小関氏の『命名心法』には、海老名、佐々木両氏の「誤り」(と小関氏は誤解した)を指摘している箇所があります。「奇数・偶数と乾・坤の対応関係が逆だ」というのです。このことから、小関氏が両氏の著書を読んでいたことは明らかです。
では、菊池氏の『初編』についてはどうでしょうか。おそらく、読んでいないでしょう。というのも、海老名、佐々木両氏を名指しで批判しながら、菊池氏の名前は出していません。
ですが、この「誤り」は菊池氏の『初編』から借用してきたものです。種本を書いた菊池氏を真っ先に批判すべきなのに、そうしなかった。ということは? 「小関氏は『初編』を知らなかった」とするのが自然でしょう。[注1]
●小関金山氏の判断法
小関氏の用いる技法や判断法は、おおむね海老名氏と佐々木氏のものを折衷しているようですが、詳しく見ていくと、各所に混乱があります。こうした中途半端な内容からは、どことなく寄せ集め的な印象を受けてしまいます。
おそらく、小関氏は自身の頭の中を整理できていなかったのでしょう。これでは、独自の姓名判断を確立していたとは言い難く、元祖グループに加えるのは憚られます。[注2]
では、後世に何も影響を残さなかったかというと、そうとも言い切れないのです。些細なことながら、小関氏が「乾坤が逆だ」と指摘して以降、後の占い師たちは、ほとんどが乾坤を本来の対応関係に戻しているのです。
次表を見てください。これは小関氏の『命名心法』以降に出版された姓名判断書について、奇数・偶数と乾・坤の関係が「正」か「逆」かを調べたものです。
これがすべて「小関氏の指摘が影響した結果」とは断定できませんが、まるでオセロゲームのように、「逆」から「正」へ見事にひっくり返されているではありませんか。[注3]
占い師たちの極端な変わり身は、普通に考えて「佐々木氏の判断法は間違っている」という指摘と無関係ではないでしょう。姓名判断の信奉者にすれば、どうにも受け入れがたい「佐々木氏の急死事件」を、なんとか釈明したかったでしょうから。
この中で面白いと思ったのは、海老名氏が周囲の変化に影響されず、信念を貫いているところです。考えがブレないのは、大切なことではあります。
●結 論
さて、ようやく「現代の姓名判断」創成期に活躍した占い師の系統図ができました。元祖探しパズルの完成です。
これまでの調査結果をまとめると、アイデアの元祖はやはり菊池准一郎氏とするべきでしょう。また、「五則」の確立とマニュアル化を果たした功績は海老名復一郎氏に、そして佐々木盛夫氏は、新聞活用で姓名判断の知名度を高めた、メディア戦略の成功者と言えそうです。
さらに、独自の姓名判断を確立していた高階氏を含め、彼らはいずれも「元祖」とは言えないまでも、創成期に一定の役割を果たしたことから、元祖グループと考えてよさそうです。[注4]
では、昭和に入ってからの第二次ブーム後期の立役者、熊﨑健翁氏の位置づけは? そうですね、旧来の技法を統合・発展させた「中興の祖」といったところでしょうか。