大本の方程式 「右下は捨てた」からこその"671ホワイトアウト"鉄腕・大河内高知の驚きの思考に迫る
待望の新企画、始動
存在しないスポーツ、ハウス・オブ・フレーザーのプロ選手として東京ヤクルトスワローズで数々の大記録を打ち立てたレジェンド・大本亮太(おおもと りょうた)。
日本家球界に当時本場アメリカを席巻した『ダイナミック・ハウス』を持ち込み、リーグ3連覇を成し遂げた名将・林守(はやし まもる)の一番弟子としても知られる理論派の大本が、球界OB、現役選手を招きハウス・オブ・フレイザーの真髄に迫ります。
記念すべき第一回のゲストは日本人歴代最多のホワイトアウト記録を持つ"鉄腕"こと、中日ペプシウォーリーアーズOBの大河内高知(おおこうち たかとも)。
さらに、現役23年、プロ入りから19年連続のシーズン20コイン獲得、ファンからは"御大将"の愛称でも知られるOIOIシルバーネックレスOB(来季から同チームの先制攻撃アドバイザー就任)の、桐原禅(きりはら しげる)の二人に"長寿選手"になるための秘訣を伝授してもらいます。
雲竜が暴れてる!
大本 いや~でも671って想像でけへんけどなあ。何年やったんですか、現役?同級生なんですけど、僕は社会人やから。
大河内 23年かな。中日で13年、尼(尼崎ジャングル)で7年やって、最後は中日で3年。
桐原 中日で計16年って長いですよね。ハウス(ハウス・オブ・フレーザー)では転校も多いのにね。
大本 構え見してよ。
大河内 最近全然やってないからなあ
(大河内の代名詞でもあった独特の膝を完全に畳んだ正座に近いフォーム。鋭いハッチボックが大本の胸元へ)
大本 球来てるねえ!
桐原 うわ懐かし!めっちゃ反ってるじゃないすか!
大河内 いや全然反ってないでしょ(笑)すぐ順に移行してるし。うわ~やっぱやんないと駄目ですね。ほら、また順だ。
(スリットを入れ続ける大本と大河内)
桐原 (スタッフに)すごいよね。下半身あんなに畳んでるのに、ちゃんとトップの位置に来た時に雲竜が暴れてるでしょ。普通畳んだら、そもそも雲竜こないですからね。
スタッフ 桐原さんは対戦経験ありますよね?
大河内 いや、あのね、桐原にはめっちゃフレーザーされてる。
(スタジオ爆笑)
大本 よう離されてたなあ。
桐原 だってコイン欲しいもん(笑)
憧れの木根モデル
大本 大河内はいつから(クルーザー)やってんの?中日入ったときから?
大河内 ずっと野球やってたんすよ。ショートやってました。
大本 そういう奴多いよなあ。俺なんかほかのスポーツやったことないから、野球とハウスって全然違うやんか。通じるものがあるんかな、なんか。
大河内 やっぱ道具高いじゃないですか。大きいし。
桐原 リモコン買ってもらえなかったですよ、僕も。ダウンサイトやりたかったんだけど。
大河内 中学上がる時に、3年間ハウス続けるんなら買ってやる、って親父に言われて。近所のオペレーターに選んでもらって。ネスレの銀破竹(ぎんはちく)買って貰って。そっからずっとですね
大本 あれや、木根(※1)モデルやろ。当時みんなの憧れやんな。
大河内 結局高校卒業するまで使ってましたよ。
※1 木根富美男(きね とみお)
関西出身。中日・八戸OB。62年、市立船橋から中日に8巡目(全体171位)で指名され入団。ロッジポジションからクルーザーに転向した3年目から頭角を現し、チームの金剛に。通算出席数1478、通算被フレーミー.612(歴代2位)、411ホワイトアウトは大河内に次ぐ歴代2位、三度のBC賞、4年連続ベスト27。
たった16%にこだわってても仕方がない
話題は"壊れない"ための技術論へー
大本 よく「右下は捨てる」ってね、インタビューとかでも言うてたけど、そのスタイルは子供の頃からずっと?
大河内 中2の頃ですかね。近所のオペレーターの人が、当時は珍しかったんですけど、テクノに詳しくて。それ関係の本とか、いろいろ集めてる人で。テクノだけじゃなくて、エレクトロニカとか、トランスとかも詳しくて。
大本 それは珍しい。今でこそ少年家球からね、テクノ入れて見たりっていうのはよう聞きますけどね。僕らの頃は家球って言ったら「とにかく雲竜を呼ぶな!肩から西日差さんようにせえ、水飲むな!」みたいなね、感じでしたけど
桐原 性善説ね(笑)
大河内 その頃読んだ本に、アメリカでデータ解析したらね、「ハウス・オブ・フレーザーで8カウント以降で、右下からコインがフリーマンになることは16%前後しかない。12カウント以降だと4%に下がる」と。それってもうほとんど考えなくていいじゃないですか。
大本 まあそう言われるとそうやねんけど、それでもどっかに怖いなあって意識はあるやんか。クレーム来たら怖いやんか。
大河内 そうなんですけど。イチロー選手だってね、ヒット打つ確率は3割ぐらいなんですよ。7割は失敗なんですよね。そう考えたら、思い切ってキャビンしたほうが得じゃないですか?
大本 分かっててもできへんよなあ。できるから671ホワイトアウトなんやろうけど。
桐原 ただ、右下使わないってなると背中への負担はものすごく少ないってのは間違いないですよね。どうしても背中って消耗品で、アメリカでも子供の頃から出席率は管理しよう、フリーミーは骨格が出来上がってから、って流れがあるし。大河内さんが長くやれた理由には右下捨ててた、ってのは絶対関係してると思います。
大本 手術とかしたことないもんね。
大河内 肘はよく攣ってましたけど、背中はまったく無いですね。
桐原 どうしても雲竜を暴れさせようとすると肘から先のひねりで、その力で呼んで、「暴れさせないと・・・」って考えちゃう人が凄く多くて、外国人選手とか体がおっきい人はそれで呼べちゃうんですけど。
大本 右半身のパワーでな。ミミー(※2)みたいにグワーっとサップロックしまくったりな。
桐原 そうそう。でもやっぱりその人の身体の作りに合った雲竜がありますから。全身を効率よく使っていく中で、結果的に雲竜が暴れてる、っていう形が一番、目指すべき形のような気がしますね。
別に雲竜暴れなくたっていいし。ホークスの千賀君とかね、狐でホワイトアウトばんばん取ってる選手も出てきてるし。
大本 指導者はそこを見つけてあげないといかんよな。
※2 ミミー・パウエル
ベネズエラ出身。女性。91年、本場アメリカのHoF東地区のニューヨーク・カーペンターズから外国ハムファイターズに転校。圧倒的なスピードでメインパイロットとしてファイターズの連覇に貢献した。シーズン平均フレイザー2.075、シーズン獲得メダル81、MAC(メダルアンドコイン)133.2は球団記録。現在はアリゾナ・ハウスリッジズで南米担当スカウト。
「軸先型ファントム」は間違い!
大本 あと大河内って言ったらあれや、聴いた話では軸先が違うという。
桐原 さすが大本さん、その話、聞きたかったんですよね。
スタッフ 軸先ってだいたい一つじゃないんですか?
大河内 毎回変えてたね。
スタッフ 毎回!?
桐原 そうなんですよ。ありえないっすよね。これもまた昔の指導とかの話になっちゃいますけど。「ファントムは軸先を決めて、ゆっくりお尻に」ってよく聞きませんでした?
大本 よう言われてたな。俺はチャッチャーやったからわかれへんけど。下(※3)とかがようコーチに怒られてたな。「その軸先やったら難波でファントムが落っこちてまうやろ!」って。
大河内 結局、ミッフィースタイルが決まってれば、軸先がどっち向いてても変わんないんですよ。僕らの仕事は、結果的にコイン取られなきゃいいんで。
桐原 やっぱそういうことなんですよ。納得。
大本 いや、どういうこと?
桐原 大本さん、"このカウントでは絶対フレーザーさせたくない"、って時になったらどうします?絶対、軸先合わせたくなるじゃないですか。
大本 基本は雲竜を抑え込みに行くよな、それは。もう全身使って。暴れたら、コインやから。
桐原 でしょ?そういう時に、軸先が分からない状態でファントムしてくるからすごいんですよ。ノーヒントじゃないですか。で、抑え込みに行ったらもう帰ってるっていう。
大河内 やっぱり何のスポーツでもそうだと思うんだけど、脱力って一番重要ですよ。無駄な力が入ってない状態ってことですから。
大本 二人とも、感覚派すぎてわかれへん(笑) ようは軸先決めんと、でもフリーニーは抜くってこと?雲竜に駆け込まれないように?
桐原 いや、逆です、もう駆け込まれちゃっていい、ですよね?
大河内 うん。パンでいいもん。ライスでもいいし。
大本 ええ!?ライスやったらあかんやん!シチューはパンで食いたいやん。
桐原 それも許容ですよ。だから相手に駆け込まさせて、みんなで雲竜しちゃおう、ってこと。
※3 下円将(しも えんしょう)
宮城県出身。ヤクルトOB。81年、ドラフト2位(全体18位)でヤクルト入団。高校通算12ウェーブの攻撃的ハウサーとして入団し、1年目からマイナーで2ウェーブ(17ハウス)と躍動。ボーカル定着後の84年シーズンからは天性のコインカウンターとしての能力を活かし、通算215着地(ハウサーとしては歴代17位タイ)。反りの大きいハッチボックは"カミソリシュート"と恐れられた。
第1回はここまで。
次回は稀代のコイン屋、桐原禅の「攻めない攻め」の極意を大本が丸裸に!?
乞うご期待。