変形性股関節症 完全攻略BOOK
No.1 保存療法の軸を作る考え方
そもそも変形性股関節症って?
変形性股関節症(以下:変股症)に関わらず、保存療法でその進行を食い止めるためには、そもそもの原因を理解しておく必要があります。
様々な文献で「変股症とは?」と検索すると、「関節軟骨の退行性変化をきっかけに…」ということが書かれています。
たしかにこれは間違いないのですが、なかなかこれだけの情報だと進行予防に対してリハビリで何をすればよいのか?という答えには行き着かないですよね…
だからこそ適切なリハビリを行うためには、ここからまだまだ深ぼっていく必要があります。
変股症とは?と検索すると、病態の次にこういったことが書かれていることが多いです。
そして日本では圧倒的に二次性が多い。こういったことをよく目にするかと思います。
ですので、変股症の原因をもう少し詳しくまとめると、
「臼蓋形成不全や発育性股関節形成不全によって関節軟骨の退行性変化が助長され、股関節の関節破壊・変形をきたす」
ということになります。
なんだかまだ核心に迫れてないような感じがしますよね…
・進行を食い止めたい…
・手術をしたくない…
変股症患者のこういった願いに対して、これだけの情報だと、構造的な問題が起因しているから、我々が為す術はない…という考えに至ってしまいます。
だからこそ凡人PTは(※言い方が悪くて申し訳ないです。笑)
・これ以上筋力を落とさないように...
・これ以上可動域を悪くしないように...
・活動量落として炎症を抑えないと...
という理論的なようで理論的ではない介入を繰り返してしまいます。
これらは二次障害の予防にはなっていますが、決して進行の予防にはなっていません。
なんとかこれから起こることを予防しよう!という考えなので、変股症患者の願いを叶えるような介入にはならないでしょう。
だからこそ、我々はさらに変股症について深ぼらなくてはいけなくて、進行を予防するには二次性股関節症によって、どのように退行性変化が助長されているかを紐解き、機能的に抗う方法を探す必要があります。
寛骨臼荷重部傾斜角に注目!
どのように退行性変化が助長されているのか?という部分については、様々な見解があるかと思いますが、個人的には寛骨臼荷重部傾斜角が大きなヒントになりうると考えています。
あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、これが保存療法の鍵を握っています。
こちらを見ていただけるとイメージがつきやすいかと思います。
左から順に寛骨臼荷重部傾斜角が大きくなっています(臼蓋の骨頭に対する被りが浅いため)。
一番左は正常股関節をイメージして作成したイラストですが、寛骨臼荷重部傾斜角は0°です。
赤矢印は荷重の向きを表しており、大腿骨には頸体角や前捻角が存在することから荷重の向きは真下に落ちるわけではなく、このように斜めになります。
ここからが本題。
この赤矢印がもたらす作用を解明するために、寛骨臼荷重部傾斜角に直行する線(圧縮力)と平行な線(せん断力)に分解してみます。
そうすると、正常股関節の場合、上向きの圧縮力と内向きのせん断力によって骨頭が臼蓋に押し付けられる方向へと荷重が働くことがわかります。
つまり正常股関節であれば、荷重が乗るだけで臼蓋に対して骨頭が求心位に保たれるというわけです。人間の身体は本当によくできたものです。
では、続いて真ん中のイラストをご覧ください。
こちらは少し臼蓋の被りが浅く、寛骨臼荷重部傾斜角が増大しています。
この状態だと荷重と圧縮力が同じ方向を向いているため、せん断力が生まれません。
つまり圧縮力のみで骨頭が求心位に保たれているというわけです。
正常股関節に比べると、心もとない求心力となります。
おおよそこのような形となる寛骨臼荷重部傾斜角は16°されています。
では、最後に右側のイラストをご覧ください。
こちらは少し極端に表現しておりますが、臼蓋の被りがかなり浅く、寛骨臼荷重部傾斜角が急増しています。
この状態での荷重を圧縮力とせん断力に分解すると、衝撃的なことが分かるのですが、なんとせん断力が内ではなく、外を向いています。
つまり寛骨臼荷重部傾斜角が大きいと、荷重が乗ることでせん断力が外を向いてしまうため、骨頭が求心位どころか上外方に滑っていくこととなります。
だからこそ荷重が乗るたびに、骨頭が上外方に滑り、関節軟骨の摩耗や骨棘の形成に繋がることが考えられるわけです。
さらに股関節が不安定となるわけですので、それを軟部組織が制御しようと頑張ると、結果的に筋緊張亢進といったさらなる弊害を生んでしまいます。
これこそが変股症の退行性変化助長因子であり、保存療法で立ち向かうべきポイントだと考えています。
ちなみに、変股症ではよく殿筋群を始めとした股関節外転筋が重要!と言われることが多いですが、その理由も寛骨臼荷重部傾斜角の増大という観点から説明がつきます。
荷重が乗ることで骨頭が上外方に滑るわけですので、それを側方から制動するものこそが殿筋群なわけです。
これまで脳死状態で「変股症=殿筋群強化」と考えていた方は、ぜひこういう意味合いがあるということをご理解ください。
ということで、改めて変股症における保存療法の鍵は「骨頭に働く外向きのせん断力を機能的に減らすこと」だと考えています。
少しでも臨床のヒントになっていれば幸いです!!!