インド神話と宝石のお話。太陽神スーリヤの象徴とルビーについて。
キラキラした宝石が大好きなので、インド神話と宝石を調べている。
今回の記事では太陽神スーリヤと、スーリヤの象徴であるルビーや蓮の花などについて追いかけてみようとおもう。
ちなみに宝石の意味については、スピリチュアル的な視点で述べたものではないのでご了承いただきたい。
太陽神スーリヤ
スーリヤは、インド神話(ヒンドゥー教の神話)における太陽の神だ。
天空の神であり、太陽そのものが神格化された存在として崇められてきた。
古代の聖典『リグ・ヴェーダ』では天の眼とされる。
インドの灼熱の太陽は、水を奪い、熱ですべてを滅ぼす。
乾季の太陽は優しくはない。
天の眼として天界から地上を見下ろし、裁きを下す強い力の象徴でもある。
日本人がイメージする太陽とはおそらく根本的に違う、凄まじい力を持っている星、それが太陽だ。
しかし、太陽の恵みあってこそ穀物は実る。
太陽が季節を巡らせ、寒い冬から春を呼び、雨季を連れてくる。
恵みの神でもあり、厳しい神でもある。どちらも太陽の姿だ。
古代の文献には、他にも太陽が神格化された神がいたが、スーリヤが太陽神として統一されるようになっていく。
その後スーリヤはバラモン教が土着の要素を取り込みヒンドゥー教になっていく過程で、他の神々に太陽としての力を吸収されていった。
現在のヒンドゥー教の主神であるヴィシュヌは、元々は太陽の神であったこともあり、スーリヤの姿を描くときにヴィシュヌの姿をとる場合もある。
現在のインドでは、スーリヤは主神のシヴァやヴィシュヌと比べると扱いは軽めだ。
しかし、過去にはスーリヤを崇拝する王もいて、インド中にスーリヤ寺院が建てられていた時代もあった。オリッサ州にある世界遺産のスーリヤ寺院の規模をみれば分かる通りなのだが、その大きさからして建設にかかった費用は莫大なものだっただろう。ここまでの寺院はインドでもなかなかおめにかかれない。
スーリヤの神話
古代では太陽神としての存在が強かったスーリヤだが、後世のプラーナ文献にはいくつもの物語がある。
・乳海攪拌のときに月と共に生まれた
・ブラフマーの息子であるカシュヤパ仙と妻アディティの間に生まれた
・7頭の馬に引かれて天を駆けめぐる
・一年の月の数に応じて、ガンダルヴァやヤクシャなどと共に天を巡る
・スーリヤはヴィシュヴァカルマンの娘サンジュニャーと結婚した
・サンジュニャーは夫のスーリヤの熱に耐えられず実家に帰ってしまった
乳海攪拌のときに太陽が生まれたのなら、父がカシュヤパというのはどういうことだろうと考えてはいけない。インド神話は様々な聖典によって無数のバージョンがあるので、それはそれ。これはこれだ。
しかし、スーリヤが軽視されているわけではない。
また、叙事詩『マハーバーラタ』では、スーリヤはアルジュナの宿敵カルナの父親として登場する。未婚のクンティー王女とスーリヤの間にできた子であるカルナは、クンティーによって生まれてすぐ川に流された。御者はカルナを拾って育てた。成長した彼は立派な戦士になった。
カルナはアルジュナとの戦いで亡くなるが、父のスーリヤがいる天界へ旅立ち、スーリヤと一体化した。
叙事詩の中でのスーリヤは主人公ではない。ただ、アルジュナ(インドラ神の息子)とカルナ(スーリヤの息子)が敵対するという構造は、アルジュナ が雷雨だとしたら旱魃を引き起こす太陽との戦いを模しているという沖田瑞穂先生のご指摘もあり、面白いと思う。
また、太陽は天の炎と考えられている。
古代インドでは、炎(アグニ)は供物を天に運ぶ重要な神だった。
神々に声を伝えるためホーマ(仏教の護摩のもとになっている)という儀式を行う際、バラモンたちは炎を使う。
アグニの炎は、天界では太陽に、空中では稲妻に、地上では祭火になる。
人体の中にも炎は宿り、思想や怒り、霊感を与える光にもなる。
つまり太陽は天の炎であり、天界で最も尊く、力強い。
そんなこんなで、古代から続く太陽神スーリヤへの崇拝は今でも続いている。
インド占星術におけるスーリヤ
紀元後の叙事詩やプラーナ等の文献では地位が低くなったスーリヤだが、インド占星術の中ではとても重要な存在とされている。
ナヴァグラハ(9つの惑星神)は以下の通りだ。
(1)太陽 スーリヤ
(2)月 チャンドラ
(3)火星 マンガラ
(4)水星 ブダ
(5)木星 ブリハスパティ
(6)金星 シュクラ
(7)土星 シャニ
(8)ラーフ
(9)ケートゥ
インド占星術の中のスーリヤはこのような属性を持っている。
・乗り物:戦車(7頭の赤い馬が引く)
・持ち物:開いた蓮の花、チャクラ
・金属:銅
・エレメント:炎
・供物:砂糖で煮た米
・穀物:小麦
・花:ハイビスカス、扶桑花、仏桑華
・宝石:ルビー
・色:赤
・宇宙の色:赤
・位置:中心
太陽神を崇める祭りときには砂糖で煮た米を供えるのがよいとか、ルビーは太陽の石とされるのも、インド占星術に則ったものなのだろう。
ルビーはその強い力ゆえに、吉にもなるし凶にもなるという。
また、太陽神を表すときには車輪を使うことがある。
コナーラクのスーリヤ寺院の土台には、巨大な車輪がいくつも彫刻されている。太陽神スーリヤは馬車で空を駆けるので、寺院自体を馬車に喩えて建築されているのだ。
この車輪は日時計になっている。車輪の影で時間がわかる。輻は24時間を8等分してて周りの小さな彫刻も分単位での時間がわかるように刻まれてる。
車輪はチャクラでもある。車輪は太陽の象徴とされる。ヴィシュヌの持物とされるリング状の武器のチャクラも、太陽の象徴といえるのかもしれない。
太陽の宝石ルビー
ルビーは、マハーラトナの1つだ。
マハーラトナ(偉大な宝石)はインドで重要だとされる5つの宝石のことで、ルビー、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、真珠の5つの宝石をさす。
前述した通り、ルビーはインド占星術では太陽を表す宝石だ。
インドの太陽は強く厳しく、乾季には干魃を引き起こす。その凄まじい力はルビーが象徴していると考えられている。
そのためか、ルビーは夏を表す宝石だと考えられている。
赤は血の色でもある。生命力そのもの。赤は力、勇猛さの色だ。
また、赤は吉祥の色でもある。インドの花嫁は真紅のサリーを身に纏う。
赤は炎の色でもある。先ほど述べた通り、炎はアグニである。
赤は天に供物を届ける祭火の色だ。
炎は全てを燃やして浄化する。
浄不浄を重視するヒンドゥー教にとって、炎は特別な存在だ。
ルビーが神の炎であるならば、最も清らかで力がある石といえるだろう。
連想ゲームだと思われるかもしれない。しかし、インド哲学には、宇宙や神のような存在と個は等しいとする『梵我一如』の思想がある。
何かの象徴が、全く違うように見える何かと同義であることはインドではよくあることだ。同一視されるその背景には、なにかしら繋がりがある。
ルビーは、戦士階級であるクシャトリヤたちに特に好まれたらしい。
猛き血にはルビーの赤がふさわしいと考えられたのだろうか。
クシャトリヤには、スーリヤの子孫、スーリヤヴァンシャだと名乗る者たちがいる。もしかしたら彼らは特にルビーを重視していたのかもしれない。
そういえば、映画『パドマーワト』のメーワール王国軍は、太陽の旗印を掲げてスーリヤヴァンシャを名乗っていた。
歴史的には、ルビーは古代からとても重要な宝石と位置付けられていた。
『アルタ・シャーストラ』によると、ルビーは国が品質を管理していたし、パドマラーガ、つまり赤い蓮の花の色をしたルビーが珍重されていた。今でもルビーはラトナラジュ、宝石の王とも呼ばれている。
蓮の花とルビーと太陽
蓮の花といえば、ルビーと同様、太陽と関連づけて考えられることがある。
蓮の花びらは、太陽の光線のように均等に花開く。
太陽神スーリヤは蓮の花を両手に持っている。それらは太陽そのもののように花びらで放射状の光を表している。仏像の後光の表現に蓮の花を使っていたこともあるくらいなので、蓮の花と太陽は図像的にも共通点がある。
赤い蓮、ルビー、太陽、それらは同じものだと考えられていたのだろう。
また、蓮の花は泥の中から花を咲かせるので清浄だとされる。炎と同じく浄である存在なのだろう。
お守りとして有名なナヴァラトナのジュエリー(9つの宝石を全部盛りしたアクセサリー)を作るときには、ルビーは必ず中心に置くことになっている。理由としては、太陽の光線の光や力が、惑星に広がるようにという意味合いもあるようだ。
歴史的には、インド国内にもルビーが取れる鉱山はあったようだが、良質なルビーはスリランカやミャンマーなどから輸入していた。
また、スピネルとルビーは混同されていたこともあり、ルビーとされる宝石のアクセサリーがスピネルで作られていたケースもある。
赤い色の宝石は、人々を魅了してやまなかった。そして今でもルビーは、人々に珍重されている。
まとめ
ここまでみてきたように、太陽そのものがルビーだと考えるのなら、ルビーはとても強い力を持った石だと考えられてきたのはお分かりいただけるだろうか。
灼熱の太陽であり、生命の源でもあり、炎でもある宝石。
インドの人たちにとって大切にされてきた石。それがルビーなのだ。
※この記事について
キラキラした宝石とか天然石とかアクセサリーが大好きなので、インドの宝石についておいかけていたらインド占星術にたどり着いた。
せっかくなので、神話や宝石、惑星の神々の物語についてまとめてみようと思う。インドの宝石の歴史や、9つの宝石ナヴァラトナについてはこちらの記事を参考にしてほしい
こんな本を書いてます
参考文献
・リグ・ヴェーダ讃歌 (岩波文庫) 辻直四郎訳
・カウティリヤ 実利論 カウティリヤ 上村勝彦訳
・占術大集成 ブリハット・サンヒター 古代インドの前兆占い ヴァラーハミヒラ
・占星術師たちのインド―暦と占いの文化 (中公新書)矢野道雄
・Traditional Jewelry of India Oppi Untracht
・マハーバーラタ入門 インド神話の世界 沖田瑞穂
・インド神話伝説辞典 菅沼晃編
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