自己主張の激しい背後霊
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「もう、いい加減にしてよ!」
平和な午後に、私は公園の噴水越しに呼びかけた。水面に映る書生風の男は、始終私の背後で頬をゆるめっぱなしだ。彼は私の背後霊であり、ここ二週間ずっとつきまとわれている。
「だって、若くして死んだ僕にこんなに可愛いひいひ孫がいると分かったからには守らなきゃ!」
「だからって度が過ぎるんです!」
私にちょっかいを出した子どもは泣かせるし、ぶつかった人には勝手に怒るし、挙げ句の果てには、あろうことか私が好きな人との恋が少しでも発展しそうになると騒ぐわ脅すわで邪魔をする。おまけに……。
「たまこ~、ひいひいおじいちゃんは大切にしなよ~。」
そばにいた友達が冷やかすように笑う。この背後霊は自己主張が激しいあまり、周りの人はすっかり慣れてしまっているのだ。
「私は普通に恋したり遊んだりしたいだけなのに。」
手に持ったぼろぼろのチョコレートを握りしめると涙がぽつんと噴水に落ちて水紋を広げた。
本当は分かっている。もしこの背後霊がいなくたって、私にはこれを渡す勇気なんてなかったんだ。いつものように、自分でうまくいかないことをすべてこの非日常的な存在のせいにしてやつあたりしているだけなんだ。それでもこの背後霊は怒ることもなく、寂しげに微笑んで私の頭を静かになでるだけだった。
「だいじょうぶ。明日はいい日になるよ。」
母のよくいっていた言葉を、噴水越しの影が静かにつぶやいた。
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