漢字の画数問題(5):異体字と俗字
●異体字とは
漢字には意味も読み方も同じ「異体字」があります。島・嶋・嶌や、崎・﨑・嵜などです。この異体字には正字(正規の文字)と俗字(通用の文字)の区別がありますが、これが画数問題を一段と複雑にしているのです。
というのも、ある流派は俗字を認めないからで、彼らは俗字を正字の画数で姓名判断します。俗字と正字で画数が違えば、当然ですが、俗字を認める流派とは結果も違ってきます。
●俗字をどう扱うか
ところで、この正字・俗字の区分は必ずしも統一されていないようです。
たとえば『誤字俗字・正字一覧表』では、島・嶋・嶌、および崎・﨑・嵜はいずれも正字の扱いです。一方、『漢字異体字典』では、嶋・島、崎・嵜は正字ですが、嶌、﨑は俗字となっています。『異体字解読字典』でも嶌、﨑は俗字とあります。[*1-3]
そうすると、姓名に「嶌」や「﨑」の文字をもつ人は、まず俗字と見なすかどうかで道が分かれます。もし、俗字と見なした場合、俗字を認めない流派では、今度は「島」とするか「嶋」とするか、あるいは「崎」とするか「嵜」とするか、さらに道が分かれるのです。
●異体字の発生
異体字は甲骨文字の時代からありましたが、とくに隷書が普及し、日常的に漢字が使われて、書写の便宜のために字をくずす傾向が強くなってから、数が激増したそうです。
唐代には異体字を整理した『干禄字書』(774年成立)が書かれましたが、これは科挙の受験者に正しい字体を教えるのが目的だったそうです。当時はまだ印刷された本がほとんどなかったため、こんな指導書を作らなければならないほど、多くの異体字が通用していたというのです。[*4]
●何をもって俗字とするか?
『干禄字書』がそんなに由緒正しいものなら、正字と俗字を区別するのに、これを使っていけない理由があるでしょうか。やってみましょう。
この字書では、約800の漢字について、異体字を正・通・俗の3種類に分類しています。「正」は確実な根拠のあるもの、「通」は長年使われてきたが正規の文字とは定めがたいもの、「俗」は学問的な裏付けがなく、日常的にのみ使用を認められるものです。
さて問題は、この「通」を俗字と見なすかどうかです。通は「正規の文字とは定めがたいもの」と定義しているのだから、俗字に決まっているではないか。そう言い切ってしまうと、実はたいへん困ったことが起こります。
この字書では「準」と「准」を同じ文字として扱っています。準が正字で、准は通用の字です。したがって、俗字を認めない流派では、「准」を正字の「準」と見なして画数計算しなければいけません。[*5-6]
するとどうなるか? 准は10画、準は13画(流派によっては14画)で画数が違うのに、岡田准一さんと岡田準一さんの姓名判断が同じになってしまうのです。
同様に、華と花、嬢と娘、着と著、笑と咲なども同一文字で、一方が正字、他方が通用の字です。そのため、俗字を認めない流派では、華子さんと花子さんも姓名判断的には同じになるわけです。[注1]
●複数の字画数をもつ漢字
もうひとつ難問を提起しておきましょう。戦前まで使われていた旧字体を新字体に簡略化したとき、複数の別字をまとめて、ひとつにした漢字があるのです。余、欠、台、缶、芸、弁などがそうです。[注2]
このような漢字を姓名に持つ人は少ないかもしれませんが、旧字派・康煕派がいつものルールで姓名判断しようとすると、胃が痛くなるようなことが起こります。もとの旧字体が二つ以上あるので、どの画数を使うべきか決められないのです。
こういう占い師泣かせの漢字で姓名判断するときは、先に胃薬を飲んでおいたほうがよさそうですね。
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