技法の信憑性(6):音韻五行<上>
●「音韻五行」の判断法
名前を発音のままに、その一音、一音を五行に変換し、それらの相生、相剋から吉凶判断するのがこの技法です。
これは「音霊」の変形で、「音霊」技法の一部として扱う流派も多数ありますが、「五気」ともよく似ています。それもそのはずで、五気の技法に納得できない後進の占い師が、もとの判断方法に少しばかり手を加えたものなのです。
とは言え、名前を発音のまま五行に変換する音韻五行と、漢字の音読みを五行に変換する五気では、通常はまったく違った五行配列となります。
この技法が作られた背景からして、五気と併用する流派はありません(私が調べた限り)が、両者はまったく別ものです。なので、双方の結果が矛盾しても気にしない占い師なら、このふたつを併用してもいいわけです。
●「音韻五行」と「五気」はどう違うか?
音韻五行と五気の違いを、「北川景子」さんの名前で具体的に見てみましょう。
五気では、北(ホク)、川(セン)、景(ケイ)、子(シまたはス)と音読みするので、北(ハ行)、川(サ行)、景(カ行)、子(サ行)となり、五行配列は下の 【漢字音(or発音)と五行】 の対応表に従って、水-金-木-金となります。
これが音韻五行ではどうなるか。発音どおりなら キ・タ・ガ・ワ・ケ・イ・コ ですが、用いる 【漢字音(or発音)と五行】 の対応表は同じでも、五行配列は流派によってまったく異なります。しかも、その種類はかなり多いのです。
それにしても、いったいどんな根拠でこれほど違うのでしょうか。あまりのばかばかしさに、頭がおかしくなりそうでしたが、どうにか以下のことを調べ上げました。
●五十音をそのまま五行に置き換える流派
① まず、姓の最後の音と名の最初の音の組合せで吉凶判断する流派があります。北川(キタガワ)景子(ケイコ)さんは、 ワ・ケ となります。ワ(ワ行)は土性、ケ(カ行)は木性なので、土-木で相剋の凶となります。
え? 残りの音はどうなるかって? そんなことに気を回している余裕はありませんよ。ほかにもたくさんの流派があるのです。先を急ぎましょう。
➁ 次は姓の最初の音と、名の最初の音のみで判断する流派です。①の流派では姓の最後の音を用いましたが、こんどは姓の最初の音です。 キタガワ・ケイコ なので、 キ・ケ の組み合わせとなります。キ(カ行)は木性、ケ(カ行)も木性で、木-木の比和(中吉)となります。
③ 名の各文字について、最初の音だけを用いる流派もあります。名の各文字の初音というと、景(ケイ)子(コ)なので、 ケ・コ です。ケ(カ行)は木性、コ(カ行)も木性なので、やはり木-木の比和(中吉)となります。
④ こんどは名の各音をすべて用いるという流派です。この場合は、 ケ・イ・コ の3音の組み合わせになります。ケ(カ行)とコ(カ行)は木性、イ(ア行)は土性なので、木-土-木となります。前半の木-土も、後半の土-木も相剋の凶なので、全体としては凶か大凶でしょう。
⑤ 姓名の各文字の初音をすべて用いるという流派もありました。この場合は、北(キタ)川(ガワ)景(ケイ)子(コ)なので、 キ・ガ・ケ・コ の4音の組み合わせとなります。キ(カ行)、ガ(カ行)、ケ(カ行)、コ(カ行)はすべて木性ですから、木-木-木-木となります。隣同士がすべて木-木の比和なので、総合的には中吉か、それ以上でしょう。
●母音だけを五行に置き換える流派
⑥-⑦ このほかにも、ひとつひとつの音の母音を五行に置き換えて、相生や相剋で吉凶を判断する流派があります。その中には、相生が吉で相剋を凶とする流派と、その反対に相生を凶とし、相剋を吉とする流派があるのです。
景子(ケイコ)さんの名の音を母音であらわすと、ケ(KE)イ(I)コ(KO)ですから E-I-O となります。この技法を使う占い師によると、A(ア)、I(イ)、U(ウ)、E(エ)、O(オ)はそれぞれ五行の木、火、土、金、水に配当されるそうです。
中国の五行思想に母音と五行の関係を説いたものは無いと思いますが、私の勉強不足かもしれないし、この際、つまらない疑問を持つのはやめましょう。とにかく、 E-I-O は 金-火-水になるようです。
評価については、金-火も火-水も相剋ですが、相生を吉とする流派では凶か大凶でしょう。一方、相剋を吉とする流派ではこれと反対で、吉か大吉でしょう。
以上をまとめると、次表のようになります。A氏~G氏が各流派を代表する占い師です。音の母音を五行に置き換える流派の中には、上記のほかにも、I(イ)を水、O(オ)を火とする等の変種もありましたが、割愛させていただきます。
●誤解が元で生まれた新技法
この技法は、「音霊」と「五気」のふたつの技法に、ちょっとした誤解が重なって生まれました。どうしてそう言えるのか? この技法を音霊と一緒に広めた熊﨑健翁氏の文章に着目しましょう。熊﨑氏は『姓名の哲理』の中でおよそ次のように書いています。[*1]
●「五気」は名前の発音と無関係
ここで熊﨑氏は、五気の技法が漢字音(漢字の音読み)で吉凶判断しているから間違っている、と批判しています。人の運命に影響するのは聴覚的刺激であって、文字の質ではない、という主張です。
音の波動が運勢にどう影響するか私は知りませんが、少なくとも熊﨑氏のこの批判は勘違いです。
なぜなら、この技法を用いる占い師たちが、「五気の技法とは、文字の質(漢字の五行的性質)を問うものだ」と断言しているからです。彼らの考えでは、漢字音は霊気(五行の気)として漢字に宿っているので、霊的作用の発現も、人が発声するかどうかは関係ないのです。[*2-4] [注1-2]
五気は明治・大正期からある技法ですが、これを支持する占い師たちと、批判する側の熊﨑氏との争点は、次のとおりです。
『運命に影響するのは漢字音(音読みでわかる文字の性質)か、それとも音の波動か?』
どちらも科学的根拠がないという意味で、両者は対等です。しかし、五気の技法には一応の思想的根拠があります。その面では、根拠らしきものを示していない熊﨑氏の主張は分が悪いようです。
●「音韻五行」は伝統的な勘違い技法だった!
中国の音韻学では伝統的な言語音の分類がありました。この言語音の分類が宋の時代に五行思想と結びつきます。これが日本にも伝わり、日本式に訛った漢字音、つまり音読みと漢字の関係に当てはめられて、漢字と五行の関係ができたのです。⇒技法の信憑性(3):五気(五行)を参照
五気の技法はこれを応用したものです。ということで、五気に漢字の音読みを用いるのは、実効性のほどはさておき、一応は筋が通っているのです。音韻五行の技法で「実際の発音そのままの音色と音律によって判断」するのは熊﨑氏の勝手ですが、五気を批判する理由にはなっていないわけです。
ところが、熊﨑氏が「音読みは間違いで、発音のままが正しい」と断定したものですから、五気の人気は時代とともに低下していきました。熊﨑氏は姓名判断の第二次ブーム後期の立役者だったので、その影響力はたいへん大きかったのです。
こうして音韻五行の技法は、音霊法の一部として熊﨑式姓名学に組み込まれたこともあり、姓名を五格(天格、人格、地格、外格、総格)で判断する方法とともに、多くの占い師の間に広まっていきました。
※つづきはこちら ⇒『技法の信憑性(6):音韻五行<下>』