的にも色々見て回れるだろう。
目星をつけていた楽器屋を何軒か回るも、情報が古いのか実態のない店が多く、あったとしてもギターやベースなんかの洋物の楽器しかない店がほとんどだった。
結局宿の近所を歩いていて、チラッとピンが飾ってあるのが見えた、古ぼけた楽器屋に入る。
店内に入ると埃を被ったショーケースにたくさんのピンが飾ってあった。
店のおじさんに相談するといくつかのモデルを引っ張りだしてくれた。
モデルといってもおおよそ形はみんな同じで、写真のおじさんは取り外しちゃってるけど、右側、ヘッドの部分に大きなナーガの彫刻が迫り出しているデザインが基本みたい。
あとは材質やピックアップの性能の違いで、安いのが2700バーツ(10000円くらい)と5500バーツ(20000円)とその中間ランクの3タイプ。
5500バーツのはもちろん音が良かったけど、持ってみた感じや色わいでしっくりきた一番安いピンを買うことに。
ピンという楽器は3弦楽器。
日本に帰ったら専用の替え弦が手に入らなそう、という心配があったが、
店のおじさんが言うには、ギターの弦を張るものらしい。
さすがタイの柔軟さ。
買うことにしたら、おじさんは奥から段ボールを取り出してきて、梱包を始めた。
「旅の途中なんで、持ち歩けるようなショルダーケースかなにかに入れて欲しい」とお願いすると、
おじさんは奥からエレキギターのケースを持ってきて、「ケースなんてものはないからこれに入れたら」と言う。
ケースからナーガの彫刻が思いっきりはみ出しているけど、他に選択肢はない。
一番安いケースは800バーツ(3000円)。高い。
全部で3400バーツ。ピンの値引きはできなかったけど、ケースが100バーツ引き、
それにケーブルと替えの弦、ピックを2枚つけてくれた。
ケースに入れて背負っていてもはみ出したナーガのせいでピンだとすぐわかるので、
外国人のおれがこれを背負っていると、いろんなところでニヤニヤされたり「君、ピン弾くの!?」と声をかけられることが多く、結果おもしろいことになった。
コーンケンの町にはナイトマーケットがいくつもあった。
たまたま土曜日だけやっているウィークエンドマーケットに行ってみるも意外とこじんまりとしてて退屈で、
町中の毎日やっている、ルーンルム市場の前のナイトマーケットの方が居心地がよかった。
エビや魚のフライ、クレープなんかが全部1つ10バーツ(37円)でなぜかどこの店の人もとにかくフレンドリーでよかった。
結局アジアの町にはいいナイトマーケットさえあればそれだけでいい。
コーンケンのランドマーク寺院
コーンケンの町を歩いていると、金色に輝く塔の先が見えた。
その麓を目指してバイタクに乗り込んだ。
コーンケンの町から少し外れたところにある、
プラマハタート・コーンケン・ナコン。
通称ワット・ノンウェーン。
9階建の大きな塔は、迫力と輝きが圧巻。
この塔の最上階まで階段で登る。
上に行くほどにフロアが狭くなっていくので階段も狭く急になっていく。
息を切らしながら最上階まで登ると、コーンケンの町を一望することができた。
湖の方から吹いてくる風が涼しい。
向こうに中心地の高層ビルが見えて、その隣には大きな湖がみえる。
町にいる時は都会に思えたけど、
こうしてみると高層ビルも数えられるくらいで、ほとんどの建物は低層。
町の向こうまで、広く見渡せる。
東京都心で9階まで登ったところで景色なんてたいしたことないだろう。
10年もしたらこの町もまた違う景色になっているかもしれない。
2泊したコーンケンでは行きたい場所、見てみたいものが多くて、退屈せずに過ごした。
1つの町に留まって、束の間の休息。
次は南イサーンの秘境都市、ウボンラーチャターニーを目指してまたきびきびとした旅がはじまる。
イサーンはとにかく広い。
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