名前で運勢が変わるか?(10):音には固有のイメージがある<下>
●音相とは何か?
色には色相といって、色自体が持つ独特のイメージや雰囲気が備わっているようです。
たとえば、赤や黄を中心とした色の群には、感情的、興奮、攻撃、自己主張、要求、遠心性、外交性、子ども、リゾートなどの意味合いやニュアンスがあり、青を中心とした色の群には、理性的、冷静、守備、自己抑制、忍耐、求心性、内攻性、大人、ビジネスなどを表現するそうです。
それなら、音にもそれぞれ独特のイメージや雰囲気があってもいいのではないでしょうか。そういうことを研究されているのが、『音相』の著者、木通隆行氏です。
同氏によると、「ピ、シ、チ、タ・・・」は明るく強い音、「グ、ヌ、ズ、ゲ、ロ・・」は暗く沈んだ音、「セ、ナ、マ、ハ・・・」は穏やかな音、「キ」は強く明るく単純な音、「ツ」は強さと複雑さを持った音、「ド」は暗く非活性的な音だそうです。[*1]
音によるイメージの違いは、複数の読み方をもつ同じ漢字、たとえば「日本」の読み方の「ニホン」と「ニッポン」になると、もっと際立ってきます。[*2]
日本民族、日本語、日本刀、日本的、日本庭園、日本文化など、とくに「日本」を強調しなくてよいときは、「ニホン」が使われます。
これに対して、オリンピックの実況放送に出てくる「ニッポン頑張れ!」や、スポーツニッポン、経済大国ニッポン、ニッポン男子など、「日本」をとりわけ強調したいときは、「ニッポン」と読んでいます。
また、同じ意味でも複数の表現がある場合、「カットする」と「切り離す」、「ミルク」と「牛乳」などでは、やはりイメージが違ってきます。
「「カット」は「切り離す」より無表情な冷たさが感じられるし、「ミルク」は「牛乳」よりも若さや可愛らしさのイメージがあります」と木通氏は書いていますが、確かにそんな気がしますね。[*2]
ことばが持つこうしたイメージは、音の構造の違いによって生まれるのだそうです。
●音相による姓名判断
そして『ネーミングの極意』では、同じ手法を名前による性格分析にまで拡張しています。
これには驚きました。『名づけ』(岩淵悦太郎、柴田武共著)にあった「知らない人の名前からどんな想像をするか」の調査結果とそっくりではありませんか。
名前の文字は視覚的なイメージを喚起し、音は聴覚的なイメージを喚起する、というのです。もう少し続きを見てみましょう。
●「音相」は「占い」と「魔術」の両機能をもつ?
ますます驚きました。名前の音を分析して、その人の性格がわかるだけでなく、名前から望む性格を導くこともできるというのです。「音相」は「占い」と「魔術」の両方の機能を兼ね備えている、ということでしょう。[注]
『名前で運勢が変わるか?(6):名前による自己成就予言』で触れたように、「自己成就予言」は複数の人々に共通した思い込みが前提でした。ところが、「音相」は音そのものがもつイメージが原動力です。そうなると影響力は「音相」のほうが強大なのかもしれません。
思い込みは人それぞれ異なっているのが普通ですから、AさんとBさんの思い込みが正反対で、影響力が相殺されることもあるでしょう。しかし、音自体がもつイメージは、感度の良し悪しに個人差があるにしても、影響力の相殺はなさそうです。
●「音相」は姓名判断にどのくらい有効か?
ところで著者は、「音相」を名前に応用するにあたり、読者に次のような注意を促しています。
「音相による人の性格の分析は難しい」とはいっても、先の引用文にあったとおり、原理的には可能だというのです。であれば、プチ懐疑派にとって「音相」は期待できそうです。
ただ、この説には重要な前提があります。「人は自分の名前を音として聞くと、その音のイメージと同化する習性がある」というものです。しかも、「自分の名前以外のすべての音、たとえば傍らで家族の名前が呼ばれたとしても、それらの音はすべて無視される」のです。
今のところ、そうした現象が実験的に確かめられたのか不明です。さらに言えば、名前がそのまま呼ばれる機会は経験的に少ないでしょう。幼少期には「○○ちゃん」などの愛称がよく使われますし、成長とともに名前より名字で呼ばれるほうが多くなるでしょう。
音相を人の性格分析に応用するには、名前そのものより、こうした愛称や名字、さらにはあだ名なども考慮すべきです。そして、それらが日常的にどのくらいの比率で使われているかも詳しく調べなくてはなりません。
興味深い説ではありますが、この説をすべて受け入れるためには、今後の研究を待つ必要がありそうです。
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