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ガルパンのキャラはなぜ魅力的なのか!?製作過程から考える/『ガルパンの秘密』を読んで

こんにちは、『ガルパン』10周年プロジェクトのPVを見て、初めて部活の試合で得点を入れた時ぐらい感動した男、各駅停車です。

2012年からテレビアニメ全12話が公開され、その後マンガ、書籍、CDとメディアの垣根を越えて大ヒットした作品、『ガールズ&パンツァー』、通称『ガルパン』。


女子高生が戦車に乗って戦うといった奇抜な設定を持つこのアニメは、実はTV放送前にはほとんどその成功を期待されていないアニメでした。
この作品に関わったバンダイのプロデューサー、杉山潔さんはこう述べています。

『ガルパン』は当初、同時期に放送されるアニメ作品の中でも期待値は下から数える方が早いくらいの作品でした(『ガルパンの秘密 ~美少女戦車アニメのファンはなぜ大洗に集うのか~』(p190))

しかしながら、戦車大会優勝に向けて努力を重ねる熱いストーリー、妥協を許さない制作陣の画作り、舞台となった大洗の街を挙げての応援、そしてなによりも登場する魅力的なキャラクターによって、「期待値は下から数える方が早」かった『ガルパン』は、10周年プロジェクトが立ち上がるほどに愛され続ける作品になりました。

今回は、そんな『ガールズ&パンツァー』に登場するキャラクターが、なぜこんなにも魅力的なのかについて、その製作過程に視点を向けて語っていきたいと思います。

この文章を書くにあたって、廣済(こうさい)堂出版から出された書籍、『ガルパンの秘密 ~美少女戦車アニメのファンはなぜ大洗に集うのか~』を参考にさせていただきました。


この本に書かれている内容を元にして、なぜガルパンのキャラは魅力的なのかを

①キャラを生き生きと描き切る脚本家、吉田玲子さんによる魅力あふれるストーリー②アニメオリジナル作品であるがゆえのキャラの魅力と制作陣の思い

の2つの観点から語っていきたいと思います。

(本から引用した部分で、丸括弧のついている部分は、引用する際に僕が注釈としてつけた文章となっています。)

その① キャラを生き生きと描き切る脚本家、吉田玲子さんによる魅力あふれるストーリー

ガルパンのキャラが魅力的である理由の一つとして、脚本家、吉田玲子さんの、キャラの魅力を最大限引き立てる脚本術が挙げられます。

吉田玲子さんは『ドラゴンボールZ』でそのキャリアをスタートさせ、その後『猫の恩返し』、『けいおん!』といった様々なヒット作品のシナリオを手掛けている大ベテラン脚本家です。

『ガルパン』はマンガ、小説といった原作の無い、いわゆるアニメオリジナル作品です。
吉田玲子さんはそんな『ガルパン』の脚本を、たった一人で鮮やかに描き切っています。

吉田玲子さんの脚本の凄さは、なんといっても、日常を過ごす女の子のキャラを魅力的に描くことです。

『ガルパン』の制作プロデューサー、湯川淳さんは脚本に吉田玲子さんを起用したことについてこう述べています。

水島監督(『ガルパン』のアニメの監督)から出た注文が「戦車に関しては好きなスタッフが集まってくるだろうから、女の子をかわいくきちんと描ける人に脚本をお願いしたい」でした。
女の子をかわいく、といえばそれはもう、吉田玲子さんでしょうと。(p18)

吉田玲子さんはアニメによくありがちな、男性ウケをねらったセクシーなシーンを極力排し、清潔感を保ちながら『ガルパン』のキャラを描写していきます。
そんなかわいい女の子を描く吉田玲子さんの脚本によって、『ガルパン』のキャラクターは、実際に日常を生きているかのような実在感をもつ、魅了的なものとなっています。

吉田玲子さんがこの作品の中でこだわったのは、『ガルパン』でたびたび展開される戦車戦のシーンだと言います。

(時間をかけたところはどこかとインタビューアーに聞かれて)戦車戦の部分でしたね。
どんな作戦で戦車をどのように動かすかという理屈の部分なので、ここはかっちりと組み立てないといけないんです。
水島監督や考証(作品世界にリアリティを与えるための設定を考える人)の鈴木(貴昭)さんにアイデアをいただいて、直すこともありました。(p51)
戦車がどう動くとかどこで対決するかと
いう部分に関しては戦況図を描いたり戦車のプラモデルを動かしながら、流れはシナリオで決めていました。(p52)

吉田玲子さんは『ガルパン』の醍醐味である戦車戦を、ただの物語として仕立て上げるのではなく、複数のキャラが交錯する複雑な戦略戦として描き出します。
そしてその詳細なストーリーテーリングは、実際に戦況をシュミレーションして、戦車戦全体を俯瞰的に捉えることによってなされているということがわかります。


作品のリアリティを挙げるために、実際にモデルを使って試行錯誤をする吉田玲子さんの脚本術には、思わず脱帽してしまいます。

そして、この緻密に練られた戦車戦こそ、『ガルパン』のキャラの魅力が強く現れるシーンであるといえます。
吉田玲子さんはキャラクターを立たせるうえで、戦車戦のシーンが重要であるとも述べています。
「キャラクター性、つまりキャラの特徴を描きながら、戦車の試合も書かなければならないことは大変ではないのか」とインタビューアーに聞かれた際、吉田玲子さんはこう答えています。

いえ、むしろ試合の最中の方がキャラを魅力的に描きやすいんです。
危機的状況になったときにどういう反応をするかがそのキャラの見せ場になるので、そこがやっぱりキャラが立たせやすいポイントだし盛り上がる部分かなと。可愛らしい普通の女の子が戦闘中にどう腹をくくるか、どう変わっていくのかというところを見てほしいなと思っていました。(p53)

吉田玲子さんは戦車戦において、可愛い女の子を魅力的に描くという作家性を維持しつつも、逆境に負けないキャラの強さを描き切ることにより、キャラの魅力を引き立てています。

そんな吉田玲子さんの脚本は、確実に『ガルパン』のキャラ人気を支える要因となっていると断言してよいでしょう。

理由② アニメオリジナル作品であるがゆえのキャラの魅力と制作陣の思い

『ガルパン』キャラが魅力的な理由の2つめは、『ガルパン』がアニメオリジナル作品であることに関わっています。

『ガルパン』はいわゆる「深夜アニメ」というもので、放送当時の2012年にはTOKYOMX等の深夜枠で放送されていました。

ここで、『ガルパン』がアニメオリジナル作品であるということは、どういうことを意味するのか説明するために、一度『ガルパンから離れて「深夜アニメ」について語ります。

大人も楽しめるような青年向けのアニメを放送するという手法によって、1996年から本格的に注目されるようになった深夜アニメ。
1997年、テレビ東京によって『新世紀エヴァンゲリオン』の深夜枠での再放送が成功すると、深夜アニメはさらに勢いづくようになります。

さらに複数の企業が出資してアニメを作る「製作委員会方式」が確立すると、深夜アニメは企業の商品を売るためのPR(プロモーション)としての側面を持つようになりました。
それぞれの深夜アニメは、放送するまでヒットするかどうかはわかりません。
それゆえ、スポンサー企業のリスクを分散するために、深夜アニメの作品数はどんどんと増えていきました。

(縦軸が深夜アニメの本数/横軸が放送時期)(引用http://animebcinfos.web.fc2.com/sampletest4.html)

そのように、毎年膨大な数の作品が作られている深夜アニメなのですが、「アニメオリジナル作品」、つまり漫画や小説の原作を持たないアニメの数というのは極めて少ないものとなっています。

例えば、2021の1月から3月の期間で放送されたアニメの作品数は65本なのですが、そのうち原作のないオリジナルアニメは僅か3本しかありませんでした。(参照 https://pierrot-space.com/2021/01/01/2021-winter-orginal/)

膨大な数のアニメが毎年作られる中で、なぜこんなにもアニメオリジナル作品は作られないのでしょうか?

それは「原作を持たないゆえに、どれほどの人気が見込めるのかを予想することができない」というデメリットを、アニメオリジナル作品が抱えているからです。

先ほど書いた通り、アニメは現在複数の企業の出資による製作委員会方式によって作られており、アニメそれ自体が企業の商品のPRとなっています。
自分の会社の関連商品の売り上げが「アニメがヒットするかどうか」にかかっている以上、売れるかどうかわからないオリジナルアニメを作るより、はじめからいくらかの人気を見込むことのできる原作付きのアニメの方を企業はつくりたがります。
それはアニメ制作もビジネスである以上もっともなことです。

ここで、『ガルパン』の話に戻ります。
『ガルパン』は、アニメオリジナル作品であるがゆえに、人気の見込みがないある意味で博打のような作品でした。

数ある深夜アニメのなかで、オリジナル作品はマイノリティであることも手伝い、『ガルパン』はじめから非常に苦しい立場にあってのスタートとなりました。

(『ガルパン』の放送時期である2012年秋に一緒に放送されていたアニメ一覧 引用https://uzurainfo.han-be.com/12a.html)

冒頭で引用した杉山プロデューサーの言葉の通り、「同時期に放送されるアニメ作品の中でも期待値は下から数える方が早いくらいの作品」であったとしたも、不思議ではありません。

しかし、『ガルパン』のキャラの魅力は、逆にアニメオリジナル作品という苦境の中で生まれたものであると考えることもできます。
それは一体、どういうことでしょうか?

『ガルパン』の監督、水島努(つとむ)さんは、「『ガルパン』というオリジナル作品を作る経験はどんなものであったか」と聞かれて、こう答えています。

いやあ、とても楽しかったです。
もちろん、オリジナルだからと言って自分一人の自由になる問題ではないですが、みんなで「このとき、どういうふうになるのかね」って考えながら、ちょっとずつキャラクターが具現化していくおもしろさがありました。(p115)
原作付きだと、原作者っていう本当の作品の産みの親がいて、例えば「このときこのキャラクターはどう思うか」っていうときは、自分ひとりで判断しちゃいけないんです。
でもそれは、正解を知っている人に聞けばいいことでもあるので迷うこともないわけです。
だからオリジナルはそういうところを考えていくのかが大変なのかなって思ってたんですね。
もちろん原作付きに比べると、準備に時間はかかりますけども、でも、やってみたらそこも含め、本当に楽しかったですね。(p115-116)

水島監督はここで、『ガルパン』のキャラが、アニメが制作される過程の中で具現化していったことを指摘しています。
原作がないことを逆手にとって、むしろそれを「楽しむ」ことで、水嶋監督はキャラを作成します。


物語が進むにつれてキャラが新しく具現化されていたこと、つまりキャラが物語と一緒になって作り上げられていたことが、『ガルパン』のキャラの魅力の一つであると考えられます。

『ガルパン』はオリジナルアニメ作品であり、企画の段階ではヒットするかどうかということに常におびえなければならない作品です。
しかし同時に、オリジナル作品であるからこそ、ストーリーと共に具現化され、少しずつその輪郭をあらわにしていく新鮮なキャラの姿を描くことに成功しています。

そして、常に新しく描かれていくキャラの強度を支えるのが、「アニメオリジナル作品」に懸ける制作陣の思いです。

例えば企画段階から『ガルパン』に携わっている、バンダイビジュアルのプロデューサー、湯川淳(じゅん)さんはこう述べています。

オリジナル企画は原作のようなよりどころがないので難しいですけど、その難しさも含め、やはりおもしろいんです。
なにより僕自身オリジナル企画は大好きなので、『ガルパン』は、これまでオリジナル企画を進めてきたノウハウを十分に発揮して作ろうと思っていました。
アニメ業界を見渡すと、オリジナルでヒットを出した会社というのは実は限られているんです。そこに挑戦する、という気持がありました。(p19)

オリジナル作品が難しいことを知りつつも、アニメ業界にオリジナル作品の成功例を刻み込もうとする湯川さんの熱意が伺えます。

また、『ガルパン』のアニメを制作した会社、アクタスの社長であり、アニメーションプロデューサーとしての肩書をもつ丸山俊平(しゅうへい)さんは「背水の陣」という言葉でオリジナル作品を作る覚悟を表現しています。

「背水の陣」を決意したのは、戦車に題材が決まった時だったと思います。
アニメファンが興味を持つようには見えず、ガチでやるにはコストが完全に見合わない題材。
万に一つの勝ち目があったら御の字。
ぐるぐる考え、おそらくアクタスと自分にとってはきっと「最後の作品」となるだろう。
そしてどうせ最後なら、考えていたこと、できる事を可能な限り誠実に、そして徹底的にやろうと決めました。(p44)

オリジナル作品を作るうえでの先の見えなさ、余裕のなさを「背水の陣」と形容しながらも、「徹底的にやろう」と腹をくくる丸山さんの思いが『ガルパン』には込められています。

「アニメオリジナル作品」であることにこだわった制作陣による熱い思いによって『ガルパン』という作品は作られました。そんな制作陣たちの熱意に支えられながら『ガルパン』のキャラは作られていきました。
熱い思いをもった製作陣によって企画が進行していくまさにその中で、ひたむきに戦車道に向き合うキャラの姿が作られることにより、魅力的なキャラたちの姿が完成されていったのだと思います。

おわりに

以上、ガルパンのキャラがなぜ魅力的なのかの理由として、

①キャラを生き生きと描き切る脚本家、吉田玲子さんによる魅力あふれるストーリー②アニメオリジナル作品であるがゆえのキャラの魅力と制作陣の思い

の二つを説明していきました。
『ガルパン』の製作過程をつぶさに観察することで、そのキャラの魅力について迫ることができました。
ここでは書き切れませんでしたが、『ガルパン』の舞台となった町、大洗の尽力も、
キャラの魅力を更に増幅するものとして挙げることができます。
書籍『ガルパンの秘密』にはそんな大洗の人々のインタビュー記事も収録されています。
『ガルパン』への愛を更に深めたい人や、『ガルパン』という作品の舞台裏を見たいという人はぜひ読んでみてください!