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ポール・バーホーベン監督に会った時の話 ①

1.死にたいくらいに憧れた

ポール・バーホーベン。
なんと美しい響きだろう。

皆さんご存じ『ロボコップ(1987)』をはじめ『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣(1985)』『ショーガール(1995)』『スターシップ・トゥルーパーズ(1997)』『ブラックブック(2006)』などなど数多の傑作/衝撃作を世に放ち続ける男。
キレッキレの大傑作『ベネデッタ(2021)』が公開されたときは83歳!
86歳の今なお新作を作り続けている、とてつもなく偉大な巨匠マエストロである。

最高の映画監督。頼むから長生きしてくれ。

私はポール・バーホーベンが好きだ。大好きだ。
氏の作品を全肯定しているのは当然のこと、
すべての映画をポール・バーホーベンが撮ればいいと本気で思っている。

これは中学時代に初めて『ロボコップ』を観た時から変わらない。
田舎の片隅で暮らし、レンタルDVDでしか映画が観れなかった環境だった。
ルトガー・ハウアー/危険な愛(1973)』がどうしても観たくて、親に頼んで比較的都会のレンタル屋に連れていってもらったこともあった。
結局オランダ時代の作品は1本も観れなくて、田舎の文化力の低さを恨んだね。
飢えれば飢えるほど、映画への、映画監督への、そしてポール・バーホーベンへの憧れは募るばかりだった。

言ってみりゃThe Mamas & the Papas『California Dreamin'』のごたる。

夢捨てきれず大学卒業後、上京。
某映画学校に入学した私は、現場で汗を流したり、七顛八倒しながらシナリオを書いたり、撮影中に同級生と喧嘩したり、解釈をめぐって同級生と喧嘩したり、とまこと健全な映画学生をやっていた。

時は2017年5月。
初年度のカリキュラムの総仕上げが始まる頃のこと。
(母校は9月入学、8月修了というスケジュール)
みなみな修了制作のためバタバタと準備に励んでいた。
私もその波に揉まれ、自作の準備や、同級生の作品でのスタッフワークでスケジュールが埋まりまくっていた。
5月から7月にかけて、現場現場の日々。

そんなかんじでバタバタしていた2017年5月某日。
私、25回目の誕生日。
映画学校の事務局から一本のメールが届いた。

2.史上最高の誕生日プレゼント

「今年度のマスタークラスを開講します。
6月24日にポール・バーホーベン監督をお招きし、特別講義を開きます。」

……たまげた。
そんなわけがないからだ。
ポール・バーホーベンなんて来るわけがない

母校では不定期で、マスタークラスという授業が開かれる。
海外の映画監督をお招きし、特別講義をしてもらうのだ。

うちの学校の設立者は渋谷の某ミニシアター代表と、御茶ノ水の某フランス系文化センター代表。
講師陣の顔ぶれを見ても、「映画狂人」を自称する某最高学府の総長を師と仰ぐ派閥が多数。
そんなわけで、これまで開かれた特別講義の顔ぶれといえば……

  • テオ・アンゲロプロス (ギリシャ)『旅芸人の記録』

  • ビクトル・エリセ (スペイン)『ミツバチのささやき』

  • アッバス・キアロスタミ (イラン)『桜桃の味』

  • アキ・カウリスマキ (フィンランド)『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』

  • ヴィム・ヴェンダース (ドイツ)『パリ、テキサス』

などなど……

と、シネフィル憧れが泡吹いて倒れる布陣。
うちの学校に……もうめんどくさいな。映画美学校です。映画美学校。渋谷の。ユーロスペースのとこにある。ラブホテル街の中にある。あの。知らない人は調べてみてください。
そこに入ろうなんて輩にとってはたまらんでしょうな。

しかしこちとら田舎もん。
上記監督の映画なんて観たことが無いんですわ。
観れないんだもん。
そもそも芸術には全然興味が無くて、娯楽映画一筋だったもんで。

で、何でそんな人間がシネフィル(と、そう自認しているだけの有象無象)が集う映画美学校に入学したかというと、学費が安かったから

ま、それはどうでもいいとして。

そんな学校だから、まさかポール・バーホーベンが来るなんて。
『ロボコップ』だよ?! 『スターシップ・トゥルーパーズ』だよ?!
入学したとき、最初の飲み会で「ポール・バーホーベンが好きでねぇ……」と話していたら同級生に「観たことなーい」って言われたんだぞ。
そいつはシネフィル憧れの強いやつだった。コノヤロー。岩波ホールばっかり行きやがって

岩波ホール。2022年閉館。偉大で貴重な映画館でした。

ま、それもどうでもいいとして。

なぜポール・バーホーベンが来ることになったか。
というと『エル ELLE』がフランス映画祭で上映されることになり、その兼ね合いだというのだ。
嗚呼、ありがたやフランス映画祭。
上層部がフランスかぶれで良かったー

ということで早速講義要綱をチェックしたのだが……

3.天は我々を見放した

講義要綱には以下の2点が書いてあった。

  1. 開講日は6月24日。19時から。

  2. 今回の講義は「フランス映画祭」と合同のため、一般希望者も含めて応募制とする。受講希望者多数の場合は抽選となる。

>>受講希望者多数の場合は抽選となる。

気分はストーン・コールド・スティーブ・オースティンの客。

抽選だと……

てことはなにか?
「バーホーベン観たことなーい」って言ってたあいつが当選して、このオレが落選する可能性があるって言うのか?

そんなことは許されない。絶対に。
しかもだ。

開講日の6月24日には、別の同級生の監督作品の撮影日。
しかもその現場に助監督として参加するのだ!

なんたる痛恨。なんたる不運。
分かっていれば絶対に撮影スケジュールなんか入れなかった。
スケジュールを切るのは助監督の仕事。
しかし今さら撮影を無しに、なんてことはできない。

「どうしよう……諦めるしかないのか……」

いや、違う。
神様は乗り越えられない困難を与えないという。

乗り越えてみせよう。高すぎる壁を。

憧れのポール・バーホーベン監督。
その特別講義に参加するための戦いが始まった。

(つづく)

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