書評「超」納税法 (新潮文庫) 無料
研修医の頃から抗生剤より税制、輸液より不労所得に興味があったため様々な書籍を読んでましたが、今回は野口悠紀雄先生の超納税法の書評と私の拙い解説をしようと思います。まあ古い本で2004年の本です。中古で安く買えると思います。そして野口先生の著作を補完する意味で他に国税庁のHPを参考に税の変遷についても記載しました。
全く税金のことが分からない方には以下の著作も参考になるかと存じます。
以前私はこんなnoteも書いてます。
『勤務医のための税金入門です。少し以前に医局会で医師用につくったパワポです』
https://note.com/110119mail/n/n43fc6e09a615
無料noteで少し古いのですが考え方は参考になると思います。
下記でも述べますが、給与所得税控除など作成時と比較しても、状況は悪化しております。
税金のことが全く分からないって言う方に一番お勧めなのは
『サイフの穴をふさぐには? 学校も会社も教えてくれない税とお金と社会の真実 Kindle版』
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税金以外に社会保険や投資も含めて解説してます。
ある程度知識のある方はアマゾンでポチっても、すべて知っていることでしたとなりがちですので、知識のある方には不要です。
ある程度以上学術的に税金について学ぶのは
教養としての「税法」入門
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この本は大学教授の著作でもあり、網羅的に税法というか税金学について記載があります。読み応えは上記の本に比べてしっかりあります。
前置きがながくなりましたが、今回は下記の本をベースに税金のを解説したいと思っております。
前提ですが、野口氏は大蔵省→プリンストン大教授までやられた方ですので、当然安っぽい節税を我々勤務医に教授してくれる訳ではないです。
寧ろ税制について問題意識を持ち真摯にとらえておられます。
かの教授が指摘する問題意識、構造的問題の中に、いくつかヒントがあって自分で考える人には節税になるかもしれません。
「超」納税法 (新潮文庫)
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著者は東大工学部卒→大蔵省入職&学者(プリンストン教授)というまあこれだけで、大変めずらしい経歴ですね。
野口氏が実際に経験した小学生のころの税金(もちろんご本人ではなくご家族)と遭遇した最初のプロローグからして面白い。
まずは我々貧乏勤務医もされている源泉徴収の説明です。源泉徴収ってヒットラーが作った制度ですが、1940年には日本でもすでに給与所得者は源泉徴収だったんですね(この辺は知っている方も多いと思います)。会社が問答無用で給与所得者の給料から税金を徴税してたんです。これは会社側からしても負担です。だって本来なら国(税務署)がすべき徴税を会社の人員(経理課など)を使って徴税する訳ですから。会社の制度を使って税金を国家のために召し上げるこの源泉徴収という制度はほんとうに効率的ですよね。
そして戦後は自営業者に申告納税制度を開始した(戦前は賦課課税制度)。
昭和23年には営業所得者の70%が更正決定処分(いついつまでのなんぼ税金をおさめてねって通知がくる)をうけて、追徴税をとりまくり、その後GHQのシャウプ税制使節団の指導をうけて直接税中心の『公平で中立的な恒久的税制を確立すべき勧告が行われ』が行われたみたいです。
分かりやすく言うと、戦後のどさくさはお上も「おい、こら出すもんだっせ」って半グレのような徴税をやってたのが、自己申告で後から問題があれば追徴課税スタイルに変更したみたいです。
しかしその後も平坦ではなく、国税庁のHPによると
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/32/230/hajimeni.htm
『昭和40年代のクロヨン・トーゴーサンピン論議に見られる不公平税制論議あるいはサラリーマン税金訴訟で論議された給与所得者の自主申告権の問題など、申告納税制度をめぐる多方面の税制論議等を経て、納税者の理解の下に、申告納税制度発展の基盤も着々と整い、現在では、申告納税制度が税制の柱としてその機能を十分に発揮している』
はい、十分に国民は理解し支援しております。
少し、補足すると、給与所得者の自主申告権の問題って言うのはリーマンは税金を自己申告できないのおかしい。源泉徴収じゃなくて、自分で申告させてぇやって言う裁判があったんです。同志社の教授が起こした裁判があって『サラリーマン税金訴訟』とか原告の名前で大島訴訟とか言われています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E7%A8%8E%E9%87%91%E8%A8%B4%E8%A8%9F
この辺は橘玲先生の「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 (講談社+α文庫)に詳しいので興味のある先生はみてください。
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この時の裁判所の見解は『お前らリーマンって何でも会社で支給されてるのに給与所得税控除を多額認めてあげてるのに何を文句言うのだ』(意訳)
さらに分かりやすく言うと、サラリーマンには(正確には医師を含めた給与所得者)領収書の要らない給与所得控除を過分に与えてあげてるのに裁判なんかするなよって言う判決文です。
昔は確かに給与所得税控除は結構高くて給与収入1500万で245万(平成27年)、今では850万で195万しかサラリーマンに経費を認めてくれていません(それでも領収書なしで195万月15万以上の経費を認めてくれています。)
今後はとりあえず、税率を変える=増税は世間の反発があるので高額納税者(笑)の方々の給与所得税控除を低くする方向のようです。
以下は野口先生の「超」納税法 からの抜粋です。
事業所得の懐柔的な徴税は自営業者に政治的保守化
給与所得者の源泉徴収は給与所得者に政治的無関心をもたらした。
→事業所得である自営業者は節税もある程度できるので、政治的な保守化(その代わり大企業と比較し安定性を欠く)。
給与所得者はどうせ勝手に取られるので、手取りしかみず、税金の使われ方に無関心を及ぼした。
また、野口先生は自分の納税体験を例に出しながら『税額は疑問の余地なく決定されるものではない。』と言っておられる。これは自分で事業所得を申告した人なら理解して頂けると思う。電気代の何%が事業かどうか、この人とは打ち合わせしたけどコーヒー代以外のケーキ代も経費にしていいものかの明確な法令や通達はない。もちろん野口先生はそういった卑近な例ではなく税の帰属(この所得の発生時期はいつなのか、この収入は個人か法人どちらに帰属するのか)について税金は必ずしもclearになるものではないことを説明しておられた。そしてただしく払おうとして、税務署に事前の照会をわざわざしても、回答が来ない。税務署と話しあえても、具体事案の事前照会に答える義務はないという困った問題にいきつくと論じておられます。結局、野口氏は著作もある大物税理士とこの帰属の問題をclearしたのですが、さすがにここまで一般人に問われることはないと思います(野口氏は当時超勉強法で日本1-2の大ベストセラー作家だった)。
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実際の節税の可能性の萌芽は5章から10章に記載があります。
中小企業の親父は仮に法人化(個人事業主であっても)していなくても経費(実際の商品の原価や減価償却費や電気代などの)を引いて、給与所得税控除も利用できる立場なんです。家族がいればさらに家族にも(一定の条件はありますが)、給与を渡して所得を分散することができる。つまり経費の2重控除ではないかと言う指摘です。野口氏は中小企業経営者の経費の2重取りすなわち、本当の経費と給与所得者としての給与所得控除の廃止を提案しているが、税負担が増悪する同族法人や、事業所得者から強い反対が起こり、その層はサラリーマンと違って政治的に強固な層としている。つまり提案しておきながら実現の可能性がないことをご本人が認めておられる(内閣が2つ3つ飛ぶほどの問題であるとされている)。ここをよく考えれば医師にも色々な可能性がありますよね。