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【ホンナビ】コロナを抑え込んだ台湾。デジタルで国を導いたオードリー・タン氏の思想とは? 2021/02/03 #テンカイズ

今夜のプレゼンターは、NewsPicksエディター・プロデューサーの野村高文さん。
野村さんがおすすめする本を要約し“読んだ気にさせる”企画、「野村高文のホンナビ」をお届けします。

2020年、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス。
そんな中、世界が注目したのが、台湾。マスクの在庫が一目でわかるアプリの開発や、迅速な検査体制の充実など、35歳の若さで IT 担当大臣に就任したオードリー・タン氏が陣頭指揮を執り、デジタルを駆使した対応で感染の最小限に押しとどめました。今夜はそんなオードリー・タン氏の著書『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』に迫ります。


1. 「IT担当大臣」の肩書きだけでは収まらない、オードリー・タン氏の注目すべき要素

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宇賀:この方の顔と名前は、みんな覚えているんじゃないでしょうか。

野村「2020年の顔」の1人であったと言っても過言ではないですね。
今回のコロナで国によっては多くの死者が出てしまったり、医療崩壊が起きてしまっていますが、台湾は被害が少ない国の一つ。これはオードリー・タン氏による指揮の影響が非常に強いです。

宇賀:羨ましかったですもんね、当時。なんで我が国はこれができないんだろうっていうか。

野村:本当にその通りです。
オードリー・タン氏の人となりにも注目が集まりましたよね、35歳でIT担当大臣に就任という。

宇賀:日本の政治家で、30代で大臣っていないですよね。

野村:日本の場合、50代でも「若手政治家」と言われますからね。そうした年齢も注目されました。
加えて、トランスジェンダーという性的マイノリティであるという出自。かつエンジニア出身で、実際にシリコンバレーで起業もしているんです。

宇賀:この方が優秀であることは間違いないんでしょうけど、その人を大臣にするという思い切った決断がすごいです。

野村:実は今回、ちょうどこの本の翻訳をされた早川智久さんという方に取材をする機会に恵まれました。
早川さんは李登輝さんという台湾初の民間選挙で選ばれた総統の秘書を長年勤めていらっしゃった方なので、台湾の社会について深く精通されています。
その早川さんに、実際のオードリー・タン氏の人柄や、台湾の社会でなぜ感染を押しとどめる対策が実現できたのかを伺ってきたので、本の内容と共にお伝えします。

2. オードリー・タン氏の思想と3つの原体験

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野村:この本の中身は、コロナ禍で彼が何をしたかっていう時事的な話もさることながら、オードリー・タン氏の思想を全面に押し出している本なんです。つまり何に価値を置いているのか。

私がこの本から読み解いた思想が二つあります。
一つはインクルージョン。性的マイノリティの方も、ちょっと障害を持った方も、経済的にうまくいかない方も、より多様な方がうまく生活ができる社会を作ることが、オードリー・タン氏の価値の源泉なんです。

宇賀:それは10代で起業したときから?

野村:はい、本当に昔からこの発想があります。この発想に繫がる3つの原体験が、オードリー・タン氏にはあるんです。

一つは、ご自身の心臓が弱いこと
運動をするとすぐ心臓に影響が出て、苦しくなったり、場合によっては命に関わってしまう病気をお持ちなんです。自分の心臓の爆弾と付き合いながら暮らしていかなければいけなかったんです。

二つ目は、学校でいじめられたこと
オードリー・タン氏は理数系も強ければ、哲学も強い。哲学って、哲学者の名前や考え方の知識は知っていても、それを思想に実装するのは難しいですよね。でもオードリー・タン氏は、自分の行動や思想に実装できるような天才だったんです。だから子どもの頃に周囲から弾かれていた。それで学校に嫌気がさして、中学校を中退しているんです。

三つ目は、セクシャル・マイノリティであること
思春期の頃に、「自分は他の男性と少し違う」と気づき、性転換の手術をして体としては女性になった経験をされています。ただ、オードリー・タン氏の言葉を使うと、「私は男性の気持ちもわかるし、女性の気持ちもわかるんだ」っていうことをおっしゃっています。
性別を書く欄がある時は、「無」と書くらしいです。どちらでもない。私は私なんだ、と。

このような3つの原体験があって、多様な方々を包括(=インクルージョン)することが良いんだという思想が強くなったんです。


3. 35歳という若さで、なぜ政権へ?

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野村:インクルージョンという点では、実は台湾社会が日本以上にそこへの感度が高いらしいんです。
台湾の社会には民族がたくさんいます。山岳地帯には先住民族の方がいて、近代に中国大陸から渡ってきた方もいて、現代になってから渡ってきた方もいるので、かなりの多民族国家なんです。

歴史としては、もともと台湾島に住んでいた人たちを中国大陸から渡ってきた少数派の人たちが支配する構造があり、対立していた時期が長く続いていました。ただ1990年代に民主化されたことによって、自分たちの投票によってリーダーを選べるようになり、自分の民族以外のことも分かるようになりました。
その結果、多民族国家の中で自分とは違う人に対する理解が強まっていったんですね。

日本の場合、同質性が非常に強い社会ですよね。
それよりも台湾という社会が、もともとそういった違いを受け入れる、むしろそこを良しとする土壌があったことが、オードリー・タン氏が今回出てきた一つの背景になっています。

宇賀:でもどういった経緯で、デジタル大臣になることになったんですか?

野村:2016年、蔡英文氏という女性総統が当選しました。当時すでにテクノロジー界隈ではオードリー・タン氏は有名人でした。すると蔡英文総統から、

「私はデジタルで台湾を改革したい。政治も分かって、デジタルも分かる人を推薦してくれないか」

と言われたらしいんです。

知り合いを探したんですが、いなかった。だったら自分がやろう!と手を挙げたようです。

宇賀:探して欲しいという依頼からだったんですね!

野村:そこで政権に入る代わりに出した条件があって、それが実はオードリー・タン氏の二つ目の思想に繋がっているんですが、それが「オープン」ということです。

政府において私が関わるところの議事録を全て、台湾の市民に公開してくれ、と。密室で何かを決めるのではなく、全ての意思決定プロセスを徹底して公開することを条件にしました。

宇賀:素晴らしい。

野村:オードリー・タン氏のご両親は、もともと台湾の民主化運動に携わられていました。密室で何かが決まるよりも、民主主義で物事を決めることに対する価値を、子どもの頃から感じられていたんです。そこがすごく大きいと、早川さんもおっしゃっていました。


4. まだまだ感染が続く日本、台湾から学べることは?

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野村:最後に、日本はどうなのか。
日本は東アジアのリーダー的な立場でいるところがありますが、今回に関しては明らかに隣国の方が成果を出しています。

だからこそ、台湾が成果を出した理由は何だったのか、これほどオープンでフレキシブルな対応がなぜできたのか、真摯に学ぶタイミングが来ているのだと思います。

宇賀:これだけデジタルテクノロジーの時代になれば、その国の大きさや人口だけでなく、小さいからこそ動きやすい、変化しやすいこともありそうですね。

野村:その通りです。数で戦う方法ではないやり方が、これから出てきます。
一点において秀でておいて、それによってこうした混乱期に成果を発揮するような戦い方が、この先の国際社会ではあるのではないでしょうか。

これは国際社会に限らず、民間企業も当てはまります。大資本が勝つわけではなく、小資本でも「ここで尖れば勝てる」という強みがあれば、成果を出すことができます。

そうした意味でも、台湾の今回の対応、オードリー・タンさんのパーソナリティ、そしてオードリー・タンさんのような人を要職に据えられる社会構造などから学ぶ点は多いです。


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