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発掘!「現代の姓名判断」の起源(4)

海老名氏の『姓名判断 新秘術』には、菊池氏の『初編』から借用したらしい記述が多数見つかりました。

いずれも「菊池氏の『初編』=海老名氏の種本」説を裏付ける有力な証拠ですが、これがすべてではありません。『初編』には書かれなかったため、海老名氏が借用できなかった事実が、約20年後に明かされたのです。

●種本に無いことを書けなかった海老名氏

菊池氏は『続編』(大正3年刊)の中で、海老名氏が『姓名判断 新秘術』(明治31年刊)で書いた以上のことを明らかにしています。たとえば、「乾坤(陰陽)の配置」についての記述です。

菊池氏は、名前に●○を付けて占う方法を考案した際、明治期の著名な漢学者にして易学の大家、根本通明氏にアドバイスを受けたこと、その際、奇数・偶数と陰・陽の対応関係をあえて通常と逆にしたこと、吉凶は●○の易卦にもとづくこと、などを書いています。 [注1-2]

つまり、『初編』から約20年後の『続編』で初めて、菊池氏はこの技法の「ネタばらし」をしたのです。この部分の海老名氏の記述は菊池氏の『初編』とほぼ同じですが、それはそうでしょう。種本に書いてないことは、知り得ないわけですから。

以上を踏まえると、海老名氏の方が菊池氏の著書を種本にしたのであり、その逆ではなかった、と断定してよさそうです。

●「元祖」黙殺の真相?

海老名氏は菊池氏の『初編』から各所をパクりましたが、その一方で、後進の鎌田晴山氏からは派手にパクられています。[注3]

当時、こうした無断借用はごく普通のことでした。誰もが他の誰かの著書からあちらこちらを失敬してきて編集し、いくらか加筆・修正して自身の著作としたようです。そのため、明治末期~昭和前期ころの姓名判断書を読んでいると、しばしばデジャヴュに襲われます。

このように、占い師同士でパクり合っているうちに、新技法を誰がいつ創案したのか、わからなくなった可能性もあります。

菊池氏が『続編』で元祖を主張したとき、同業者の誰も耳を貸さなかったのは、意図的に黙殺したというより、単に新参者の たわごと と誤解されただけかもしれません。

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さて、ここまでの海老名氏の人物像は、あまり良い印象ではありませんでした。菊池氏の『初編』をパクり倒し、元祖の地位を乗っ取ろうとする嫌な奴に思えたかもしれません。

しかし、先駆者のアイディアと経験をベースにしたからこそ、「現代の姓名判断」の創成期に重要な役割を果たし得たのです。

=========<注記>=========
[注1] 「乾坤の配置」創案の背景
 『続編』には根本通明氏から教えを受けたことが書いてある。そうだとすれば、「奇数・偶数と陰・陽の対応関係を通常と逆にする」ことには易学的根拠があるということだ。つまり、この「対応関係を通常と逆にする」方法は特筆に値する秘伝だったわけである。

<補>『続編』は「乾坤の配置」の解説が大半を占め、●○から易卦をつくる方法と、140~150例の人名と易卦が、100ページ以上にわたって解説されている。なお、『初編』『続編』には根本通明氏の題字も掲載されている。

『古今諸名家 姓名善悪論 初編』を公にした際、先師の根本通明先生に種々学理をただし、このようにして姓名に●○を付け、それを易卦として吉凶を判断することとした。

易においては、九を天とし、陽とする。二を地とし、陰とする。これはもちろん、孔子の易経の本来の考え方である。しかし今、この姓名判断で読者に教えるのは、奇数・偶数を逆にする方法である。奇数を○にして陰とし、偶数を●にして陽とし、これで易卦をつくるのである。

私とは異なる方法を説く姓名判断書もあるが、それらは私と何の関係もない。私の方法は当初から陰陽を逆にして、これに乾坤を付けるのである。

 『古今諸名家 姓名善悪論 全』(続編)(菊池準一郎著) 
根本通明氏 題字

[注2] 「乾坤の配置」説明文の酷似
 菊池氏の『初編』と海老名氏の『姓名判断 新秘術』の記述を以下に比較する。

【菊池】「●○の理由。●印は乾、○印は坤●ばかりは大凶。○ばかりは、始め・中ば盛、終り凶●印は文字の丁数、○印は文字の半数にして、たとえば●は十画の文字、○印は十一画の文字等のごとし。」

【海老名】「姓名の字々に●○を附したるを乾坤組合という。すなわち、●印を乾となし、○印を坤となす乾は文字画の偶数をもって定む。坤は文字画の奇数をもって定むべし。乾坤組合は姓名中に一坤もなく、乾ばかりは大凶なり。また坤ばかりの姓名も壮・中年、幸福なるも、終り大凶。中年後、晩年、世人の刺繋〔原文のまま〕・批難を享け、かつ短命なり。」

[注3] 鎌田晴山氏によるパクリ
  詳しくはこちら⇒『「姓名判断は我が国百年の歴史」が本当だ(3)』の[注6]

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