等身大の「推し活」を!人が「推し」に熱狂してしまう理由5選
こんにちは、推しが同じ次元にいなくて悲しい男、各駅停車です。
近年、若い世代だけでなく年長世代にも爆発的に流行している「推し」。
元々、アイドルオタクの間でグループの中から最も好きなメンバーを「一推しメンバー」と呼ぶことから「推し」文化は始まりました。
現在ではアイドル以外のアニメ、漫画といった別のオタク文化、さらにはスポーツ選手、俳優、アーティストへと「推し」の対象は広がってゆき、「推し」という言葉は一般に「好きを超えて、誰かに推薦したくなるようなもの」を指すようになりました。
そしてその推しを応援するのが「推し活」です。
「推し」が人それぞれなのと同じく、「推し」を応援する「推し活」のやり方も人それぞれ。
自分の「推し」への愛をSNSで叫んだり、関連グッズを買ったり、「推し」の出るライブに行ったり、「推し」の出る作品の舞台を聖地巡礼したり・・・。
過激なものになると「推し」に星をプレゼントするものや、飛行機を「推し」の顔でラッピングするものまで!
引用 推しに星をプレゼント!?常識を覆される海外の推し活事情|【ちるちるグローバル部】| BLニュースちるちる
では、私たちはどうして「推し活」に熱中してしまうのでしょうか?
この文章ではその理由について、5つ紹介したいと思います。
「推し活」に熱中してしまう理由①
「推し活」をすることが「推し」の成功を助けるから
かつて、個人が「推し」のために行動を起こしても、「推し」が成功するかどうかはどうしても時の運に委ねられていました。
しかし現在では、「推し活」をすることが「推し」の成功に直結するようになりました。
ファンとコンテンツ制作者が相互に監視しあっている現在、グッズやイベントの売り上げといった単純な売り上げ上の数字だけでなく、「推し」についての情報が発信された量、「いいね!」や「リツイート」の数字も、「推し」がコンテンツ制作者に評価される指標となりました。
自分の「推し」についての発信が、そのまま「推し」の成功につながっているという感覚が、人々を「推し活」に熱中させてしまうというのは頷けます。
「推し活」に熱中してしまう理由②
「推し」の姿が仕事のモチベーションになるから
オタクの迫害が激しかった昔に比べ、今はオタクであることが「恥ずかしい」ことではなくなり、オタクの人々は急激に増えていきました。
そのようにオタク人口の増えた現在、若者だけでなく、社会に出て働く大人の方にも「推し活」をする人達が表れています。
劇団雌猫さんの書籍『本業はオタクです。‐趣味も楽しむあの人の仕事術‐』では、「推し」をモチベーションに変えて仕事をする大人たちの姿が紹介されています。
「『推し』のイベントの日に有休をとりやすくするために、普段の仕事をまじめにやる」
「仕事で嫌なことがあっても、この仕事が次の現場の資金に変わると気持ちを切り替える」
というように、会社での「お仕事」と余暇での「推し事」を両立させることが、社会人の生活に彩りを与えていることが分かります。
近年、特に日本で仕事と休みの時間を適切に割り振る「ワークライフバランス」が要求されています。
「推し活」は、「ワークライフバランス」を実現するための処方箋と言えるのかもしれません。
「推し活」に熱中してしまう理由③
「推し」が自己表現になるから
1987年に段階的に始まった「ゆとり教育」の影響で、若いころから学校の中で「個性的であれ」と刷り込まれた現代人。
社会は、良い学校や良い会社といったステータスに代わって、その人の「個性」を相対的に重視するようになりました。
いきなり「個性」を要求され、右往左往しながら自分の独自性を見つけようともがく日々。けれど、そんな中頑張って手に入れた自分の「個性」も、それこそSNSやネットにありふれていることを知ってまた途方に暮れてしまう。
「推し」はそんな行き場を失った現代人を助ける灯台のような役割を担っているのかもしれません。
なぜなら、先述した通り、「推し」への愛情表現、「推し活」の仕方は人それぞれ。
「推し」にひたすら夢中になって、自分なりの「推し活」で「推し」に働きかけることは、ある種一つの「個性」といえるでしょう。
『人類にとって「推し」とは何なのか』を書いた横山良明さんは、本の中でそのような「推し」を通じた自己表現を肯定し、こう表現しています。
「自分が推しているつもりが、気づいたら自分を推してくれている。」
「推し活」とは、「推し」の手を借りながら自分を表現し、肯定していくことなのかもしれません。
引用 ダウィンチニュース「オタクなら共感の嵐…!“推しの結婚報告”に抱いた気持ちの正体もすっきり! 《推し活の教科書》」
「推し活」に熱中してしまう理由④
「推し」を通じてコミュニケーションが取れるから
2020年10月5日、NHKの情報番組「あさイチ」が「“推し”のいる生活のススメ『推し活』」を特集しました。
「あさイチ」はそこで「推し」について43000件以上ものアンケートを集計し、「推し活」をしている人たちの率直な意見をまとめました。
ここで注目したいのは「『推し』がいてよかったこと」のアンケート結果です。(以下、画像)
引用 「あさイチ」“推し”のいる生活のススメ「推し活」
1位にさえならなかったものの、2位「かけがえのない推し仲間に出会えた!」と3位「家族との関係性がよくなった」はどちらも周りの人とのコミュニケーションについての言及になっています。
僕自身の高校生活を振り返ってみても、「推し」をきっかけにクラスメイトとの会話の糸口をつかんでいた感じがします。
学校や職場の周りの空気を気にして行うコミュニケーションとは違い、ただ「推し」を好きな気持ちが優先される「推し」仲間との心地よく優しいコミュニケーションを、「推し活」をする人は求めているのかもしれません。
「推し活」に熱中してしまう理由⑤
「推し」に対して消費することが気持ちがいいから
「スマホゲームのガチャで推しが出るまで10万円以上使った」
「推しのライブの物販で、気づいたら全てのグッズを買っていた」
「推し活」ではよくこのようにお金を浪費する人達のエピソードが武勇伝のように語られます。「推し」に対してお金を支払うことが気持ちがいい理由には、ある心理的な側面があります。
アメリカの先住民、インディアンの文化に「ポトラッチ」というものがあります。
「ポトラッチ」とは、部族の酋長が「値打のあるもの」を敢えて壊したり、他部族に送ったりする儀式の名前を指します。「値打のあるものをこのように無駄にできるほど、自分たちの部族には余裕がある」という風に、「ポトラッチ」に成功した部族は権威欲を満たすことが出来ます。
そして、「値打のあるもの」を「大量のお金」に置き換えるだけで、「ポトラッチ」は「推し活」に代わります。
電通報のアンケート調査では、「推し活」でグッズを買う際、必ずしもそのグッズが欲しいわけではないという意見が出ています。
(「アイドルやアニメなどの「推し」のためなら応援の気持ちで買い物をしてしまうことはありますか?」https://dentsu-ho.com/articles/7790)
「実際に使わない」「なくても困らない」ものの為にお金を使うことで、「推し活」をする人は「ポトラッチ」的欲望を満たしているのです。
「推し活」に熱中してしまう理由まとめ
以上、「推し活」に熱中してしまう理由を5つ挙げました。
①「推し活」をすることが「推し」の成功を助けるから
②「推し」の姿が仕事のモチベーションになるから
③「推し」が自己表現になるから ④「推し」を通じてコミュニケーションが取れるから
⑤「推し」に対して消費することが気持ちがいいから
加熱する「推し活」事情
ここまで、人が「推し活」に熱中してしまう理由をまとめました。
ストレスの多い現代、確かに「推し活」で人生を充実させることは素晴らしいことです。しかし他方で、「『推し活』に熱狂すること」が強迫的になっているような風潮もあります。
例えば、『推しの子』、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、『推しのいる生活』といった「推し」文化を扱った作品では、「推し」に全てをささげるような過剰なまでの「推し活」が描かれます。
引用 【推しの子】ヤンジャン!
特に、芥川賞を受賞した小説『推し、燃ゆ』ではその過剰さがかなり強調されており、主人公が「推し」に没入しすぎるあまり現実の生活がなおざりになっていく過程が描かれています。
だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心ていうか、背骨かな(『推し、燃ゆ』p37)
引用 出版社 河出書房新社のオウンドメディア Web河出「推しがいるということ 宇佐見りん『推し、燃ゆ』について」
「背骨」と形容するのは流石に行き過ぎですが、「推し」が語られるとき、ある種強迫的な熱狂を伴うのは確かです。
先日googleで「推し」と検索した際、サジェストに「推し 意味が分からない」というものがありました。
ネットやテレビなどで他人の熱心な「推し活」事情を知った結果、
「自分はこのキャラが好きだけど、それは『推し』といえるのか?」
「自分は確かにこの俳優を推しているけど、他の人のように熱狂的なわけではない・・・」
といった風に、自分の「推し」に対する感覚が分からなくなった人が増えているのかもしれません。
何度も繰り返しますが、「推し」の為の「推し活」のやり方は人それぞれ。
過剰なまでに熱意を傾けて、全身全霊で「推し」を推すという、加熱していくという「推し活」のイメージを気にせずに、純粋な自分の「推し」への気持ちを大切にしていきたいものです。
(引用元が明記されていない画像はフリー画像サイト「PAKUTASO」さんの画像を使わせていただきました)