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ラオス・タイ イサーンを歩く旅 8
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イサーン旅のゴール
ナコーンラーチャシーマー
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ブリーラムから列車で2時間、
ナコーンラーチャシーマーについた。
ラオスからイサーンをずっと旅してきたおれにはえらい都会だ。
タイ側から見て、イサーンの玄関口になるこの町が、ラオスから入ってバンコクに向かって南下してきたおれの旅の終点だ。
ウボンと同じく、タイ人は名前の長いこの町をコラートという略称で呼ぶ。高原という意味らしい。
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お堀に囲まれた旧市街がコラートの中心エリア。
ナコーンラーチャシーマー駅の3kmくらい手前のタノンチラジャンクションという駅が旧市街の最寄り駅。
宿は町の中心、ラック公園の近くに取った。
1泊550バーツ(2000円くらい)。
都会の中心地の割にはリーズナブル。
地元の英雄 ヤーモー像
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コラートの町の中心ラック公園にはタオ・スラナリさんという人のモニュメントがある。
タオ・スラナリさんは昔、コラートまで攻め込んできたヴィエンチャン王国(今のラオス)の軍人に毒薬を入れた酒を飲ませ撃退したという、この町の英雄のような女性。
親しみを込めてヤーモー(モーおばさん)と呼ばれている。
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ヤーモー像には昼夜問わずたくさんの人が参拝に来ていた。
それに車やバイクで、ヤーモー像の前を通り過ぎる時に、像に向かってワイ(合掌)をしている人の姿もよく見られた。
愛国者だったヤーモーがいかに地元の人たちから尊敬されているかがわかる。
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ヤーモー像の周りの公園では人々が憩う。
道の真ん中に細長い公園とお堀があるだけで、この町の調和がとれているみたい。
ベトナム、ハノイの旧市街にあるホアンキエム湖のぐるりを思い出した。
規模は違うけど、なんか同じような空気感がある。
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このあたりは金行(ゴールドショップ)やなにかの工場や修理屋が多く、道端でプラクルアン(お守り)を売る人も多かった。
そんな感じでご飯を食べられる屋台なんかがあまりない。
カフェや寿司レストラン、KFCやピザカンパニーはあったけど、どれもいまいち気分じゃなかった。
もっとローカルでカジュアルなものを探していた。
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ヤーモーのすぐ目の前のシャッターばかりのショッピングモールをうろついていると、
寂れた雰囲気のフードコートを発見。
フードコートといっても半屋外で店も2〜3件しかやってなかった。
ここのぶっかけ飯屋を覗いてみる。
ぶっかけ飯は好きなおかずを好きなだけ選んでご飯に乗っけてもらう、オリジン弁当の進化系みたいな店。
ガパオのようなひき肉の炒めものを注文。
おばちゃんに「これ辛い?」と聞くと、「ちょっとね」と返され少し恐かった。
タイ人のちょっと辛いは、日本人には激辛だったりするのだ。
だいたいタイは、「全然辛くないよ」と言われても、かなり辛いことがよくある国だ。
ご飯をよそいながら「これくらい?もっと?」と確認してくるおかあさんみたいなノリもローカルの好きな所。
おばちゃんに「これも美味しいからどう?」と勧められた卵焼きも乗せてもらった。
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食べてみると辛さちょうどよく美味しかった。
豚骨のスープも出してくれた。
値段は忘れちゃったけど、おかずを2品乗っけても40か50バーツ(200円はしない)くらいだったと思う。
まさに、美味い、安い、早いの3拍子揃った、タイのローカル屋台は庶民の強い味方。
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町からしばらく歩くとターミナル21があった。
バンコクやパタヤにもある大きなショッピングモール。
空港がモチーフになっていて、フロアごとにロンドン、パリ、トーキョーとコンセプトが分かれている。
ここはバンコクとほとんど変わらない。
人は全然少ないけど。
楽器屋に入ってギター弾きたい欲を補給。
タイの楽器屋では基本的に、試奏したいギターを見つけたら声をかけて勝手に取って弾いていいシステム。
そのかわりチューニングとかはしてくれない。
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コラートのナイトマーケット
旧市街のナイトマーケットが出るという通りに歩いて行ってみるが、ほぼ壊滅状態。
屋台は50mに1軒2軒の間隔。
もはやこれはただの道。
他に近所にはこれといったナイトマーケットが見当たらずGrabを使って遠征してみることに。
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一つ隣のナコーンラーチャシーマー駅の先にあるムアンヤー100年市場。
100年市場はタイのいろんなところにあって若者に人気なレトロでお洒落な市場らしい。
ここは全てが食べ物の屋台。
意外とこじんまりとしていて、
左右に10軒ちょっとずつの屋台。
その真ん中にテーブルが並んでいるだけ。
歩き回るみたいなことでもないし、
とりあえず屋台で料理を注文して席に着きビールを頼む。
ナイトマーケットというか、大きな屋外飲み屋みたいな感じ。
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コラートで一番大きなナイトマーケット、セーブワンマーケット。
旧市街から10km弱離れた所ある、広大なマーケット。
大きな駐車場みたいな場所にずらっと屋台の路地が並んでいる。
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Tシャツは1枚50バーツ(180円)くらいからあって
たくさん買えばどんどんお得になる
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ザルに入ってるアクセサリーを選んで
カスタマイズして買える
半屋内型の店舗の通りには家電や、ガラクタみたいなものが売っていたり、
ペットショップだけの通り、美容院とタトゥー屋の通り、スニーカーエリア。とにかく充実してる。
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もちろん食べ物屋台もとにかくたくさんあった。
テーブルを確保してから屋台を見て回る。
いろいろ店からちょこっとずつ買っていろいろ食べられるのがマーケットの魅力。
フライドチキンと焼きそばにイカ焼きと、最高のラインナップでビールを飲むことができた。
服から電化製品まで一通りなんでも買うことができて、
地元民しかいないマーケットなので、値段も安めだった。
バンコクのチャトゥチャックのウィークエンドマーケットほどではないけど、それに近い規模のマーケット。
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コラートも都会だけど、特に見どころがあるわけでもない町。
ヤーモー像の眺めながらカフェでコーヒーを飲んだり、お寺を散歩して、
夜はナイトマーケットでビールを飲む、みたいな生活。これだけでいい。
旧市街にはマーケットもレストランもあんまりないしやっぱり夜も早め。
ヤーモー像の前でムスリマのお姉さんがやってるロティ(巻かないクレープみたいなやつ)の屋台がぽつんと夜中までやっていてよかった。
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イサーンを旅してみて感じたこと
19日間のイサーンの旅が終わった。
意識もしていなかったけど、数えてみるとイサーン20県のうち14県。
14の町を周ってきた。
大まかにイサーンを一周したと言っていいと思う。
陸路で周ったことでその大きさがわかった。
地図を眺めているよりずっとイサーンは広大だった。
調べてみるとイサーンの面積は日本の本州の75%くらい。そんなに大きさが変わらない。
そりゃ広いわけだ。
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外国人観光客もほとんど来ないし、情報が少なかったイサーン。
ラオ族の人たちがメコン川を中心に独特の文化をつくり上げてきた。
産業のほとんどは稲作で、それも気候的にあまく上手くはいかず、
貧しさからたくさんの人がバンコクとかに出稼ぎに出て行く。
バンコクの肉体労働者や売春婦なんかにはイサーン人が多い。
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ただそこには都会では薄くなってきているであろう、おれのイメージしていたタイらしさがあった。
貧困な地域でありながら人々から悲壮感を感じることはなく、
どこまでものんびりと心地がいいように生活しているような現地の人たちの姿は、これこそがタイの風景であるように感じた。
タイ人が大事にしている、サバーイサバーイ(気持ちいい、快適、気楽)の精神の意味を教えてもらった気がする。
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おれが旅して観たものだけにはなっちゃうけど、
イサーンを旅していている間、外国人は数えるくらいしか見かけなかった。
バスに乗っても、レストランに入っても、当然いつも外国人はおれひとり。
イサーンの人たちは、そんな訳の分からない外国人のおれを、
もの珍しいくジロジロ見る訳でもなく、かと言って変に気を使ってくるわけでもなく、
不思議なくらい普通に扱ってくれた。
文化的に日本よりもお店の人なんかが適当で愛想がなかったりはするけど、
差別や毛嫌いされていると感じたことはなかったし、
この町に不慣れであろう外国人ってことでわざとらしくなく、当たり前のように自然に手を差し伸べてくれた。
それはタイの仏教の教え、タンブン(徳を積む)の影響は強いだろう。
言葉が通じないからか、人懐っこいっていうまでではない印象だけど、
英語が話せる人は、少し照れながら話かけてくるし、
おばあちゃんとかはタイ語にジェスチャーを混ぜながら、「暑いわねえ」とか世間話をしてきてくれたりして、
それにおれも日本語で「暑いねえ」とか返してなんとなく会話が成り立ったりした。
言葉が通じなくても表情とジェスチャーでなんとなくわかる。
ウドンターニーのイサーンディスコでは、
一人で飲んでたおれを迎え入れて、ろくに言葉も通じないのに、しこたまのお酒からおつまみまでご馳走してくれたおじさんおばさんたちがいた。
旅の経験からいくと、酔わせてなにかされるんじゃないか、お金を払わずに逃げられたりするんじゃないかとか、どうしても少しよぎったりするけど、
当然のように一銭も要求されなかった。
お金があろうがなかろうが今を楽しくやろうよみたいなのが滲み出てる。
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イサーンでは外国人のおれでも、料金をぼったくられるようなことも一切なく、(これはけっこう素晴らしいこと)
バスターミナルなんかでは、みんな荷物を置いたまま買い物やトイレに行ったりしていたのが印象的で、とにかく治安のよさを感じたことが心地よさの大きな要素だ。
言葉の壁はあったけど、
見知らぬ外国人にも自然にただ人間同士として接してくれるようなイサーンの空気感はとにかく心地よかった。
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イサーンの交通。
バスが強いタイなのでイサーンもやっぱりバスやロットゥー(乗り合いバン)が強かった。
イサーンの田舎町にも必ずバスターミナルがあって、
ラオスやカンボジアに行くインターナショナルバス。
北部チェンマイ、バンコクやパタヤなんかの長距離バス、
それに中距離はロットゥーがあらゆるルートで1時間に1〜2本来る。
列車の方が安いけど、本数も少ないし時間もかかる。
バスの値段もしれているので効率を考えたらバス。
時間に余裕があって旅情を楽しみたいなら鉄道を使うのがいいと思う。
イサーンを走る列車には、バスでは味わえない旅のフィーリングがあった。
市内の移動は電車も地下鉄も当然ないし、
バスがあったりするけどルートもわからないし外国人には難しい。
ただ、イサーンでもほとんどの町でGrabが対応してきているので、
アプリで車やバイクを呼べるし、なんならご飯のデリバリーも頼める。
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ホテル。
ラオスから直接入ったことで特に実感したこと。
タイのホテルは、東南アジアの国の中でも特にコスパがいい。
ラオスからイサーンを通して、1泊400〜500バーツ(1500から2000円くらい)を目安に宿を取っていたんだけど、
ラオスだと部屋は湿っぽく埃だらけ。シャワーはほぼ水みたいな所が多かった。
タイに入った途端に同じような値段で、
冷蔵庫とダブルベッドは基本。
ホットシャワーが出る上に、ドライヤーやシャンプーまである、みたいなことがほとんど。
一見古いホテルでも、しっかり掃除されてて清潔。
ただ田舎町ではホテルが少ないことと、
ホテルであっても英語が通じないこと。
交通インフラが強く、宿のコスパのいい。
さすがは観光大国。
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ちょっと駆け足ではありながらも、ある程度じっくり時間をかけながらラオスからイサーンを陸路で周り、
一つ一つの町を自分の足で歩き回り、その町の文化や人々の価値観を毎日この目で見ることができたこと。
なんて贅沢な旅だったんだろう。
世界でトップクラスに豊かとされる東京という街に生まれて暮らしてきたけど、
アジアにくる度に、現地の人の心の豊かさに心掴まれる。
お金も車もなにもなくても豊かな人は豊か、
なにを手に入れても豊かになれない人はなれない。
現地人と一緒にぎゅうぎゅうのバンで移動して、
町の小さなお寺で馴染みのない顔をした仏様に手を合わせ、
何にもない道端の屋台で汗をかきながらご飯を食べていると、
まだぼやっとしている本当の豊かさとは、幸せとはみたいなものの一つの答えみたいなものを教えてもらっているような気がした。
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