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彼方から~2022年再会した漫画たち

2022年の個人的大事件。
数十年ぶりに漫画オタクの血が騒ぎだしうっかり足を踏み入れたら・・・運命の再会を果たしドハマリした!こと。

まずは
2022年に読んだ主な漫画リスト(短編等除く)

森脇真末味「おんなのこ物語」 「緑茶夢」電 「Blue Moon」電初 「アンダー」初
佐藤史生「夢見る惑星」 「ワン・ゼロ」 「打天楽」
萩尾望都「百億の昼と千億の夜」
ひかわきょうこ「千津美と藤臣君シリーズ」 「彼方から」

電=電子書籍 初=初めて読む
つまりほとんど昔読んだ作品の再読。そしてほとんどが数十年蔵書として手元に持っていたもの。もともとマニアックな少女漫画中心ながら割となんでも読む。
4~12月に読んだものがこれだけって、漫画好きと言うにはかなり少ないけど…ちびちびじっくり読むタイプなので。

リスト最後の「彼方から」。これこそが2022年個人的大ブームを巻き起こした運命の作品。
この熱狂と感動を何かカタチにしておきたい…ということで、ツイッターに吐きまくった感想を加筆編集してまとめてみた。

「彼方から」とは
1991年~2002年白泉社「LaLa」で連載。壮大なスケールのSFファンタジーで、単行本全14巻、文庫版で全7巻刊行。
ストーリー:普通の女子高生ノリコが突然異世界に飛ばされ怪物に襲われる!そこにひとりの青年が現れ、助けられたノリコは彼(イザーク)とともに様々な冒険をすることに…

私は単行本14巻中7巻まで持っていて…つまり途中までリアルタイムで読んで続きを買うことなく放置していたのでした。
どうしてそうなったのか?たぶん仕事が忙しかったりB’z熱が盛り上がったりで漫画から離れていった時期だったのかな。
それでも数十年間、引っ越すたびに多少は捨てていた蔵書の中にずっと残っていた。好きな気持ちはあって、きっといつかは読み返そうと思っていたんでしょう・・・そして令和の時代、ようやく再会することに!

8巻以降はネット古書で購入しました。1冊150円未満で買えてなんか申し訳ない気持ち(正直、文庫版は漫画には適さないサイズ。個人的には単行本か電子書籍がよいと思う)

ひかわきょうこ先生はデビュー以来ほのぼのかわいらしいラブコメを描いていて(私はその頃の作品も大好きです)、それが「荒野の天使ども」など西部劇冒険活劇を経て、この「彼方から」が登場します。
デビュー当初から知っているファンとしては、まさかここまで壮大なストーリー・ダイナミックなアクション・波乱に富んだ展開を描ける漫画家さんとは思っておらず(すみません)本当に驚かされました。当時も、そして再読した現在も。
以下ツイッターより1巻読後感想。

ひかわきょうこ「彼方から」!
令和時代に異世界もの大流行らしいですが、平成初期の異世界SFファンタジー。1巻目からぐんぐん引き込まれる。

萩尾望都・佐藤史生・森脇真末味と漫画界に新風吹き込んだ偉大な革新者の作品読んでる時は文学作品と同じ脳の領域使ってたけど、王道漫画はまったく違う領域が刺激されて楽しい。
「きゃあああっイザークかっこいいっ」て頭の中で黄色い声反響するw
イザークかっこいいしノリコは健気でかわいい。

久しぶりに読んで驚愕したの、ひかわ先生めちゃアクション絵上手い!!
1巻前半ほぼイザークがノリコ担いで走って跳んでの描写。漫画だし異世界だしイザーク超人的だから何でもありだけど、踏ん張るかかと・飛び降りる際ノリコを抱えなおす、とか人体の動きの理に適った動作がコマに落とし込まれてて、それがリアリティと臨場感を生み出してる…と思う。
一連の動きの中でどの一瞬どの部分を切り取って紙面に配置するか~というのを見て感じるのも動画にはない漫画の醍醐味。


「彼方から」の魅力

上記の通り、物語冒頭から引き付け方がすごい。
私が感じる「彼方から」の魅力をまとめると・・・
1.躍動感あふれるアクションと繊細で丁寧な心情描写
2.魅力的なキャラクター
3.表情・動き・背景すべてにおいて美しくかわいい絵
4.壮大な世界観と日常感覚

1.躍動感あふれるアクションと繊細で丁寧な心情描写

少年漫画的ダイナミックで派手なアクション・戦闘シーンが繰り広げられる一方、少女漫画らしい丁寧な心情表現が印象深い。日本の少年少女漫画が長きにわたり培ってきたものがこの作品の中にぎっしり詰まっている。
息もつかせぬスピーディーな展開とほのぼの和やかなシーンの緩急があり、シリアスとコミカルのバランスも良く年齢問わず読みやすい作品となっている。

最近のヒット漫画は戦闘シーンやたらグロくする傾向だけど、少女漫画らしく控えめな描き方なの私はうれしい。戦闘シーン以外ではむやみに花やキラキラが飛び、書き文字もコロッとかわいくて和む

少女漫画ならではの繊細な心情表現。
好きなシーンいっぱいあるけど…
ノリコがまっすぐな気持ちを伝えたあと眠りに落ち、それを見守るイザーク。数秒間のうちに微妙に変化していく彼の表情をいくつものコマへ丁寧に落とし込み、最後の大コマ横顔アップで胸にあふれる想いがぶわぁっと伝わってくる。

2.魅力的なキャラクター

主役のノリコとイザークがとにかく良い。
イザークは超人的強さ・やさしさ・格好良さで、まさに少女漫画のスーパーヒーロー。同時に、重い宿命を背負った孤独・悩み・苦しみも深く、そこがしっかり描き込まれていてより心惹かれる。
そんな彼とは対照的にノリコは普通の女の子。でもいつも一生懸命で無邪気。思いやりを持って人と接する姿に自然と共感し、応援したくなる。
なぜ彼にとって彼女が唯一無二の特別な存在になっていくのか…エピソードの積み重ねの中でじんわりしっかり納得が深まっていくところも物語の読みどころ。
多彩な脇キャラも個性的で印象深い。
以下、ノリコとイザークの関係に萌えるアラフィフの悲鳴w

中盤からノリコとイザークの関係性が随分変わり、新たな表情に出会ってドキドキする。
ノリコは最初怖い目にあってピーピー泣いてばかりだったのに、9巻ではきりっと覚悟を決めた表情がかっこよかった。
イザークは感情豊かになって笑ったりふざけたり、こういう子だったのね~

相思相愛20歳男子と18歳女子が一つベッドで寝てても何も起こらないし困惑も悶々もなく…少女漫画でもあまりない状況ではあるが、ひかわワールドでは成立するの。
そもそも出会いから事あるごとにノリコはイザークに抱えられて持ち運ばれてるし2人きりの旅も長いから慣れてるとはいえ…
むしろそういうピュアさ加減が眠っていたオンナノコ心を目覚めさせてじゃぶじゃぶ溢れてくる。

読むたび新たな発見がある。最初の頃は当然ノリコ目線で物語追ってくけど、イザークの目線・気持ちを想像しながら読むとこれがまた非常にグッとくる。
ノリコ視点でイザーク見るとキュンキュンだし、イザーク視点でノリコ見ると「か…かわいいかわいいかわいいかわいい…なんなんだ!かわいすぎるんだがっ!!」てなる。

サブキャラもみんな個性的で、結構殺伐とした物語のはずなのにのんびりお茶目おとぼけな人たちが常に周りにいて和む。

3.表情・動き・背景すべてにおいて美しくかわいい絵

高い画力に裏打ちされた美しくかわいい絵も大きな魅力。
途中体調不良による休載をはさみながら10年以上の連載。驚くのが最初から最後まで絵柄・タッチともゆるぎなく安定していて、1巻と14巻比べても差異がない。
長期連載ともなれば絵柄やタッチが変化していくのはよくあること。部分部分でデッサンが狂ったり描き込みが雑になったり…が、ひかわ先生はほんとにそれがなくて、常に一コマ一コマきっちり丁寧に描かれいる。
さらに驚くのが、アシスタントほとんど使わずひかわ先生お一人ですべて描かれているということ!トーン貼りを少し手伝ってもらう程度とか(単行本コラムより)。

彼方~はモブシーン多いし架空の町や建造物、森や田園など背景も手が込んでる。それを昔ながらのペン画・ベタ塗りでって…気が遠くなる作業。
しかもすべてのページ絵のクオリティがまったく下がらず手抜きなし。

なんと言ってもイザーク。顔が良い!!ページめくるたびに「顔が良いな…」「美し~」「いやほんとマジで顔が良い!」とため息もれる。
イザークの太すぎず細すぎずしなやかな描線で描かれる眉がすごく好き。
一コマ一コマ全部美しい。

主役2人マメにお着換えしてくれるので衣装見るのも楽しい。
絶対的に楽だしイメージつけやすいからメインキャラ着た切り雀になる漫画多いのに…
半袖の時期もあって、この世界にも季節があるんだなとわかるし、町と田舎・職業や身分でなんとなくテイスト違ったり

ノリコは顔立ち表情が子供みたいにくるくる変わるし変顔も多くてかわいい。
一方イザークはきりっとした2枚目であんまり表情崩れないんだけど…ちょっとした眉の角度・瞳の光の入り方とかですごく優しい眼差しだったり戸惑った表情だったり
ほんのわずかな線でこんなにも豊かに感情表現できるんだ!と感銘を受ける。


4.壮大な世界観と日常感覚

なんで当時の私は8巻以降買ってなかったのか?と不思議だったが、読んでいたら何となく…
最近読んだ「百億千憶」「ワンゼロ」は映画だと「2001年宇宙の旅」方向に近くて、彼方~はハリウッド冒険活劇に近い。
20代の私にはそういう感じが大味で物足りなかったのかも。

佐藤史生「ワン・ゼロ」→萩尾望都「百億の昼と千億の夜」→「彼方から」
という順路で読んだことで、最初は上記のように前2作と「彼方から」の相違の方を強く感じたのですが…徐々に見方が変わっていく。
ちなみに

「ワン・ゼロ」=自我を持ち暴走するAI×妖怪大戦争!?というぶっ飛び設定を壮大な世界観と東洋的絵画美で彩るSF漫画の名作
「百億の昼と千億の夜」=光瀬龍原作SF小説を漫画化。宇宙・人類の生成と衰亡を操る謎の存在を探索する~という仏教的世界観をSF様式にぶっこんだ超ドデカスケールの作品

「ワン・ゼロ」→「百億千憶」→「彼方から」という順路でSF作品を巡ったことでそれぞれの相似点・相違点を観照できて実に良い経験を得た。
前2作は「知と概念の冒険」としてのSFを体感させてくれた。「彼方から」はSFよりファンタジーに近い甘口な物語でありながら、逆に本格SFに欠落しがちなものに気づかせてくれる。日常感覚に根付いたリアリティに。

異世界に飛ばされたノリコがまず現地の言葉を学ぶことからはじまり…
イザーク買い物するときいちいち値切るし、激しい死闘から何とか生還した後「汚れた服買い替えるお金ない!」と困惑する。
異世界の人々にも衣食住があり、様々な職業があり社会がある。それを読者もノリコと一緒に体感し…その生活感こそが光の世界という物語の核心に導いていく~実に見事な展開!

「彼方から」で注目されるのが、ノリコが飛ばされた異世界で言葉が通じない!ということ。そこで序盤の数か月間、彼女は地道にその世界の言葉を学んでいく。
ファンタジーだから何でもあり、ではなく地に足の着いた生活感をベースにしているところが深い共感を呼ぶ。

若い頃はたぶん、こんなおとぎ話みたいなキレイ事はさすがにちょっと・・・と思う部分もあったんだろうな。
きちんと読めば…異世界でも人間は単純に善人と悪人に分かれるんじゃなく、ほんのちょっとしたことで心の比重が変わって逆転することがしっかり描かれている。

また、小さな個の意識が変わることで全体を変える大きな力になる、というのは民主主義の理念そのものだな…などいろんな気付きがある。
別に無理して深読みせずとも純粋にたのしい物語として読めばいいんだけど。自分みたいなめんどい読者は右脳左脳脳髄全体で物語を味わい尽くしたいという貪欲さがあって。


以下「彼方から」と「ワン・ゼロ」両方読んでないと意味不明ですが…個人的に大きな発見だったので残しておきます。

「彼方から」最終巻読んでて、ノリコとイザークが見た光の世界なんか既視感?と思ったら…これって「ワン・ゼロ」でマユリとトキオがアートマンの視界で見たものと激似では!!??と気づいて脳汁噴いたーーっ

佐藤史生ワールドとひかわワールド、世界観も作風も対極にあって、違う銀河系もしくは違う宇宙に存在する~くらい1ミリも交わらない別世界だと思ってたのに突如ワームホールが開いて繋がった!!!!みたいな衝撃で夜中に大興奮してしまった…
実は同じものを真逆の視点から見てるのか…

「彼方から」は深く考えずシンプルに楽しむ作品と捉えていたので1周目では割と素通りしてしまっていたが…
光と闇・魔と神。どちらにしろ片方の力が強力に人類を統制しようとすれば、それに拮抗する反対の勢力が台頭する~という同じ構図を反転させたら…って考えると面白い!

それを佐藤先生が理論構築によって、ひかわ先生が感性感情で描いて、見た目まるで繋がりのない作品に仕上がってて…ほんと偶然近い時期にこの2作品読んでなかったら一生気づかなかった共通点。

トキは「人としての自我を捨てアートマンになれ」とマユリに迫られるし、イザークは「人としての自我を捨て最強の破壊の化物になれ」と魔から迫られる。
神と魔、やり口が一緒じゃん!!

愛だの恋だの二の次で複雑な論理構築による創造性に脳が酸欠になる「ワン・ゼロ」と、愛だの恋だのが最重要な王道少女漫画活劇「彼方から」にちょっとでも繋がりがあるってことに興奮しちゃうの。

繰り返し読むうちに、シンプルにたのしいエンタメ作品と思っていたのが実は考察の対象としても様々なアプローチができる物語とわかって、ますますその魅力にはまっていった次第。


昔から漫画・小説は割と幅広く、読んだら次!と新たな物語を求め、読み返すのは時間をおいて少し記憶が薄れて以降だった。
なのに、なぜこんなに「彼方から」だけ捕まったまま離れられないのか?自分でも謎。読めば読むほどスキを発見してしまう。

きっとこれからもくり返しくり返し読んでいくことになる「彼方から」。
世に無数の漫画がある中、この作品に出会えたことは自分にとって大きな財産です。

・・・・・

私を漫画の世界に引き戻すきっかけとなってくれた森脇真末味作品の感想文はこちら


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