新字体vs旧字体、どっちが当たる?
●新字体も旧字体も同じくらい当たらない
「漢字の新字体と旧字体では、どちらの画数が当たるか?」 姓名判断の利用者には気になる疑問ですね。残念ながら、この答えは期待を裏切るものです。「どちらも同じくらい当たらない(疑わしい)」なのです。
では、その理由を調べてみましょう。
漢字の字体には、現在、一般に使われている新字体のほかに、戦前まで使われていた旧字体があります。しかし、占い師たちがもめているのは、「新字体か、旧字体か」といった単純な問題ではありません。
●画数の取り方には少なくとも5通りある
漢字の画数の取り方には、主要な流派だけでも5つあるのです。ここでは、それぞれ新字派、旧字派、康熙派、戸籍派、常用派と仮称をつけています。
「渡辺(渡邊)」さんを例として、この五流派の違いを具体的に見てみましょう。次のようなケースが考えられます。なお、「邊」は「辺」の旧字体です。
① 戸籍上の「渡邊」さんが、ふだんは「渡辺」と書いている場合
② 戸籍上の「渡邊」さんが、ふだんも「渡邊」と書いている場合
③ 戸籍上の「渡辺」さんが、ふだんも「渡辺」と書いている場合
④ 戸籍上の「渡辺」さんが、もっぱら芸名の「井上」と書いている場合
さて新字派は、ふだん新・旧字体のどちらを使っていても、常に新字体の画数を用います。なので、①~③はすべて「渡(12画) 辺(5画)」です。④は、占い師が戸籍派と常用派のどちらに近い立場かで分かれますが、「渡(12画) 辺(5画)」とするか、「井(4画) 上(3画)」とするか、あるいは二つの併用が考えられます。
旧字派と康熙派は新字派の逆で、常に旧字体を元にするので、①~③はすべて、旧字派なら「渡(12画) 邊(19画)」、康熙派なら「渡(13画) 邊(22画)」です。④は、旧字派なら「渡(12画) 邊(19画)」か「井(4画) 上(3画)」、あるいは二つの併用、康熙派なら「渡(13画) 邊(22画)」か「井(4画) 上(3画)」、あるいは二つの併用でしょう。
次に戸籍派は、ふだん使っている字体と関係なく、常に戸籍の字体の画数を用いるので、①②は「渡(12画) 邊(19画)」、③④は「渡(12画) 辺(5画)」となります。
最後の常用派は戸籍派の逆で、戸籍の字体には関係なく、ふだん使っている字体の画数を用いるので、①③は「渡(12画) 辺(5画)」、②は「渡(12画) 邊(19画)」、④は「井(4画) 上(3画)」となります。
●なぜ占い師はこんな大問題を悩まないのか?
この五流派の中で一番新しいのは新字派ですが、この一派が現れたのは終戦後のことです。つまり、彼らは優に半世紀以上も共存し続けてきたのです。客観的に見れば、こんなことは有り得ませんよね。なぜって、彼らの主張は相互に矛盾しているのですから。
もし、「渡(12画) 辺(5画)」で判断した結果が当たっているなら、「渡(12画) 邊(19画)」や「渡(13画) 邊(22画)」は外れているはずです。ということは、どれが当たっていて、どれが外れているか、占い師自身が一番よく分かっていそうなものです。
ところが、なぜか彼らは「他の流派こそ間違っている」と考えます。おかしな話ですね。どうして「自分の方法が間違っているかもしれない」と考えないのでしょうか。
このように、相互の矛盾を気にもせず、「自分のやり方が一番当たる」と主張するからには、どれも同じくらい当たっていないのは確かです。実は、外れても「当たった」と思い込む心理的なメカニズムがあるために、こういうことが起こるのです。[注1]
●画数なんか大した問題じゃない?
ところで、占い師が画数ごときで悩んだりしないのは、今に始まったことではありません。終戦後に旧字体から新字体へ漢字が簡略化されたときから、すでにこうなのです。が、それはまた別の機会に解説しましょう。[注2]
さらには、新字体にも実は二種類あるのです。漢字の本家、中国でも旧字体を簡略化した新字体を使っています。これを簡体字といいますが、占い師もネット上の占いサイトでも、簡体字の画数については無視してますね。[注3]
きっと、「画数なんか大した問題じゃない」というのが本音なのでしょう。「一点、一画もおろそかにできない」などと大げさなことを言う占い師がいますが、あれはたぶん、ちょっとした冗談だと思いますよ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?