臆病な都市
30歳、元自衛隊隊員の砂川文次による「臆病な都市」。
コロナ禍以前に書かれたものだけど組織不全を起こしているいまと統治機構のあり方をここまで緻密に書いている点でとても舌を巻く。コロナだけでなく原発や口蹄疫など平成以後の災厄も全てそうなのかもしれない。砂川文次の筆の射程にはフェイクニュースも含まれている。
これは猪股剛さんが編纂された「ホロコーストからの声」とも重なる。
すべての災厄は人災によっておきている。そのことを引き起こす組織というものへの考察、組織で働く人への想像が鋭い。
こうした良い短編に出会う中で考えざるを得ないのは、いま教育や福祉の現場に必要なことは文学的想像力ではないかという思い。
福祉も教育も関わるほとんどの人はピュアで善意の人で真面目ゆえにもっともっと文学的な想像力を体得しないと、分断は深まるばかり。きれいごどではすまないことへの想像を僕自身も持ち合わせねばと思う。
理念や善意を阻害するような組織や怠惰や人間の嫉妬のようなものにたいする文学的想像力がとてもたりない。そして善意は時に暴走する…最近の危機感はここにある、とも思えてきた。政治の構造もこうしたことで理念や理想が常に敗れ続けているのは想像力のなさなのかもしれない。業界や組織に対しての想像力や寛容性(=癒着であり理解ともいう)が理念や理想などの言葉の正しさより現実性や実現性で支持を得られるということにあるのではないか。
もっとこの人の作品を読みたいと素直に思う。