見出し画像

【行政法⑨】<行政裁量>

法律留保の原則から言えば、法律根拠の必要な行政行為については、そのすべてが法律に記載されていることが望ましい。けれども、これでは予想外の事態に対応できないし、そもそもあらかじめすべての事象を想定して法律を作ることは不可能である。

そこで、法律が行政機関に自由な判断の余地を認めている場合がある。これを行政裁量という。裁量範囲は、そこそこ広く、行政裁量に対する司法審査は、「裁量権の逸脱」又は「裁量権の濫用」がある場合に限られている。

◆2種類の裁量

①要件裁量

・・・法が規定する要件に当てはまるかどうかの判断への裁量

(例)国家公務員法
「職員について、勤務実績が良くない場合やその官職に必要な適格性を欠く場合には、人事院規則の規定に基づき、その意に反して、降任又は免職することができる」

※太字の場合って具体的には?の認定にかかる裁量が要件裁量。


②効果裁量

・・・どのような処分を下すかの認定についての裁量

(例)(例)国家公務員法
「職員について、勤務実績が良くない場合やその官職に必要な適格性を欠く場合には、人事院規則の規定に基づき、その意に反して、降任又は免職することができる

※降任にするの?免職にするの?どちらにもしないの?についての裁量


◆行政裁量が認められるもの認められないもの

判例を見ていくしかない。押さえておくべき判例が多い。

①重要判例(マクリーン事件)

※要件裁量が認められた。

裁判所は、出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の(外国人)在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断についてそれが違法となるかどうかを審査するにあたつては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができる。

最高裁判例要旨


②重要判例(高等学校の教科書検定問題)

※要件裁量は認められる。
※検定合格の条件としないならば、削除追加の意見を付すことは認められる。

一 教科用図書の検定に当たり文部大臣が原稿記述に訂正、削除又は追加などの措置をした方が教科用図書としてより良くなるものとして指摘する改善意見は、これに応ずることを合格の条件とはせず、文部大臣の助言、指導の性質を有するものであって、これを付することは、教科用図書の執筆者又は出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情のない限り、その意見の当不当にかかわらず、原則として、国家賠償法上違法とならない。
二 昭和五八年に申請された高等学校用日本史教科用図書の改訂検定を行うに当たり、文部大臣が、七三一部隊に関する記述につき、現時点ではまだ信用に堪え得る学問的研究、論文ないし著書が発表されていないので、これを取り上げるのは時期尚早であるとの理由で、右記述を全部削除する必要があるとの修正意見を付し、右削除を合格の条件としたことには、右検定当時、七三一部隊に関して多数の文献、資料が公刊され、七三一部隊の存在等を否定する学説は存在しなかったか、少なくとも一般には知られていなかったなど判示の事実関係の下においては、その判断の過程に、検定当時の学説状況の認識及び検定基準に違反するとの評価に関して看過し難い過誤があり、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。

最高裁判例要旨


③重要判例(国家公務員法に基づく懲戒処分)

※効果裁量が認められた。懲戒免職としたこと、OK。

二、裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである。
三、勤務時間内の職場集会、繁忙期における怠業、超過勤務の一せい拒否等の争議行為に参加しあるいはこれをあおりそそのかしたことが国家公務員法の争議行為等の禁止規定に違反するなどの理由でされた税関職員に対する懲戒免職処分は、右職場集会が公共性の極めて強い税関におけるもので職場離脱が職場全体で行われ当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたこと、右怠業が業務処理の妨害行為を伴いその遅延により業者に迷惑を及ぼしたこと、右超過勤務の一せい拒否が職場全体に及び業者からも抗議が出ていたこと、職員に処分の前歴があることなど判示のような事情のもとでは、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。

最高裁判例要旨


④重要判例(農地委員会による農地に関する賃借権の設定承認)

※要件裁量が認められなかった。

 昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。

最高裁判例要旨


⑤重要判例(土地収用法による補償金の額の設定)

※効果裁量(補償額をいくらにするか)は、認められない。要件裁量については、(裁判所は)判断しないこととする、とも言っている。

一 土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するのではなく、裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、これを違法とし、正当な補償額を確定すべきである。

最高裁判例要旨

◆裁量権の逸脱・濫用

もし、裁量権の逸脱・濫用が認められれば、裁判所はその行政作用を取消すことができる。(行政事件訴訟法30条)

〇逸脱と濫用の審査基準

・重大な事実誤認があるかどうか

・法律の趣旨目的と反するものではないか

・信義則の原則に反していないか

・比例原則(目的を達できる最小限の義務設定にせよ)に反していないか

・平等原則に反していないか

上記以外にも、裁量審査を行政庁の行政作用に至るまでの判断過程に着目することも多い。ここでも重要な判例を挙げておく。

①重要判例(伊方原発訴訟)

※(内閣総理大臣の行う)原子炉設置許可処分の行政裁量は認められる。

一 原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであつて、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。

最高裁判例要旨


②重要判例(剣道実技拒否事件)

※裁量権の逸脱とした。

市立高等専門学校の校長が、信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した学生に対し、必修である体育科目の修得認定を受けられないことを理由として二年連続して原級留置処分をし、さらに、それを前提として退学処分をした場合において、右学生は、信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修を拒否したものであり、他の体育種目の履修は拒否しておらず、他の科目では成績優秀であった上、右各処分は、同人に重大な不利益を及ぼし、これを避けるためにはその信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせるという性質を有するものであり、同人がレポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れていたのに対し、学校側は、代替措置が不可能というわけでもないのに、これにつき何ら検討することもなく、右申入れを一切拒否したなど判示の事情の下においては、右各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである。


③小田急高架訴訟

※裁量権の逸脱・濫用に当たらない。

都知事が都市高速鉄道に係る都市計画の変更を行うに際し鉄道の構造として高架式を採用した場合において,(1)都知事が,建設省の定めた連続立体交差事業調査要綱に基づく調査の結果を踏まえ,上記鉄道の構造について,高架式,高架式と地下式の併用,地下式の三つの方式を想定して事業費等の比較検討をした結果,高架式が優れていると評価し,周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断したものであること,(2)上記の判断が,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)23条所定の環境影響評価書の内容に十分配慮し,環境の保全について適切な配慮をしたものであり,公害対策基本法19条に基づく公害防止計画にも適合するものであって,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったとはいえないこと,(3)上記の比較検討において,取得済みの用地の取得費等を考慮せずに事業費を算定したことは,今後必要となる支出額を予測するものとして合理性を有するものであることなど判示の事情の下では,上記の都市計画の変更が鉄道の構造として高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるということはできない。

(本論)
このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって,裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。

最高裁判例要旨

以上。判例からの出題が多いので多肢選択になっても対応できるようにしておくこと。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集