【第3話】余命5ヶ月、僕は彼女の死にたい理由を探す
○(翌日)屋上、夕方
先に来たのは祐希だった。
手で仰ぎながら、不安げにすみれを待つ。
祐希(やっぱり、来ないのかな)
すみれ「おはよん」
と、軽く右手を挙げる。
祐希「おはよう」
すみれ「今日のヒントは、『私はスペードができない』だよ」
祐希(昨日、トランプの話になったとき、僕が好きと言ったマークだ)
(特に理由もなく言ったのだけれど、「できない」ってどういうことだろう)
すみれ「これから部活があるから、バイバイ」
と、来たときと同じように、また軽く右手を挙げる。
祐希「じゃあ」
祐希(そういえば岡崎さん、なんの部活をやってるんだろう)
(クラスでの岡崎さんとここでの岡崎さんが違いすぎて、なんだかよくわからないけれど、運動部っぽい)
すみれは屋上から出て行く。
○学校からの帰宅中、夜
祐希の過去の友人、悟が後ろから追いかけてくる。
祐希はちらっと後ろを振り返り、逃げようとする。
悟「あれは俺が悪かったよ。謝るからさ」
「みんなも教えてくれてありがとうって言ってたし」
祐希(もう俺は、誰のことも信用しない)
(信じて絶望するのは、自分自身なんだから)
悟「病気はどうなの? 大丈夫?」
ひたすらに追いかける悟から、祐希は逃げ続ける。
祐希「悟には、友達がいっぱいいるから別に僕にこしつしなくてもいいでしょ」
「人の秘密ぶちまけて、友達増やしてさ」
「これからだって、そうやって生きていけばいいじゃん!」
と、吐き捨てる。
悟「もういいわ。俺、こっちだから」
「じゃあな、原井」
祐希(大切なもの……全部全部が壊れていく)
(じゃあなって、なんなんだよ)
(それくらいの言葉で簡単に切れてしまう関係だったんだ、所詮)
○(回想)学校からの帰り道、夜
緑色の桜並木の中、祐希と悟が並んで歩く。
祐希「あのさ……」
と、突然黙り込んでしまう。
悟「なんか言いたいことあるなら言えよ、俺たち友達じゃん」
祐希「うん、あのね」
「急に、病気が見つかって。もうあと、5ヶ月の命だって言われたんだ」
と、俯く。
悟「なんだよそれ。ふざけんなよ」
「5ヶ月って、超短いじゃん」
「ずっと、祐希と一緒に遊びたかったのに」
と、しゃくりあげる。
祐希「ごめん……。あと、このことは誰にも言わないで欲しいんだ」
悟「わかった。これから、今までよりもずっと、お前といっぱい遊ぶから」
祐希「ありがとう」
祐希(友達だと思ってた。あの涙は本物だと信じていた)
(裏切られるなんて、思いもしなかった——)
○(回想)教室、朝
ざわざわした教室に、祐希が入っていく。
クラスメイトA「原井くん、余命5ヶ月ってほんと?」
クラスメイトB「かわいそうに……」
クラスメイトC「無理しないでね。いろいろ手伝うからさ!」
祐希(あのことは、この学校では悟しか知らない)
(どうして……?)
悟「持つよ」
と、申し訳なさそうに祐希のバッグに手を伸ばす。
祐希「なんで?」
悟「ごめん。やっぱり、みんなも知っておいた方がいいと思ってさ」
祐希(その瞬間、僕は何もかも嘘だと分かった)
(この世界は、嘘でまわっている——)