見出し画像

#35『ナミビアの砂漠』ネタバレトーク(の進行台本)

各ポッドキャストに『ナミビアの砂漠』のレビューをアップしました。

Apple Podcast ←Appleユーザーの方はこちら

Spotify Podcast ←Appleユーザーでない方はこちら

『あみこ』で数々の賞を受賞した山中瑶子監督、待望の商業長編デビュー作をネタバレ有りで語ります。
現代日本のトップ俳優の座を欲しいままにする河合優実とのタッグはどんな化学反応を生んだのか。

○Summary○

  • この映画には"罠"が仕掛けられている

  • 根源的に、肉体を削いで観てみる

  • 辛辣な眼差しを見逃すな

  • 次回作はきっと……

進行台本

収録に使った台本を掲載します。
自分用なので誤字脱字などはご愛敬。

巧みな罠に気をつけろ
天下御免の映画バナシ

改めましてご機嫌いかがですか
このポッドキャストは
私カシマが、毎週新作映画を取り上げ
ざっくばらんに、忖度なしにネタバレ全開で語るプログラムです。

番組のフォロー、お忘れなく。

ということで本日の映画は「ナミビアの砂漠」です

初監督した自主映画『あみこ』で数々の賞を受賞した山中洋子監督の
商業デビュー、初長編作
東京で暮らす21歳のカナが、生きていく様子を収めた今作。

主演は、現代日本映画のトップランナー河合優実
わきを固めるのは、金子大地、寛一郎、唐田エリカなどなど
ということになっております。

1周遅れですがみてきました。
感想を一言でいうと、非常によくできた映画であり、罠が仕掛けられているのではないか。
ということですね。

山中監督なんですが、話題になった『あみこ』
これ、公開されたときにですね。とある映画ライターさんに
「とんでもない傑作があるから見に行こうよ」って誘われて
見にいったんですよポレポレ東中野にね。
で、見終わって。ぼくを誘った映画ライターさんに言ったんですよ。
「よくもこんな映画に連れてきやがったな」ってね。
ぼくあみこ大っ嫌いなんですね。全然面白くなくて。
で、全然面白くなかったのに「これはいい!」って中年どもが褒めてるのをみて
気持ち割いなって思ったんですね。
まぁこれはその映画ライターさんに直接「若い監督褒めて悦にいってるだけでしょ」って言いましたが、彼は笑ってましたけども。
同時上映されてた監督第2作の短編『うお座どおし』は面白かったですけどね。

この映画の公開前、情報がでたときにですね
すでに『あみこ』で熱いまなざしを送っていた映画ライターのみなさま、映画ファンのみなさまがね
「これはきっと現代日本での女性の生きづらさを告発するものになる」とかね
「男性社会を斬るものになる」とかね
そういう風な見方をされていた気がします。、私の観測範囲でのことですが

で、実際見てみてですね。
たしかにそういう面はあるんですが、根本は全然違うとおもいました。
これは結構、元も子もない話なのではないかと。
すなわちこれは「どうしようもない人が、もうちょっとちゃんとせいと言われて、ちゃんとしようかな」と思う。という映画なんですね。
カナという人間、カナというキャラクターを通して社会を描いたのではなくて
あくまでカナ個人の問題として描いたのではないかと思いました。
ですから、けっこう意地悪な映画だなとも思いました。
ともすれば「俺は若い女性監督の活躍を応援する度量と進んだ考えを持っていて、ほかの男たちとは違うんだ」と思っているおじさんは、結構見誤るじゃないかなと思いましたね。

まずオープニングは街中、カナが歩いているのをロングでとらえたカットから始まります。
ぐーっとズームインしていきますね。
この映画、ズームインがいいですね。
ズームってすごく難しいんですよ。
ズームインがいいのはすごいですねえ。
一番印象に残っているズームインは40分ごろにタイトルが出ますね。
長いアヴァンだったんだと皆思うところですね。
そのタイトルの直前、歩道橋の上にいるカナが、下にいるハヤシに手を振るシーンです。
あそこで、ぐあっとカナによります。あのズームインは素晴らしいですね。白眉のカットではないかと思います。

で、最初に戻ると、
友達とお茶する場面になりますね。
で、友達に、昔の知り合いが無くなったことを話されますが
カナは近くのテーブルで男たちが「ノーパンしゃぶしゃぶ」について話している。
のに気を取られる。というところ
これはねぇ、この映画に仕掛けられた最初の罠だと思います。
だってね、別にカナはノーパンしゃぶしゃぶの是非とか、そういうことには一切関心がないんですよ。
この場面では、カナは人と話してるときに気が散る人であるという、キャラクターの紹介に過ぎないのではないかと。
だからなんでもいいんですよ。
野菜が高くなったとか、あれ本読んだ?とか、最近はサンボマスター聴いてるとかね。
でもノーパンしゃぶしゃぶをセリフとして選んでるんですね。
でこれ、ノーパンしゃぶしゃぶってもうないですからね。
大蔵省が接待で使ってたノーパンしゃぶしゃぶは。
あっでものちに財務省の官僚が出てきますからね。もしかしたらまだあるかもしれない。
そういうことを伝えたいのかもしれない。
というのは冗談ですが。
だからね、ここは気が散るってだけだと思いますよ。
罠っていうのはこういうことです。

ホンダと別れる
ハヤシと暮らし始めたところ
つまりタイトル以降。
カナはもうことあるごとに怒ってるんですね。
物を投げて、暴言を吐いて、叩いて。ハヤシと喧嘩しまくるんですね。
そのときに印象的なセリフがいくつも出てきますね。
例えば
「少子化と貧困で日本は滅びます」とか
「お前みたいな男が作ったものがはびこったら毒」とか
「脱毛サロンは情弱がいくところ」とかね
これはねぇ、面白いですね
だって、カナは本気じゃないんですよ。
自分はそのときは本気だと思ってるでしょう。
でもほんとはほんとじゃないんです。
カナは怒りたいから、怒ってんですよ。
ヤンキーが「何見てんだあ」って喧嘩売りますが
あれは、見たから喧嘩売るんじゃないですね。
人を殴りたいから、見ただろって因縁つけるんですね。
そういうことですよ。
これもね、罠ですよ。
全体通してね、言えますが
カナはね。どうしようもない人です。
他責で、怠け者で、ろくに働けなくて、社交の一つもできない。
でもね、このカナを「魅力的」とか「新世代のヒロイン」と書いてる人が多いんですよ。
それってさ、河合優実だからでしょ?って思いますけどね。
もちろん、ダメな人悪い人を魅力的にみせるのが俳優の力映画の力だとはわかっていますし、その魅力におぼれたいのも十分理解できますが
カナが、あえてこういういい方しますよ、デブでブスの子汚い女だったら
みんな「魅力的」とは思わないんじゃないですが
確かに河合優実は素晴らしい俳優です。立派な演技力とはかなげな表情の破壊力抜群です。
みんなるっきずむには敏感でも、知らず知らずに目をつぶってるんじゃないでしょうか

で、なんで僕がこうおもったかというと
ラストが結構残酷だと思ったからです。
オンライン診療を受けるところ以降ですね

オンライン診療では「病名が欲しいんです」とカナ
ラベリングが欲しい、病気のせいにしたい
カウンセリングでは「ロリコンが小さな女の子犯したいと思うのはいいんですか」
カウンセラーは上手に答えずに、お前の話してんだわ

極めつけが
お隣さんの唐田エリカ演じるヒカリが出てくるところですね。
ヒカリはカナにこう言い放ちます「英語でもやったら?」
ナミブ砂漠のYouTubeライブを見てダラダラするくらいなら
なんか自分のためになることしなよ

これは痛烈ですね。
しかも中盤にとなりから英語の勉強している音がきこえてきますからね
お隣さんは自分のために研鑽してるんですよ。
それをつきつけられるんですよね。

で、ルームランナーから降りるイメージ映像ですね。
これは走ってるつもりが、全然前に進んでなかった。体力だけを消耗してたと
カナはやっとそれからおります。

だからね。
全然甘やかしてないんですね。
人のせいにするなお前がもっとちゃんとせえ、ってカナの周りがいってくるんですね
これは面白いですね。
うわぁなるほどと思いました。

アリアスターが絶賛してましたけど、それはよくわかりますね
「ミッドサマー」に似てるんですよ。お話が、じゃなくて仕掛けが
ミッドサマーって公開直後は「女性は鑑賞したらすっきりする。男どもざまあみろ」みたいな感想が多かったんですけど。
これは危険な勘違いで、ミッドサマーってのはカルト宗教の洗脳プロセスを映画にしたものですから、これでいい気持ちになったって言ってる人は、まんまと洗脳されてるんですよ。
ホルガ村に取り込まれてるんですよ。
だからね、この映画もカナの魅力に押されて、「新世代のヒロイン」だ!なんていってると
まんまと騙されちゃうんじゃないかなと思いますね。

だから本当に巧みな映画だと感心しました。
で、また『ナミビアの砂漠』ってのも罠ですよ。
なにか意味がありげじゃないですか。高尚っぽいんですよ。
でも、これ単なる暇つぶしでしかないんですよね。
だからこの映画のタイトルは『ティックトック』でもいいんですよ。
そっちの方があってると思います。
でも「ティックトック」だと、なんか、ねぇ。
てのもうまいな、と思いました。意味のないものをまるで意味ありげに見せる。
その巧みさ、ちょっとした意地悪さ。面白いですね。

映画の構造についてお話してたんで、撮影編集についてもう少し触れたいと思いますが
いいカットがたくさんありました。
特に一枚絵の迫力があるカットがいくつもあって楽しかったですね。
で、スタンダードサイズという縦横3対4アスペクト比の選択もよかったですね
肉体をとるのに適している比率だと思うので、
河合優実はじめ俳優陣が魅力的にとらえられていました。

いくつかいいカットを上げたいとおもいますが
まずはカナとハヤシがトイレで対面座位放尿するところですね。
これは照明も相まって面白いカットだったと思います。
あとカナが事故ご、ナミブ砂漠のYouTubeを見ている場面。
カナを真上から捕えますね、頭が下、足が上になっているカット
このカットも素晴らしいですね。

で、いいカットはたくさんあるんですが
編集がちょっと、不満でした。
物語のリズム感的に、中途半端だなと思いました。
これはもっと短いか、もっと長いほうが面白いんじゃないかと。
120分斬るか、思い切って3時間にしちゃうとかね。
でこれあとで知ったんですが、
これもともとは3時間半くらいあったそうで、それを2時間20分にカットしていると。
工業的都合もわかるんですが3時間半のほうが面白かったんじゃないかな。
と思いますね。もっとつまんないシーンがおおくていいと思いますね。

最後のもう一つ
これは小ネタなんですが
話題になった『あみこ』では主人公が尾行をするシーンでBGMとしてエリック・サティのグノシェンヌがかかるんですね
これ「その男凶暴につき」ですよ。
まんま北野武第1作のパロディですよ。
で今作『ナミビアの砂漠』では、ホンダからもらう花束が「極楽鳥花」なんですよ
これ『3-4x10月』ですよ。北野武の第2作を引用してんですよ。
花束にマシンガンは入ってなかったですが
だから、次の作品は壊れたサーフボードが出てくると予想して。

はい、それでは今週はこの辺で
面白いと思ったら高評価、コメントよろしくね
ということで、それではみなさん、また来週



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?