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製造業に求められる変革×新たなビジネスチャンス ~サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える~

製造業が環境や社会問題に対してなぜ取り組まなければいけないのか、どう取り組めばいいのか?
そんな疑問に対してサーキュラーエコノミーを切り口にヒントを提供してくれる一冊「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」をご紹介します。

サーキュラーエコノミーの政策動向の実態や産業(特に製造業)に与える影響を知りたい方はもちろん、新たなビジネスチャンスを見つけたい方に必読の一冊となっております!

今回は、本書の重要なポイントのうち、欧州を中心とした政策動向と産業に与える影響に絞ってご紹介しつつ、補足として、新たなビジネスチャンスはどうやって見つけるのか?考察したいと思います!


1.本書の概要

2.サーキュラーエコノミー政策の影響
(1)政策の現状
(2)政策の影響

3.産業に与える影響
(1)製造業に求められる変革
(2)CEを支えるシステム
(3)システムを支える技術

4.補足(新たなビジネスチャンスの見つけ方)
(1)誰が変革するか
(2)持たざる者だからこそできること

5.まとめ
「持つ者のジレンマと持たざる者のジレンマ」そして、持たざる者が生き残るためにはどこを攻めればいい?


1.本書の概要

本書は環境問題の解決や持続可能社会の実現に向けた、構造的理解と実践的解決方法の研究をしていらっしゃる、東京大学の梅田靖先生が監修されています。
2021年に出版された本書は、サーキュラーエコノミー関連書籍の中では最新の情報を政策・ビジネス・テクノロジーといった、多面的な分析を行っています。
こうした分析を基に、サーキュラーエコノミー(CE)がもたらす社会的な変革、ビジネスにおける諸外国の取組とその影響、さらに日本企業がどう変革していくべきか。が述べられています。
本書では、数多くの企業や団体にヒアリングしており、そこから分かったことは、多くの欧州企業のサーキュラーエコノミーに対する認識は、これまでのCSR的発想とは大きく異なるということです。
法律を遵守しなければいけないからCEに取り組むのではなく、CEが重要だから企業が取り組むという考え方が浸透しています。
「重要」というのは、環境的・社会的な観点からの重要性はもちろん、ビジネス上の重要性も強調されています。

2.サーキュラーエコノミー政策の影響

欧州地域においてナゼCEが重要視されているのか?環境・資源の課題解決と欧州域の産業復興の大きく2つに分けて考えることができます。
・環境・資源の課題解決
金属や燃料などの資源、食糧に対する需要は世界の人口増加に伴って増加しており、OECDの調査では、世界全体では2011年からの50年前の約2倍に増加すると予測されています。
これに伴い資源価格の高騰や供給の不安定化が進み、食糧不足に伴う移民問題などが表面化しています。

・欧州域内産業の復興
かつて産業革命によって発展した多くの製造業は欧州から世界各国に展開し、アメリカ、中国、などの諸外国に産業の中心が移りつつあります。
そうした中、EU経済圏の中の経済格差による不平等感、ギリシャが国家財政破綻による市場の不安定化等、欧州域内における産業の復興が強く求められています。

こうした背景の下、欧州委員会は環境保護と経済構造の変革の必要性を強調するようになりました。

(1)政策の現状

2015年に欧州員会はCEパッケージを発表し、6つの柱によって構成されており、さらに細かい54の行動計画に落とし込まれ、近年はCE関連の政策・規制の具体化が進んでいます。

  • 生産(製品デザイン・製造プロセス)

  • 消費

  • 廃棄物処理

  • 再生材活用の促進(プラスチック、生ごみ、建設材料、電子機器、バイオマス)

  • 投資(イノベーションをおこす投資資金・公共調達)

  • モニタリング

これらの目標に対して、多くの項目が達成されているが、資金確保や優遇措置、エコデザインの項目は未達の状態です。
2020年には「循環行動計画」が打ち出され、CEパッケージの達成に向けたさらなる具体化と脱炭素への貢献が強調され、
現在は、フランスが中心となって標準化活動が進められており、AFNOR(フランス規格協会)はISOにCEに関する国際標準化の先導を目指しています。

(2)政策の影響

こうした政策の大きな転換は製品メーカーに与える影響が顕在化しつつあり、そのうちの1つは製品の設計です。
欧州委員会では、製品寿命の延長や解体・分解性を製品設計に盛り込むためのエコデザイン指令の改正を検討しています。
これは、製品を設計する際の耐久性の向上、修理性の向上に加えて、リサイクルしやすい/安全に廃棄しやすい設計を求めることになり、
製品設計を抜本的に見直さなければいけなくなる可能性をはらんでいます。

もう1つは、製品のライフサイクルの管理です。
拡大生産者責任を見直し、製造側の責任範囲をより広くとらえなおすとともに、有害物質の有無、リサイクル材の使用を測定することを検討しています。
これらが整備されることで、製品の特長によってリサイクル料金が変動する、「モジュレ―トフィー」が実現されます。
こうすることで、製品の製造から廃棄・循環までを総合的に考える企業こそが最終的に便益を得られる仕組みを構築しようとしています。


3.産業に与える影響

このように、政策の変化が産業(特に製造業)に与える影響は大きく、今まさに変化し、与える影響は世界各国に波及しています。これらに対してどう対応すべきでしょうか。

(1)製造業に求められる変革

消費者の嗜好の変化があります。Netflixはじめ、モノの所有からコトの消費へと重視する価値が変化する中で、これまでのモノを提供することだけでは消費者は満足しなくなっており、CEを推進する原動力となっています。
こうしたニーズの変化に対応するために、モノを管理する「循環プロバイダー」の必要性が強調されています。

循環プロバイダーとは、携帯電話のキャリア(Docomo、auなど)のような、モノを管理・運用することで、顧客に価値を提供する役割のことです。

循環プロバイダーはモノを管理し、顧客の消費ニーズに対応した製品の製造へ反映してきました。今後は、製造だけでなく、PaaS、シェアリング、二次利用、など様々な価値提供の在り方をデザインするニーズが高まることが予想されます。

従来の売り切りモデルからの転換に向けた新しい役割が求められています。

(2)CEを支えるシステム

こうした新しいビジネスへ展開するためにはどのようなシステムが必要なのでしょうか。

製品の修理性や解体性を高めることは循環の「可能性を広げる」が、それが実際に循環するためには、ライフサイクル全体を網羅したシステム設計(ライフサイクル設計)をしなければいけません。
ライフサイクル設計は次の3つから構成され、相互に影響を及ぼすため、全ての要素が統一的な価値創造に向かうことが重要です。

ライフサイクルプランニング:提供価値を明確化し、その方法(シェアリング、レンタルetc…)と循環の方法を決める
製品設計・製造:ライフサイクルプランニングを実現するために最適な製品を設計
ライフサイクルフロー:ライフサイクル全体の循環の流れを整理(サプライチェーン、生産、バリューチェーン、回収、再資源化)

ライフサイクル設計

(3)システムを支える技術

ライフサイクル設計を実現するための技術として、製品サービスシステムがあります。
本書では製品サービスシステムというコンセプトが紹介されており、モノとしての価値、コトとしての価値を構造的に理解することができ、こうした発想の転換が新たな価値の発見や創造につなげることが重要です。


製品サービスシステム概念図

http://www.21ppi.org/pdf/thesis/190405.pdf?fbclid=IwAR1PqpsTDmFiC4JPZA2DSib7bELs7VkyI-VC-ou-iF58-5tsqJuh1Cg2oDs

21世紀政策研究所 研究プロジェクト 欧州CE政策が目指すもの

4.補足(新たなビジネスチャンスの見つけ方)

CEが生み出す社会の流れと実際の産業に与える影響の大きさ、そして、それらに対して、新たな価値を提供するためのライフサイクル設計といった思考の転換をご紹介しました。
こうした中で、新たなビジネスをどう作り上げていけばいいのか?考察したいと思います。

(1)誰が変革するか?

サーキュラーエコノミーへの転換は、BtoCよりもBtoBの成功事例が多く、製品のトレーサビリティや管理のしやすさの観点から、実現性が高いということが言えそうです。

また、BtoBビジネスで成功している多くの企業は既存の製品とサーキュラーエコノミー掛け合わせ、その実現のために、デジタルテクノロジーを活用しているケースが非常に多いです。

BtoBビジネスで製品提供を行っている場合は、既存のリソースに対して、新たな価値提供の方法を製品サービスシステムなどの技術を活用することが重要になりそうです。

なお、こうした変革をもたらしている企業は経営層がCEに対して強いコミットメントを示し、KPIに循環指標を取り込むなど、実際のアクションにつなげる工夫をしていることから、製品・サービスの変革とともに、社内の意識の変革も同時に行う必要があります。

将来的には、CEを軸にした、社内イノベーションをサポートするサービスの需要も高まると考えられます。

(2)持たざる者だからこそできること

本書で強調されている、「循環プロバイダー」は、製品そのものを製造・保有していなくても、それらをどううまく活用するか?
に焦点を当てたら、新しい価値を創造できるという考え方ではないでしょうか。

例えば、AirBnBも現存する空き屋の新しい活用方法を提示する、プロバイダーと言えます。
AirBnBの成功の背景には、リーマンショックにより、住宅事情の悪化により資産を保有しているだけでは、価値が出なくなってしまったことが一つのキッカケです。
そうした外部環境の変化による貸し手の顧客ニーズ変化に対して適切なサービスを提供できたことが成功の一つの要因と言えます。

今後、エコデザイン指令、生産者責任の拡大など大きな潮流の中で、多くの企業が悩みを抱える、顧客価値提供と製造側のペインをつなぐところに、循環プロバイダーとしての価値提供に新たなチャンスがあるかもしれません。

本書は梅田先生はじめ多くの方の多様な視点でCEを分析しており、学びの多い一冊ですので、より詳しく知りたい方は是非、一度お手に取ってみてはいかがでしょうか。


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