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苦界浄土

「おとなのいのち10万円
こどものいのち3万円
死者のいのちは30万
と、わたしはそれから念仏にかえてとなえつづける。」

『苦界浄土』の第二部「昭和三十四年十一月二日」から「空へ泥を投げるとき」の2節を読んで、若松英輔が苦海浄土は一生読みきれないと言っていた意味がじわじわと沁みてくる。

苦海浄土は人力ではどうすることもできない困難に直面した人のために書かれた本なのだ。

コロナ感染爆発は止められず、妊婦は切迫早産になっても治療は受けられず、アフガニスタンは混迷し、フェイクニュースは横行して、牛痘さながらのワクチン忌避に憂、入管が非人道的対応をし、YouTuberはヘイトクライムを示し、土砂災害豪雨災害は頻発し、温暖化は止められず、自分の預金すら引き出せず、サンデーモーニングは非難され、パラリンピックにフジロック2学期開始については賛否両論でケンカが絶えず…仁鶴師匠も急逝する…

Twitterを見るとディストピアよろしく、冗談であって欲しいようなことばかりがタイムラインで届く。なんでこんな時代に子どもを3人も作ってしまったことの申し訳なさまでTwitterを見ていて感じずにはいられないほど、絶望的な気持ちになりました。本当にこの世は修羅の世界と化している。もうすぐそこに『joker』の存在を感じる。
しかし苦海浄土はこうした末法感にあふれる現世の中で、決して憎しみや恨みや嗤いや罵り合いでは救われないことを書いているように思いました。

漁民の訴える言葉ー「昭和三十四年十一月二日」の陳情が今の時局、大変胸に刺さりました。苦海浄土はさまざまな時に共に歩んでくれる本であることを初めて知りました。

「国会議員のお父様、お母様方、わたくしどもはかねがね。あなた様方を国のお父様、お母様とと思うております。(中略)子供を水俣病で亡くし、夫は漁をとることもできず、獲っても買ってくださる方もおらず、泥棒をするわけにもゆかず、身の不安とあきらめ我慢してきましたが、私たちの生活は、もうこれ以上こらえはれないとこほにきました。わたくしどもは、もう誰も信頼することはできません…。でも国会議員の皆様方がきてくださいましたからは、もう万人力でございます。皆様方の御慈悲でどうかわたくしたちを、お助けくださいませ」

この陳情に宿る言葉は、いまも未だ続いている…

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