
#18『マッドマックス:フュリオサ』ネタバレトーク&追記
各ポッドキャストに『マッドマックス:フュリオサ』のレビューをアップしました。
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『マッドマックス 怒りのデスロード』から9年。
待望のシリーズ最新作にして、戦士フュリオサのこれまでを描く前日譚をネタバレありでレビューします。
ジョージ・ミラー監督がアニャ・テイラー=ジョイとタッグを組み、新たな"物語"を紡ぎ傑作を生みだした!
〇Summary〇
新しいアクションはまだある
ジョージ・ミラーの物語=ナラティブ論
前作『アラビアンナイト 三千年の願い』にヒントがある
ジョセフ・キャンベルが指摘した『千の顔を持つ英雄』の構造
『怒りのデスロード2』はもうすでに作られている
旧三部作との類似性
ジャックは都合がいいキャラクターでも、フェミニズム的理想の男性像でもない
イモータン・ジョーの物語~語られたこと、語られなかったこと~
追記(配信後に別媒体で書いた文章を再掲)
シリーズ前作から9年。
待望の新作となったが、その内実はジョージ・ミラーが生涯をかけて追及している"物語(ナラティブ)"そのものだった。
監督の前作『アラビアンナイト 三千年の願い』で示されたテーマとは、
「高度に科学技術が発達した現代において、物語は存在価値を持つか」であった。
古代、人々は「雷」は神の怒りだという神話を当然のようにもっていた。
科学技術が進歩するとともに、「雷」は神の怒りではなく、雲の摩擦によって発生する静電気へと変容し、神話はその力を失った。
これは、現在作劇を生業とするジョージ・ミラーの実存にかかわる問題である。
『マッドマックス:フュリオサ』には、大きく分けて2つの勢力がある。
ディメンタス率いる勢力と、イモータン・ジョー率いる勢力だ。
作中ではリーダーの統率力が対照的に描かれる。
イモータン・ジョーは、彼のために命を投げ出すウォー・ボーイを多数抱える。
ディメンタスは、部下の暴走を止められずに内部崩壊を引き起こす。
2人の支配者の違いは、"物語"をもつかどうかだ。
ウォー・ボーイたちは「イモータン・ジョーに殉じれば、英雄の館(ヴァルハラ)へ行ける」という物語を信じている。
が、ディメンタスの部下たちはそのような物語をもっておらず、単に資源を奪い、権力者になることだけを目的としている。
物語の力は恐ろしく、強大だ。
現実の戦争でも、士気高揚に効果的なのはいつも物語だ。
「約束の地を奪還する」「我が民族は不当に抑圧されている」「我らの神の正当性を世界に知らしめる」という物語の下、今現在も数多くの犠牲者が出ている。
物語の負の作用は残酷だが、強い物語をもつものは決して負けない。
『マッドマックス:フュリオサ』の根幹、終盤の描写は、まさに"物語"を紡ごうとしている。
ヒストリーマンの語りによって紡がれた物語。
さまざまな出来事が描かれるが、なにが真実かは重要ではない。
重要なのは、フュリオサという人間の神話性を高めているか。である。
もしかすると、今作のヒストリーマンの語りは『マッドマックス:フュリオサ』時点ではなく、『マッドマックス 怒りのデスロード』後、つまりフュリオサが新たな為政者となった後に語られたものかもしれない。
イモータン・ジョーがもっていた神話を、フュリオサが補完するために。