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人類初の一本歯下駄100kmマラソン完走への挑戦 〜2017年奥出雲ウルトラおろち〜


2017年4月、「奥出雲ウルトラおろち100kmとおあし」に挑戦した後にfacebookに書き下ろした文章を再掲いたします。





「奥出雲ウルトラおろち100km大会を一本歯下駄で挑戦する」

いや

「完走する」

そう誓ってから1年が過ぎ、

その本番を迎える一ヶ月前から、私はSNSをピタリと辞めた。

その間、何をしていたのか。

実は、「特別な事は何もしていない」。

ただ一つ、

「見猿」「言わ猿」「聞か猿」

を貫いていた。

つまり、他人を気にせず、

地球に根ざす野生的な動物として、

「当たり前」に「フツー」に現実的に生活していただけだ。

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毎朝5時には起き、自分の身体と対話を始める。

天然伏流水を飲み、

やがて昇り来る太陽の光を浴び、

ゆっくり活動して行く自分の生命力を感じながら目覚める毎日。。

特別に興奮する事もなく、
特別に落ち込む事もなく、

交感神経と副交感神経が織りなす

緩やかな生命のリズムを乱さず奏でる毎日。。

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本番に向けて、

特別な栄養食品を摂取する事もなく、
特別に食べ物を制限する事もしない。

なぜなら、

この挑戦は、

何かすごい事をして「特別な人」に成る事が目的ではないからだ。

だから、本番に向けての、何か特別な準備は、

一切しなかった。

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私は普段から、月間で通算30km〜50km以上は走らない。
そして、一回に7km以上も走らない。
(イベント時は除く)

野生動物は筋トレをしない。

蜘蛛は巣の貼り方を練習しない。

それと同じで、

歩き、走り、大陸を旅して生息数を増やして来た人間の本来の身体性=野生的なポテンシャルなら、特別な訓練やトレーニングなどせずとも100km以上走れて当たり前。

それがフツーなのだと、私の身を以て人類に証明する。

つまり私は、特別な人に成りたいわけではなく、

当たり前の「フツーのヒトで存りたいがため」に、

一般常識的にはフツーじゃないことに挑んだのだ。

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今回、ランニングウェアは新調しなかった。

極力、肌へのストレスを避けた、裸に近いただペラッペラのアンダーウェアにした。

美容室にも行かなかった。
髪型なんて、走るのに関係ない。

日除けや雨避けのキャップやファッション的被り物も、ナチュラルランニングの邪魔になると予想し、

やめた。

一本歯下駄で100kmを走る事に、

他人からのミテクレや、自分のコダワリは一切必要ない。

ナリフリは、構わない。

補給食も水も一切持たないで出走する。

自分自身をとことん信用し、現場での身体の対応力にまかせる。

本来は、、、全裸で走りたい。

持ち物は、、、極力少なくしたい。

練習量や準備量は、潜在的な不安の量に比例して増大する。

強い意気込みや想い入れも、気負いとなる。

そして人は、失敗を練習量や準備量のせいにする。

私は、何もしない、何も持たない事で、

完走出来なかった時の言い訳の材料の一切を、排除した。

等身大のありのままで挑む。

全てを、ありのまま受け入れる。

逃げ道は、、、ない。

大脳の発達によって日常的に思考過多に陥り、地球に生きる野性味を失った現代人の、

本来の野生的で潜在的なポテンシャルを最大限に引き出してくれる「一本歯下駄」を履いて出場する事。

私の挑戦は、それが全てだ。

それが、今のテーマであり、私のいるステージなのだ。

さぁ、ステージを最大限に謳歌しよう。

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スタート30分前。

白いランニングウェアに身を包み、白いニシキヘビの鼻緒の一本歯下駄に両足を通した時、ハッとした。

「オレって、本当は白蛇だ」

白龍だ」

そして、出走前に他ランナーさんに撮ってもらった自分の写真を見た時、

「オレは今日、白鳥になるんだ。。。」

そんな思いが頭をよぎった。

なんだか今日まで、ずっと、自分のことを醜い野獣のように思い込み続けていたが、

突然に、呪縛と呪いが解けたような、そんな気がしたのだ。

が、そんな世迷いごとはすぐに払拭した。

自分の正体とか、自分の前世とか、自分は何者だとか、そんなことはどうでもよい。

自分を何かにあてはめて考えるのはただの誇大妄想だ。

今のオレが、今のオレの全てじゃないか。

それでいい。

さぁ、今のオレを楽しむぞ!

出走直前にして、あらゆる想いが吹っ切れた。

何の気負いも、過度の緊張もなく、

身体を温める程度の適度な交感神経の働きを感じながら、

朝5時、

数百名のウルトラ・ランナーたちと共に、一本歯下駄ランナー小平天はスタートした。

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軽い。

奥出雲の景色も楽しまない。

ランナーとの会話も楽しまない。

タイムも走行距離も確認しない。

何の感情もない。

無だった。

ただただオレは、軽さの中にいた。

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ふと気になって、エイドステーションでスマホを開いた。

facebookで、みんなが俺の健闘を祈ってくれている。

オレは素粒子化して、みんなの祈りと一つになっている。

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冷たい雨が降って来た。

下駄が水を吸い上げ重くなり、鼻緒が緩んでしまった。

しかし、ニシキヘビの鼻緒が水を得て喜んでいるのを感じた。

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やがて雷が鳴り始めた。
天が動いている。
痛いほどの雨粒が肌を打ち付ける。

オレを鼓舞している。

まさに、恵みの雨に感じた。

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今回の本番を迎えるにあたって、ここ一年の空いている時間のほとんどを、

筋膜の癒着のリリースと筋拘縮の緩和、

自身の心と身体の解放に努めてきた。

稼ぎの全てを費やして、あらゆる治療方法も試して来た。

自分自身を「本来の姿に還すこと」に、

全てを捧げて来た。

やがて、独自の手技手法を開発することが出来た。

最終的に自分を治したのは、自分だった。

その手技を活かして人々を治し、経験を世の中に還元することが出来るようにもなっていった。

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脚のカタチが悪い為に鵞足炎の傾向がある私は、本番一週間前からウィークポイントの一つである内転筋周囲の半腱様筋腱、薄筋腱、縫工筋腱を徹底的に解した。

本番直前に脚をいじくり回すのは、もちろんリスクが伴う。

今までのバランスが崩れれば、違う場所に負荷がかかるからだ。

鵞足炎は脚のオーバユースと言われているが、脚を休ませたり対症療法的に炎症を抑えたところで、筋癒着や拘縮が解けて脚のカタチが改善されなければ根本的な解決にはならない。

一本歯下駄ランニングはインナーマッスルを主導とする。

足指、足首、膝関節、鼠径部から股関節大転子周囲筋、腸腰筋、腹横筋から肋間筋、胸郭までを駆使し、全身の連動性を必要とする。

一つの強い癒着箇所があると、摩擦の炎症の痛みが元で交感神経が優位になり、ランニング中に様々な関節に炎症が広がり、身体は固くなって全身の連動性を奪って行く。

やがて自己防衛の副交感神経スイッチが入り、脳も身体もリタイアの司令を出し、身体の活動は止まる。

過去の大会のリタイアは、全てにおいて、若い頃の怪我が元だった。

日本人特有の精神論や根性論で痛みを乗り越えるとか、脳内に分泌されるβエンドルフィンで痛みを誤魔化す程度では、

16時間の制限時間内に一本歯下駄で100kmを完走することなど叶わない。

もう、同じ轍は踏まない。

本番まで、超徹底的に、脚の造形に向き合った。

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本番では、

足指、クルブシから股関節までをしっかり解したおかげで、心配していた炎症は起こらなかった。

筋肉への偏った負荷もなく、ダメージもなかった。

しかし、脚のカタチが変わったことが原因か否か、やはり弊害も生じた。

経験したことのない股擦れを起こしたのだ。

ヒリヒリと激痛が起こる。

ランニングパンツが擦れないように、スソを内側に巻き込みながら走った。

まるでオムツのようだww

そういえば小学生の時、鉄棒女子がスカートを巻き込んでいたなw

半笑いで走る。

白いムチムチの脚を剥き出しにして走った為、たくさんのランナーたちに(特に女性たちに)脚が綺麗だと褒められた。

「小尻が可愛い」
「柔らかそう」
「脚を枕にしたい」
「カモシカのよう」
「膝下がシシャモのよう」

信じられないが、全て本当に言われたセリフなのだw

「フォームが芸術そのもの」と、

涙が出るくらい嬉しい評を下さった方もいた。

元来、短足ガニ股の私は、

走っている時に限っては、どうやら美しい脚らしい。

気恥ずかしいが、生脚を褒められると、とても嬉しかった。

まるで、女性になった気分だ。

35km地点のエイドステーションで内腿を確認すると、真っ赤に擦れてかなり出血していた。

パンツの内側は真っ赤に染まっていた。

まるで、初潮のようだ。。

この女性体験的な出来事も、

私の心身にとって何か象徴的な大切な出来事のように感じた。。。

一応、変な意味じゃなく、と、付け加えておこうw

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このエイドステーションで初めて時間を確認した。

午前9時。

アップダウンのロード35kmを一本歯下駄で4時間。

絶好調だった。

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雷雨に荒れる奥出雲町を一本歯下駄で走り続け、気がつけば35kmのエイドステーションに4時間ちょうどで到着。

股擦れで真っ赤に出血していたが、快調な走りに支障をきたすほどではない。

実際は、他ランナーさんに心配されるほどに真っ赤になり、

かなりの痛みを伴ってはいたのだが、

過去にリタイアした時に発生した持病の股関節の深い痛みに比べたら、

表面的な皮膚の痛みなど取るに足らない。

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この数年。

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脚を動かす度に、内側外側からガリガリゴリゴリと弾発音の激しかった股関節に、寝ても覚めても向き合い続けた。

そして、自らの研究で克服したのだ。

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「今、オレは、何の支障なく走れている。」

その喜びは、簡単には言い表せない。

思えばこれまで、

よくあのボロボロの身体で運動して来たものだ。

全ては、一本歯下駄のおかげ。

「一本歯下駄で走る」と一口に言えども、

一本歯下駄を履けば、即、不自由なく走れる訳ではないし、

努力や根性や筋力で無理に走れるものでもない。

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一本歯下駄は、「科学」。

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身体構造力学。
古武術的身体操作法。
二軸走法。
丹田開発。
チャクラ開発。
深い変性意識の到達。
マインドフルネス。
禅の境地。

西洋の唯物的で物理的な身体科学と、神秘的なスピリチュアリズム、

東洋の森羅万象・万物的で和合的な身体操作法と、伝統文化、主義思想や宗教観、精神文化。

西洋、東洋の芸術性。

人生における現象の全て、体験の全て、出会いの全て、万物の全て、

【自分の全て】を参考にして、

一本歯下駄で一本に統合して「科学」する。

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一本歯下駄は、【統合科学】なのだ。

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いくら現実主義的なランナーさんに変人扱いされようと、

ナリフリなど構わずに自分の潜在能力を引き出さないと、

元々はアスリートでもなく、ランニング嫌いで、不健康を極め、全身に筋膜の癒着を残し、股関節に決定的な故障を抱えた私には、

アップダウンの激しい奥出雲の100kmを一本歯下駄で制限時間内に到達することなど

到底出来ない。

この日の為に、これからの日々の為に、

ただガムシャラな努力や根性を排除し、

自己犠牲を伴いながら自己満足を得るだけの無理なトレーニングを排除し、

孤高を目指して孤独に向き合い、

自分の思考や感情という「移ろいゆくエビデンス」をFacebookに投稿しながら、

よりシンプルに、

よりシンプルにと、

自分の本質へと、向かい続けて来たのだ。

それが今日、一つの結果として、体現されようとしている。

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そんな私の想いを後押しするかのように、突然に太陽が輝き出した。

「さあ〜、行くかぁ!」

35kmエイドステーションで大声を張り上げて、出発。

陽射しの温かさを全身に感じながら、

ついに50km過ぎのエイドステーションに到着。

さすがに疲労が溜まってきている。

さあ、ここからが本当の挑戦。

過去の一本歯下駄ランニングでは、50kmが最長距離。

さらにアップが厳しくなる残り50km。

私はこれから、あらゆる意味で、未知なる領域に踏み込む。

自分の精神と肉体の限界に挑むのだ。

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ワクワクなどしない。
ドキドキもしない。

粛々と、ただ粛々と、

挑むのだ。

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50kmを超えたエイドステーションに到着。

いよいよ、自身の一本歯下駄ランニングの最長距離を超えて、未知なる領域へと踏み込む。

この先、85km地点までは地味〜な、長〜い登り坂が連続して現れる。

このエイドステーションでタップリと休憩をとっておく。

まだ、制限時間には余裕があるはずだ。

エイドステーションのスタッフさんや運営スタッフさんと会話が弾む。

心にはまだまだ、余裕がある。

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次のエイドステーションを目指してゆっくりと腰を上げ、

そしてゆっくりと走り始めた。

実は、40km過ぎからペースがガクッと落ちていた。

胸郭の拘縮箇所が、唸るほどに痛み始めていたのだ。

一本歯下駄ランニングで脱力して軽快に走り続けるには、下肢表層筋(大腿四頭筋)の踏ん張るチカラや蹴るチカラを封印して、

身体全体を柔軟なバネのように連動させて走るため、日常生活ではあまり使わない「胸郭」を多用する。

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その昔、私はカッコつけの若気の至りでバーベルでウェイト・トレーニングに「狂った」ように励み、胸郭を固めてしまっていた。

脳のバランスセンサーが故障して狂っていた為に、過度のトレーニングに依存していたのだ。

さらに、腹筋ローラーで腹直筋を固めてしまった為に、腹横筋腹斜筋も理想的に気持ちよく伸張しない。

約5kmごとに設営されているエイドステーションで休憩したのちに走り出すと、

「うあぁあぁぁ〜〜ぁ〜」と唸り声が上がるほどに、

胸郭の全体が傷んでいた。

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身軽さを感じながら走れている時の私は、

「渡り鳥が長距離を移動している時と同じように」

脳全体と身体全体がバランスよく連動して自動的な長距離エコモードに入っているため、

ほとんど思考をしない。

加速や減速も、思考して身体に指示するのではなく、

コースの高低差や、外気温や体温の上昇下降に感覚センサーが反応し自動対応して動作を調節してくれる。

エコモードに入っている時の私は時間を確認しない為、

気づいたらアッと言う間に距離を進んでいる。

速いのではなく、早いのである。

しかし、身体が痛みを感じ始めると、途端に「大脳」が思考活動を開始する。

たった今、痛みを伴っているこの現実を把握し、

現状を打破しようと、状況判断(ジャッジメント)を始めるのだ。

脳はリスクを回避する事を優先する。

過去の記憶の蓄積の中からリスクの回避方法を探り思考する為に、どうしてもリタイアが頭の中をチラつく。

走ることで痛みや苦しみが生ずるならば、リタイアして走ることを辞めてしまうことが最も有効な危険回避になるからだ。

まだまだ心も身体も余裕があり、

しっかり走れているにもかかわらず、

裏腹に別人格が現れて、リタイアへと誘惑をするのだ。

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リタイアすれば楽になる。

いや、でも。

あーだ

こーだ。。。

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ここで思考過多に陥ると、どうしても視線が落ちる。

下を向くとクビや肩が張り、身体が縮んで全身の連動性が奪われる。

視野が狭くなると遠くの目標や全体性を見失い、

目の前の現実の辛さや煩わしさに、心が囚われて行く。

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そんな時、共走しているランナー同士の励まし合いが始まった。

「一本歯下駄、ナイスラン!」

ハッ!!!

「ウィッス!!」

小気味よくポジティブなエネルギーを掛け合うことで、

互いにリズムを取り戻す。

なんともありがたい瞬間だ。

そっか、オレ、ナイスランしてるんだ!

まだまだイケる!!

時には、ランナーから、一本歯下駄を履いて走る俺に対して

「無茶ですね」
「痛くないんですか」
「大丈夫なんですか」
「どうしてですか」
「なんでですか」
「何の為ですか」

そんなネガティヴな声かけや質問責めに遭った時などは、

こちらもネガティヴな感情が沸き起こる。

うまく返せればいいのだが、

冷たくあしらってしまった時は、自分に自己嫌悪してしまうこともある。

「超人ですね」
「仙人ですね」

逆にそんな風に声をかけられると

「イヤイヤイヤイヤ・・・」

嬉しい反面で言葉に詰まり、

心の中で

「実はオレ、フツーの人になりたいんす。。」

「皆さんの方が、スゴイんです。。」

「オレ、ダメな自分を変えたくて走ってるんす。。。」

などと、ランニングの楽しさを忘れて過剰に謙虚になり過ぎてしまう。

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偉業を成し遂げたいのではない。
栄光が欲しいのではない。

私は、フツーの人になりたいんだ。
人として、動物として、地球に生きる生命として

フツーの生活がしたいんだ。

自分が自分である為に、走っているんだ。

オレが一本歯下駄で100kmのゴールを達成したところで、

千日回峰行者や修験者や山伏など、もっとスゴイことを人知れずに敢行している人は山ほどいる。

周りの人は偉業と褒め称えても、本人は偉業とは思っていないだろう。。。。

しかも彼らは、修業を達成出来ない場合は、自害する。

そう、人生にリタイアなんて、ない。

リタイアは、死だ。

オレは

オレは、、、、、。

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ハッ!?

走りながら

いつのまにか、考え過ぎ、

思い詰め過ぎていた。

いずれにしても、思考過多は、ただ終わりのない禅問答。

このままでは、脳はオーバーヒートを起こしてしまい、活動をストップしてしまう。
(脳のオーバーヒートの先にある境地もあるのだが)

オーバーヒートを止める秘策。

ズバリ

ランニング・フォームのチェンジである!!

思考パターンが行動パターンを形成するように、

行動パターンを変えれば、必然と思考パターンも変わるのである!

私は、一本歯下駄のランニングフォームを、数種類を使い分ける。

無意識長距離モードに入っている時は、
意識せずとも状況に合わせて自然とフォームが変化しているが、

このような禅問答モードに陥ってしまった時は、

意識的にフォームを変えて

気分を変えるのだ。

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長い長い禅問答と、

長い長い登り坂を終えて、

ようやく60km地点

奥出雲の観光名所「鬼の舌震」に到着。

裸足でチャレンジした前回大会の、リタイアポイントである。

しかし、脚はまだまだ残っている!

オレ、今回マジでイケるかも知んない!

この観光名所は、森の中の川の上に設置された全長約3kmの細く長い遊歩道で、一般観光客も多い為に大会規約で歩くことが義務付けられている。

一本歯下駄ランニングに慣れた私にとって、歩くよりは、走る方がよっぽど楽。

しかも、遊歩道は木の板で出来ており、部分的に腐り、苔が生えている。

さらに、午前中の雨のせいで、ツルツルだ。

そして、恐れていた事が。

遊歩道を歩き始めた途端に、

ハンガーノック(低血糖症)に陥ってしまった。

やはり、禅問答で脳をオーバーヒートさせてしまっていたのだ。

もう、身体のどこにもチカラが入らない。

口はダランと開いたまま、ヨダレが垂れそうだ。

頰がこけているのが自分でもわかる。

手すりにつかまりながら、苔が生えてツルツルの木の板の遊歩道を、不安定な一本歯下駄でヨロヨロと歩く。

またここでリタイアするのか。。

まあいいか。

次のエイドステーションでリタイアしよう

次のエイドステーションでリタイアしよう

もう、じゅうぶん、がんばったし。

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とにかく

次のエイドステーションまで

とにかく

次まで

次までは

必ず

次までは必ず

到達しよう

次までは

必ず

到達しよう

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とにかく次のエイドステーションに到達する事を目標に、

ヨロヨロと大幅にタイムロスをしながらも、

「鬼の舌震」出口付近のエイドステーションに到着。

(しかしこの時、低血糖症で全身のチカラが抜けたのが功を奏し、疲れで固くなっていた筋肉の拘縮が解けたのを感じていた)

(もしかしたら)

(もしかしたら、大復活があるかもしれない)

ヨチヨチと四つ脚になりながらエイドステーションまでの階段をフラフラと登り、

コーラ、バナナ、お萩、饅頭、とにかく糖質を摂取して、

横になって、

眠りに落ちた。

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「鬼の舌震」エイドステーション。

前回大会のリタイアポイント。

低血糖症でフラフラになりながらも、到着。

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ここに到着するまで、低血糖で危険を感じていた脳は、ずっと身体にリタイアを司令していた。

しかし、身体の方は、筋肉や関節にはダメージもないし、

胸郭の痛みもいつの間にか治っている。

胸郭は傷んでいたのではなくて、正されて行く好転反応だったのだ。

脳からのリタイア司令に無理に逆らい、根性論で脳と喧嘩して脳を制圧するのは、エネルギーを浪費してしまう。

私は、ひとまず自分の脳を騙す事にした。

「はいはい、次のエイドステーションでリタイアしますからねー」

「もうすぐ危険な状態が終わりますから、安心してくださいねー」

とにかく、「次のエイドステーションまでねー」と脳に言い聞かせて安心させた。

ひとまず、今の自分を騙す。

大脳 = 自我 を抑圧せずに、安心させる。

賢い作戦だった。

そう。

私の魂は、冷静に事の成り行きを観察していた。

(エイドに着いたら、とにかく脳に甘いもんぶっこんで、寝てやる。そうすれば、脳は落ち着くだろう)

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エイドステーションでしばしの仮眠。

「下駄さん、倒れてるわー!」

他ランナーさんの、心配そうな声が聞こえてくる

が、無理に起きない、反応しない。

今は、眼を閉じて、休息する事に完全集中する。

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何分寝たのかわからないが(5分くらいだろう)、

そろそろ起きようという脳の司令ではなく、

ひとりでに身体がムクッと起き上がった。

(ヨシ)

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渡り鳥長距離エコモード・オン

思考モード・オフ

リ・スタート

GO

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まずは小股小股で、リズムで走り始める。

「精」密に、

「進」む。

「精進」。。

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気づいたら、70km過ぎのエイドステーションに到着していた。

「鬼の舌震」からここまでの道程の記憶は、

全くない。

思考モードをオフにしていたからだ。

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ここで2回目の時間チェック。

現在、午後4時過ぎ。

残り30km、ゴール制限時間は午後9時。

あと5時間。

ゴール射程圏内だが、

この先、今大会の最大の難所「おろちループ橋」(全て登り坂の10km弱)が待ち受けている。

イケるか、イケないか、予測不能のギリギリ綱渡りだ。

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この70kmエイドステーションは、とても盛り上がっていた。

ついに70km過ぎまで到着した喜びと安心感で賑わうランナーと、

最大難所「おろちループ橋」をクリアして折り返して長い坂を下り、100kmのゴールまであと少しいうランナーが入り交じっているのだ。

一般の応援団もたくさんいて、参加選手たちを励ましている。

一本歯下駄を履いている俺に着目して声をかけてくれる人がたくさんいた。

皆、私がここまで来れるとは思っていなかったのだろう、

「下駄でここまで来れるとはスゴイっスね〜!!!」

「オレ、やせ我慢が上手なんですよ〜www」なんて会話を楽しんだ。

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しかし、

やせ我慢などではない。

ただの努力と根性ではない。

筋力ではない。

若さではない。

ガムシャラではない。

無茶でなない。

出たとこ勝負の勢い任せでは、ない。

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一年前、

一本歯下駄の練習会を立ち上げて、参加者の皆さんに簡潔にコツを教えることで、自分も成長して行った。

高低差のある100kmマラソンを一本歯下駄でクリアするには、

一本歯下駄で

ハーフマラソンを2時間30分以内
フルマラソンを5時間以内

ノーダメージで、体力的にも余裕を残してクリアする事が必須条件と設定し、

わざと厳しいアップダウンのある大会を選んで、

ノーダメージで余力を残してクリアした。

自分の心と身体の関係性を客観視する為に、自分の思考パターンや感情パターンをオブラートに包まずにFacebookに投稿し、つぶさに観察した。

練習会で、皆さんと、一緒に走った。

ランニングイベントを立ち上げて、皆さんと走った。

毎瞬、毎時、毎日毎日、寝ても覚めても自分の心と身体の全てに向き合って来た。

あらゆる積み重ねの結果として、

100kmマラソン大会、前人未到の一本歯下駄でゴールの達成が、

今、射程圏内にある。

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そう、今ココにいるオレは、スゴイやつなのだ!

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リタイアやタイムアウトの言い訳じみた投稿などしたくない!

慰めのコメントも読みたくない!

甘えたくない!

今日の結果次第で、のちのオレの在り方が変わるのだ!!

今ココにいるオレはスゴイやつなのだ!

絶対やってやる!!

「よっしゃああ!! 行くかぁ!!」

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魂も喜んでいる。

自我も喜んでいる。

私の全てが、ドキドキワクワクしている。

私は、これまでの人生最大の達成へ向かって、

成功か失敗かの運命の綱渡りロードを渡りはじめた。

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70kmエイドステーションから次のエイドステーションまでの記憶も、ほとんどない。

しいて言えば、身体中にまとわりつく蝿が煩わしかったことだろうか。

「身体の最深層部に長年溜まっていた老廃物が、絞り出されて汗と一緒に流れているのだな。蝿にとっては、さぞ美味しかろう」

「オレの積年のカルマの味、どうぞ、ご賞味あれ」

朧げに、そんな事を考えていたと思う。

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ただただ、長い登り坂を、

小股に小股に小走りに、

リズムを大切に走り続けていた。

大股で歩くランナーに抜かれても、決して、

歩く事だけはしなかった。

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今、このリズムを崩してはいけない。

リズムは、生命力そのもの。

リズムを刻み続けろ。

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速さや時間の概念に捉われて、

自分のリズムを崩すな。

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速さや時間の概念に合わせて、

自分のリズムを決めるな。

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己れが放つ生命力のリズムが、

速さや時間や空間 = 現実を生み出すのだ。

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無心に

ただ無心に

「リズムそのものであれ」

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80kmエイドステーション。

イスに腰掛け舞茸汁を啜る。

蝿は依然として身体中にまとわりついてくる。

早く出発せよと、促しているようだ。

蝿にせっつかれるように重い腰を上げ、

5km先の「奥出雲おろちループ」頂上のエイドステーションを目指す。

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今大会最大の難関、

国道314号線の奥出雲おろちループの入り口に到着。

とぐろを巻いたヤマタノオロチを彷彿とさせるその姿を見上げ、

「ウソだろ。。」

「マジかよ。。」

思わず声が漏れる。

.

.

走れども走れども、一向に進んでいる感覚がない。

とぐろに巻きつかれているのか、

ついに、リズムが崩れた。

ジワジワと締めつけられているのか、

トボトボと歩くしか出来なくなった。

歩けども歩けども、一向に進んでいる感覚がない。

おろちの胴体に締めつけられながら、

ついに、私のリズム(生命力)は弱まって行った。

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強烈な睡魔が襲って来た。

もう、立っている事すらままならない。

日が暮れてきている。

美しい夕陽を眺める余裕すらなく、横になる。

疲れ過ぎていて、寝れない。

いたずらに時間だけが過ぎて行く。

無意識にヨロヨロと立ち上がり、

無意識にヨロヨロと歩いて行く。

.

.

おろちループを登り切り、道の駅へ到着。

が、エイドステーションはまだ先だ。

再び、道路に仰向けになり、眼を閉じる。

道路の反対側では、車椅子の老婆が、ランナー達に声援を送り続けている。

ドスの効いた低音の声で、

「がんばれがんばれがんばれがんばれがんばれ・・・」

まるで念仏のように唱え続けている。

眼を開けて空を見上げると、

夕焼けに照らされた、実に見事な「彩雲」が頭上に現れている。

無意識にヨロヨロと立ち上がり、また、無意識にヨロヨロと歩いて行く。

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85kmエイドステーション到着。

日が暮れた。

寒い。

長らく歩いていた為に身体が冷え切り、もう、膝がうまく曲がらない。

砂糖を入れた温かいコーヒーを頂き、お萩を頬張る。

エイドステーションのスタッフに時間を聞く。

午後6時40分。

残り、15km。

100kmゴールのリミットは、午後9時。

イスに座り、眼を閉じる。

顔見知りの他ランナーに話しかけられたが、

「少し寝かしてください」

話を途中で遮り、

瞑想する。

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85km地点 おろちループ頂上エイドステーション。

他ランナーさんに話しかけられるも、会話を断り眼を閉じて休息に完全集中する。

まさに満身創痍、と言いたいところだが、

実は、慣れない100kmの長旅に疲れ切っているだけで、

実際は、心も身体もダメージは負ってはいない。

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私は、

月間で30km〜50km程、一日で5km〜7kmしか走らない。

ウルトラ・ランナーとしては常識外の練習量だろう。

肉体的に長距離の経験が不足しているので、この疲れ方は当然のことだろう。

ただ、長旅に慣れていないのだ。

常識的に簡単に言えば、練習不足と言われるかもしれない。

しかし、そんな私が筋肉疲労もなく、故障もなく、各関節も炎症を起こさずに、85kmエイドステーションにいる。

常識的なウルトラマラソン大会に、
(ウルトラマラソン自体が非常識かw)

非常識な一本歯下駄で挑むのだから、

このような非常識な体験をするのは、想定の範囲内。

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突然、ムクリと身体が起き上がる。

頭の司令ではなく、休息を完了した身体が勝手に起き上がる感覚だ。

また、砂糖入りのコーヒーをいただく。

このエイドステーションで何分足止めしたかは分からない。

午後7時になるだろうか。

残り15km。

午後9時の制限時間内にイケるとかイケないとかの思考は働かせない。

イケるかイケないかは、セッションしないと分からない。

ヤルことに集中するだけだ。

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結果を導き出すには、初動が大切。

どう動いたかで、結果が変わる。

エイドステーション付近のフラットな路面では、

リズムを生み出す小走りでラクにスタートしたが、

下り坂に差し掛かった瞬間に!

仙骨を立て、
腸腰筋を屈曲させ、
膝を前方に抜き上げ、
膝を伸ばし、
地面を押し上げ、
肚を引き上げ、
胸郭を拡張させ、
肩甲骨を解放し、
首はジャイロの様に脱力し、
はるか前方のゴールを見据えて、

タタタタタタ・カッ・カッ・カッッ!!!

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翔び立って行った。

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オレはまさに白鳥だった。

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渡り鳥長距離モード・オン



火の鳥不死鳥モード・オン

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エンジンのギアはもちろん、

「ニュートラル」だ。

筋肉を多用し筋力に頼ることは、同時にエンジンブレーキをかけ続ける事でもある。

この時オレは、

人体に眠るあらゆる脊椎動物の骨格構造を活かして、

今まさに、翼を広げて、

筋力を使わずにニュートラルで、

風・空気・重力と「一つ」になって

素粒子の海を翔んでいた。

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一本歯下駄の真骨頂

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折り返しのおろちループのトンネルを抜けた時、

完全に日が落ちて、辺りは闇夜となっていた。

街灯もポツリポツリとしか現れず、足元はよく見えない。

山の奥地のガレたアスファルト、大きなヒビ割れや小石が散乱している。

もちろんハンドライトを点灯するが、ハンドライトの電池は弱まっていて、揺れるたびに点滅する。

そんな小さな灯りで路面を視認しながら一本歯下駄で走っていたら、制限時間内ゴールどころか、夜が明けてしまうだろう。

下丹田で重心をとるも、決して居着かない。
中丹田で翼を広げ、下半身と協調させる。
上丹田の松果体で、自分を含めた空間の全てを統合コントロールする。

時たま小石を踏んづけてバランスを崩しかけることはあったが、水の如くに流れるような全身の連動性は保たれて、決して転んだり倒れることはない。

なぜならここは、素粒子の海の中なのだから。

私は「水」なのだから。

水鳥なのだから。

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数年前から、昼夜の街や公園を、眼を閉じながら走る訓練をして来た。

視覚や聴覚に惑わされず、中心感覚で走る訓練だ。

大脳を遮断すれば野生的で原始的な脳領域が活性化する。

今、まさに、その訓練の成果が発揮されていた。

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ランニング・フライング・ダンシング

イン・ザ・ダーク

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ふと空を見上げる。

満天の星空。

一つ一つの星が、煌びやかに瞬いている。

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私の頭上には、北斗七星。

北斗七星が私を意識している。

私も、北斗七星を意識した。

私は空に向かって、

「どうか、お力を貸し・・・」

やり直し。

「フフフ、黙って見てて下さいよ、見守ってて下さいよ!オレのチカラを、生き様を!」

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後ろから車に乗った運営スタッフさんが、追い抜きざまに声をかけてくれた。

「そのペースならゴール確実です!」

フフフ

フフフ

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10kmの坂を下りきって、最後のエイドステーション。
時間は確認しない。

残り、4.5km

すぐに出発。

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街の明かりが見えて来た。
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沿道には、こんな遅い時間まで応援してくれている人がいる。

気が緩む。

「最後まで油断しない」
「最後まで油断しない」

念仏の様に唱えながら走る。

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ゴール会場が見えた!

私は嗚咽まじりの大絶叫を爆発させながら走った!


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ゴール会場の手前には、大会名誉会長、ウルトラマラソン界伝説の父、「海宝」さんが待っていてくれた!

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そして、全身全霊の大絶叫とともに

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15時間46分00秒

奥出雲ウルトラおろち100km遠足

制限時間14分前にして

人類史上初となる一本歯下駄でのウルトラマラソン完走。

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完走報告の投稿に、たくさんのコメントをありがとうございました。

その中に、大会参加者の方から「大会中の僕の笑顔に癒された」とのコメントがあり、ビックリしました。

今大会、自分では一度も笑顔になったつもりがなかったです。

知人から送られて来た写真を見ると、なんと、どの写真も笑ってるではありませんか。

低血糖で倒れたエイドステーションでも、

走っている姿でも、

笑ってる。

股擦れでたくし上げたオムツのような白いパンツ、ポッチャリとした体型、ボサボサの髪、そして、あの笑顔。

まるで赤ちゃんのようw

今思うと、滅多にない達成の晴れ舞台なのだから、少しはオメカシしておいても良かったかな〜、なんて思いますけどw

でも、気取らずにあれで良かったんですね、

オレ、ほんと、楽しそうですから。

昔の、何をするにでもキメッキメだった自分が

あんな赤ちゃんみたいな姿で人前で走っていると知ったら。

そんな姿がSNSやネットで写真に残ってしまうと知ったら、頭抱えて発狂していたでしょうw

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醜いアヒルの正体は、白鳥でした。

今大会で自分は白鳥として羽ばたくのだと確信したのは、出走前に、両腕を広げた自分の写真を見た時でした。

この完走記は、プロット無しの無計画で、

朝起きてすぐに衝動的に文章を綴っていたものですが、

当時を振り返りながら書いている時、

まさにラストの暗闇を駆け抜けるシーンの自分を客観視すると、俺は、本当に白鳥のようだったんだなと驚きました。

そして、ふと思い出しました。

みなさんは、覚えてますでしょうか、2017年の1月14日にワタクシが主催したランニング・イベント。

平将門公ゆかりの寺社を北斗七星の形に巡るマラニックの最終ゴールは鳥越神社でした。

先ほど、気になってもう一度、鳥越神社を調べてみたら、鳥越神社の元の名前は「白鳥明神」「白鳥神社」であり、

日本武尊が東北を平定する際に、白鳥となって降り立った地なのだそうです。

さらに、ここ数ヶ月は「白鳥」がキーワードとなっていて、

新しく契約したクライアントさんは「しらとり台」に住んでいたり、

出向先の高齢者施設の僕の後任に着任したのは、
「白鳥」さんだったり。。。

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さておき、達成は、もう過去の事。

栄光の余韻は一過性に楽しむもの。

過去の栄光の余韻がつくりだす自分に心地よい世界観を、いつまでも守ろうとしたり、広げようとはしません。

私にとって挑戦とは、

今住んでいる世界観を破り、新たな世界の扉を開くこと。

せっかく扉は開かれていて、無限に選択肢があるのに、また同じ世界観の中で自己満足を追求してしまうのは、

ただの固執や執着と同じこと。

勝ち得た世界観や価値観を後生大事にしなくても、永遠に、私の中に刻まれてる。

捨てたって、なくなりゃしない。

思いっきり、手放そう。

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人生は、目覚めては寝て、また覚めての繰り返し。

達成して、夢から覚めたと喜んだその世界は、

また別の夢の中。

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夢、破れて、新たな世界に目覚めるのか

夢、達成して、新たな世界に目覚めるのか

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いずれにしても、夢を追わなければ、新たな世界へは到達出来ない。

私は、永遠に「夢追い人」。

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もう、新たな扉は、開かれてる。

さて、新たな世界の景色を観に行こう。

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奥出雲編 了

ウルトラマラソンシリーズ、次回は投稿は
白山白川郷100km編です。

お楽しみに!

ippon blade 代表 小平 天

ippon blade販売・運営
(株)TENARI
090-3565-0369
info@tenari.co.jp

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