毎日本を読む7/2 できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術 井手隊長

できる人だけが知っている
「ここだけの話」を聞く技術 井手隊長

 安易に懐に入ろうとしないで、相手の温度感にあわせていく。開き直って相手に委ねていくことが必要。

 私はコーヒー豆屋をして毎日喫茶業をしている。22年間のサラリーマン人生とその前の家業で工業の会社経営経験から、店頭でのお客様との対話が成り立っていると感じる。

 たまにある取材などで、先入観や決めつけに出会うととても不快な気持ちになる。的外れな問いかけに「お前に何がわかるのだ」と頑なになり、それが三つも重なるともう諦めに入ってしまい、「帰ってくれないかなー」と思ったりする。
多いのは「好きが高じて」珈琲屋を始めるという問いかけ。脱サラのステレオタイプなイメージ像なのだろう。なんど「いえ、違います」と言っても理解してくれない。
 私がコーヒー豆屋を始めたのは、実家の倒産がきっかけだ。倒産して家屋敷もなくなり、人も離れていく親父の姿を見ていて、収入が一本道なのが怖かったのだ。だからサラリーマンをしている間に珈琲屋をスタートさせてはや14年になる。
 ここ4年はリストラされて珈琲屋一本になっているので、10年は二足の草鞋でやってきた。
 記事になると「こだわりのコーヒー」というフレーズも必ずと言っていいほど入る。
 私はコーヒーそのものにこだわりなどない。
 お客様が美味しいと思うかどうか、ただそれだけだ。
 お客様の「美味しい」は人間関係によって育まれるものだと思っている。
 作業で入れたコーヒーは、そこそこのものにしかならない。「美味しい」は材料の味以外の情報が形作っているので、ただ店主こだわりのコーヒーをいれるだけでは物足りないし、そこを通じ合う人に店に来て欲しいと思っている。
店という場を通じて、新しい出会いを求めている。
 経験上、相手の「何のために」にフォーカスしていれば、自ずと良い質問ができるというものだ。
 本書では事前準備で仮説を立てるとあるが、私はそれは逆効果だと思う。仮説とは先入観に他ならない。
 結論ありきの独りよがりな先入観をベースにインタビューしたところで、なかなか核心には至らないだろう。

 ならばどうすれば良いか。私は「教えてもらう」というスタンスが重要だと思う。
 そのためにまずは相手の時間の貴重性に敬意を持つということが第一である。その上で人に大いなる関心を持ち、これから先も関わっていこうとするような、「真剣な向き合い」が相手の心の扉を開けることになる。
 小手先、その場限りではない一人一人との関わりを大切にする心と態度こそが必要。
 目を見て話すとか、時間に遅れないとか、帰ってからお礼を一言送るとか、当たり前にできるように習慣化しておくには、本質的な大切さに重きを置いて日々を過ごしているかどうかが問われる。
貴重な時間をもう少し使いたいと思わせるには、こちらからの提案や異なる視点を提供するようにも心掛ける。下調べをするならばここに焦点を当て、きっかけになるような手土産を持っていこう。
何も美味しいお菓子である必要はない。相手のためになりそうなモノや話題でも良い。人を紹介できるなどというのは最高の部類であろう。「自分のことをよく考えてきている」と感じられることが肝要なのだ。

 「ここだけの話」を聞き出すというのはつまり、「深い話をする」レベルに入り込んでいくわけで、少し回り道をしてでも、その階層に降りて行かない限り、そうはならない。

 読む限り、著者がほんとうに「ここだけの話」にたどり着けているのか、疑問が残るところである。「店主こだわりのコーヒー」などと書いてしまうタイプに見えてしまう。

 国山ハセンさんの「対話力」のほうが、より具体的で参考になるかなと思った。


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