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アパート日記8
二〇〇八年九月九日
今回は同居虫についての報告です。
私の住むサンコーポ沼袋105号はもちろん一階なので、カ、ハエ、クモ、ダンゴ虫などがよく訪ねてきます。
その中でもクモは、危害も加えてこないし、すばしこくないし、おまけにそのバランスのとれた可愛らしい容姿は私の男心をくすぐり、私は「居たらそっとしておく」を実践してきました。
こうした共同生活が続く中でいつしか私の男心にスケベ心が入り込んだことをここに告白します。
その日もクモは壁にただじっと張りついていました。
その時不意に私の心にある欲望が湧き上がってきました。
接写したい。
なぜそう思ったのか今となってはわかりませんがその欲望は私を突き動かし、クモを執拗に追いかけさせました。気づけば、洗濯機によじのぼり、中腰でクモに迫らんとする自分がそこにいました。
何回目かの接写の後、私はデジカメに収めた戦利品を興奮に身を火照らせながら確認しました。
そして、その時自分の犯した罪に気がついたのです。
そこに写っていたものは私の追い求めていたものとは似ても似つかぬ、グロテスクな生き物でした。
なんていうかまず目、いくつあるの?四つ?八つ?顔でっかくない?こわい。
物事には適切な距離があります。しかし人間はときに、その距離を計り違え、両者の関係に亀裂を生じさせる愚かな生き物です。
家を訪れるクモに甘い幻想を抱いた私のように…
※本文にあるアパート名は実際はひどくよく似た違う名称です。
(テキスト:吉田正幸)
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