佐渡 ③
Good bye, FILM #5
2016.8
降り続いていた雨がようやく止んだ朝、松林を抜けて海岸へと出る。
青い夏の空。ゆるい弧を描く遠浅の浜に穏やかな波。夏の太陽はすでに高く、水面に無数の光を反射させている。波打ち際にたむろしているウミネコを追って、湿り気を帯びた重い砂を踏み桟橋まで歩く。
ここは湾の最深部で、小さな木の桟橋から眺めると、左右にせり出す陸地の中央に外海が開けている。下を覗くと水の底が見えた。
桟橋を後にして、グラウンド横に残る背の高い松の間を抜けて路地を進み、アーケードの商店街に出ても閑散としている。シャッターを閉じたままの店舗がまた増えたようだった。
毎年、少しづつ変わる風景。古い家は徐々に姿を消して空地に、小川が暗渠になり、海岸沿通りが拡張され、風化した砂利の多いコンクリートの堤防と錆びた柵に代わって新しい護岸と広い駐車場が出現し、沿道にカフェができた。新しい道が開通して往来が減った旧道は、両脇やわずかなアスファルトの割れ目から触手を伸ばす草たちに侵食されつつある。
蔦に侵食された廃屋を過ぎて、がらんどうのショウウィンドウの角を曲がり、神社の境内を通り抜ける。海岸通りの一本裏の白くひび割れたコンクリートの路地には、白茶けた板張りの民家とスナック。つげの生垣、鈴なりのミニトマトと茄子、蔓の先の小ぶりな南瓜。角ばった酒の自動販売機。墓地に佇む夾竹桃が満開だ。
潮と湿気を帯びた生ぬるい風を受けながら、路地の真ん中をだらだら歩いていると、濃密な夏の空気がじわじわと身体に染み込んできて、いつもの日常は溶け出し、それからしばらくの間すっかり消えてしまうのだ。
2016.8 (35mm negative)
2010.8(35mm negative)