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発掘!「現代の姓名判断」の起源(9)

元祖探しパズルもいよいよ大詰めを迎えました。このパズルは「現代の姓名判断」の創成期に活躍した占い師の系統図を作れば完成です。

●「元祖探し」の現状整理

まず、パーツをチェックしておきましょう。現在確認できる限りでは、明治40年以前に著書出版や門人指導などのプロ活動を行った占い師は、菊池准一郎、海老名復一郎、佐々木盛夫、高階鏡郭、小関金山、鎌田晴山の6氏です。[*1-6]

これまでの調査から、彼らの技法はいずれも非常によく似ており、先駆者の技法が踏襲されていったことが分かっています。

ということで、彼らの前後関係を調べさえすればよいのですが、今のところ判明しているのは菊池、海老名、佐々木、鎌田の4氏だけで、高階氏と小関氏にはまだ不明な点が残っています。[注1]

そこで、不足している情報を『二百問答』(高階鏡郭著)から引用・要約してみましょう。ここには、高階氏自身と親交があった佐々木氏だけでなく、海老名氏や小関氏の名前も出てきます。

●「現代の姓名判断」創成期の面々

私(高階鏡郭)は佐々木盛夫を大澤儀助と名のっていた時代から知っているだけでなく、私もまた姓名判断の技法を所有していたので、お互いに何度も行き来していた。

そして双方の判断法について情報交換してみると、似ているところもあるが、ずいぶん異なるところもある。たとえば、私の判断法では姓名の文字の五行配合で体格を論じるのだが、佐々木のそれによると、陰陽配置によって判断するのである。

その後、青森県に蛯名〔海老名〕某という姓名鑑定家がいて、著作も出版していると聞いた。残念ながら、私はその人に会ったこともなければ、著書も目にしていない。聞くところでは、佐々木の判断法とよく似ているという。あるいは佐々木の伝授を受けたものであろうか。

その後、明治40年頃に小関金山君が姓名判断の本を書いたと聞く。私は小関君とはもともと面識がなかったが、明治35年の秋だったと思うが、仙台に遊んだとき、小関君が私の姓名判断を披露し、かつ周旋紹介等の労をとってくれて、ついでに彼の家に宿泊したことがあった。

その後、連絡をとることもなく、疎遠になっていた。当時、小関君はまだ姓名鑑定家ではなかったので、私は彼の判断法がどんなものか知らないが、世評によると、私の判断法とはまったく異なるようである。

現在知られている最初期の姓名鑑定家が3人も登場しました。名前が出てこないのは、菊池氏と鎌田氏だけです。この当時、彼ら6名以外にはプロの鑑定家がいなかったのかもしれません。

●高階鏡郭氏の判断法

それはさておき、「海老名氏を知らないし、著書も読んでいない」と明言している部分に着目したいと思います。というのは、彼の『二百問答』には次のような特徴があり、これを裏付けていると考えられるからです。

なお、彼は「運数」のことを「運格」と表現しており、これは佐々木氏と同じです。

①「天地の配置」を用いていない
②「読み下し(の意義)」を用いず、語呂を重視する「読み下し(の口調)」を用いている[注2]
③「乾坤の配置」および「五行の組合せ」では、独特の図解による説明をしている[注3]
④「運格」では、そもそも「数」に吉凶があると考えていない。

上記の①②は佐々木氏と同様ですが、③④は際立って独創的です。このうち、特に重要なのが④です。なぜなら、この「運格」の判断法は、海老名氏や友人の佐々木氏だけでなく、元祖の菊池氏とも大きく異なるからです。

●他の占い師と一線を画す高階氏の独創性

菊池氏の新発見は、科学的根拠はともかく、「数には吉凶がある」ということでした。そこで彼は、姓名の各文字の画数合計が、そのまま吉凶を表すと考えたのです。

海老名氏も佐々木氏も、菊池氏のこのアイデアを踏襲したからこそ、「運数または運格」(数霊法)による判断法はよく似ていたのです。さらに、この後に出てくる小関氏も彼らと同じです。

ところが高階氏の場合、文字の画数合計を五行(木、火、土、金、水)に置き換えて、姓と名の相性(五行の相生相剋)で吉凶を判断します。つまり、この方法では「数に吉凶は無い」のです。 [注4]

高階氏は自身の種本について何も明かしていません。ですが、①~④の特徴から、情報源は海老名氏や佐々木氏ではなく、菊池氏の『初編』だったと推定されます。『初編』の記述の曖昧さが、自由にアレンジする余地を残したのではないでしょうか。[注5]

以上のとおり、高階氏も独自の姓名判断を確立していました。であれば、彼も元祖グループの一人に加えるべきでしょう。

ただ、彼の方法は後の占い師に継承されませんでした。一時は全国に多くの門人がいたようですが、彼以降の姓名判断書はほとんどが海老名氏の流れを汲むコピーだったのです。高階氏の方法は、海老名氏に比べて、少し複雑だったせいかもしれません。[注6]

==========<参考文献>==========
[*1] 『古今諸名家姓名善悪論』(菊池准一郎著、明治26年)
[*2] 『姓名判断 新秘術』(海老名復一郎著、明治31年)
[*3] 『新式姓名法』(佐々木盛夫著、明治36年)
[*4] 『姓名判断術』(鎌田晴山著、明治38年)
[*5] 『人生哲理命名心法』(小関金山著、明治40年)
[*6] 『生児命名 姓名判断伝授 二百問答』(高階鏡郭著、明治45年)

===========<注記>=========
[注1] 「現代の姓名判断」の系譜
 こちらも参照⇒『「姓名判断はわが国百年の歴史」が本当だ(2)』

[注2] 「読み下し(の口調)」の創案者
 佐々木氏も「読み下し(の口調)」を用いたが、この技法は菊池氏の『初編』には出てこない。佐々木氏が高階氏と親交があったことや、佐々木氏の『新式姓名法』にこの技法の解説が無いこと(※)、さらに高階氏の方法は全般的に独自性が強いこと等から、この技法の創案者はおそらく高階氏で、佐々木氏は彼の方法を取り入れたのではないか。

※ 例外的に次の解説文があるが、これは明らかに「口調(語呂)」の吉凶を説明する内容ではない。
「姓名には、名の読み下し、大いに忌むものあり。例えば、天地の姓に対し東風とか、世界の姓に対して西風とか、五大洲の姓に対し空平とか、国家の姓に対し神平等のごとき名は、はなはだ凶なり。」(句読点を追加)

[注3] 高階氏の「乾坤の配置」「五行の組合せ」
 高階氏は、「乾坤の配置」「五行の組合せ」の吉凶パターンを説明する際、天体図のような同心円を使って図解している。このような解説は極めて珍しく、他の姓名判断書では見たことがない。

高階鏡郭氏の「乾坤の配置」「五行の組合せ」図解

[注4] 高階氏の「運格」判断法
 この方法では、五行の組み合わせで吉か凶が決まる。したがって、一見すると数霊法のようだが、厳密には、「数には吉凶がある」とする数霊法とは別ものである。
 なお『二百問答』では、「運格」および「運格の和合」(吉となる運格の組合せ)を次のように説明している。

「運格とは文字の運筆画格数をいうものにして・・・「天」なる文字は四つの運筆にして、「地」なる文字は六つの運筆なり。この運筆の積する総数を称して運格とはいうなり。
 ・・・この運格を如何の方法をもって和合せしむるやというに、すべからく数の五行によらざるべからず。数の五行を採りて・・・姓と名の各格数を和合せしむるなり。
 ・・・一は水性、ニは火性、三は木性、四は金性、五は土性、六は水性、七は火性、八は木性、九は金性、十は土性」(句読点と「」を追加、漢字の一部を現代表記)

[注5] 高階氏が用いた判断法の独自性
 もし、種本の技法や吉凶の判断法が、誰が見ても明白なほど完成していたら、こうは行かなかっただろう。たとえば、海老名氏の『姓名判断 新秘術』などを利用した場合、その影響を受けずにいるのは難しいと思われる。

[注6] 高階氏の姓名判断の普及
 『二百問答』には、彼の姓名判断を紹介した新聞として、日刊紙だけでも30紙以上を掲げているが、この記述に続いて次のような文章がある。

が姓名判断を伝授せしその人士じんし、今や全国においてあり。しかして被伝授者のまたその伝授者ありといえば、予が学派もまたさかんならずや。真に栄誉の至りというべし。」(漢字の一部を現代表記、句読点を追加)

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