相棒の背に乗って
私の住む家は、今30歳。
私達夫婦が30歳の時に建てた家だ。
私の家は、住居と学習塾、2つの顔を持つ大切な相棒だ。
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この相棒の30年間にもいろいろなことがあった。
子ども達がまだ小学生の頃のある時期、不思議な現象が続いていた。
2階の廊下をトントントントンと走る音がする。それは軽い音なので、子ども達かなと思えば気にならないのだけれど、なんと主人もその音を聞くと言った。下に居ると、確かに上で違和感のある音がすると。
でも決して背筋がゾクッとくる感じではない。
「居るねー」「居るよねー」
そう、なぜかお互いに「『座敷童子』だよね」と未知の存在にも関わらず、確信を持ち、その上微笑んで話す余裕もあった。
ある朝、私が朝ごはんを作っていると、トントントンと階段を降りる音、あまりに普通の音だったので、(子ども二人の)どちらがトイレに入ったのかな、と思いながら台所に居た。「あれ、でも長いなぁ」とトイレを見に行くと誰もいない。2階のベッドに確認に行くと、主人と子ども二人爆睡していた。「やっぱり居るのね」と思ったけど、不思議と怖くなかった。
主人の証言によると、『座敷童子』が滞在中、当時やっていたパチンコで勝ちまくっていたらしい。けれど、勝てなくなってきた頃、気づくと、あの音も聞くことがなくなっていたそうだ。
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この相棒は、ハウジングメーカー製だ。
定期的に点検があり、その後、大抵大掛かりな修繕を提案される。
3年前のそれで、水回りの老朽化を指摘され、「今なら、風呂、洗面所、トイレ込みの格安プランがある」とのことで、主人にはウォシュレットを、お嫁さんにはうちでお風呂に入る時のために、広めの脱衣スペースを用意したかったので、その話に乗った。
あまり愚痴は吐きたくないので、詳細は割愛する、、つもりだったけども、
結果、アッタマきた。嘘ばっかりで、他業者広告のと同じ商品で100万円も高く請求されていた事が後でわかって、もう、それとか、あれとか、、って愚痴は吐きたくないのだよ、、、
それが、その2ヶ月後、私はひどく体調を崩した。
更年期がメンタルなら、この時は身体にきた。ひどい耳鳴りが残ってしまった。
その頃、私は何かに縋るように、出口が欲しくて、哲学、心理学、占い、と、次々にスクールに通い、かじった。
教えを仰いでいた四柱推命の師匠に、体調不良について占ってもらうと、「最近水回りに手を加えましたか?」と開口一番に言われた。水の神様が行ってしまわれた痕跡があるとのこと。いろいろな意味で本当にびっくりだった。
神様、行かないでー、戻ってきてーっと、叫びたい心境だった。
***
水は陰陽五行の思想で、『智』の意味もあって、私と、私の家から、その水の神様が本当に離れてしまったのか、学習塾も急速に勢いを落とした時期だった。
投げやりにではなく、潮時だと感じた。いっそ、塾を閉めて占い師になろうかなとさえ思っていた頃、タロットの先生と出会った。初めて占って貰った時、学習塾は絶対やめるべきではない、とのアドバイスに、深いところで感じるものがあり、自然と涙が出た。
それが縁で、オラクルカードを勧めて貰った。オラクルカードは、おみくじのように引いたカードの絵から、メッセージを感じとるもの。毎日一枚それを引くことで、自分の内側が大きな存在と繋がって、ゆったりと内観できるように感じるものだった。
お休みの日の教室にひとり座って、引いた1枚がこれだった。
ハッとして、柱を天井を見ると「私の塾」私の相棒、の呼吸が聞こえた。
それが「私の塾」が生きていると感じた瞬間だった。
何故か胸が熱くなるほど感謝の気持ちが湧いてきた。一緒に歳をとって来たねと思った。私を育ててくれてありがとうと思った。
私は勇敢な旅人、、どこまでも前へ前へと旅を進めよう。
その時、私は宮崎作品の主人公のように、相棒の背にまたがって空を行く少女のような高揚感に満たされたのだった。
もう二度と、学習塾を止めるなんて言わない。お金のためではなく、呼吸する相棒に感謝を込めて、進められる所まで一緒に行こう、とその時決めた。
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私は、行動範囲の狭い人間で、お家が大好きだ。
私は、磁場の良し悪しを感じられるのが特技だと信じている。私達家族をずっと包んで守り続けてくれている、この家とは最高に相性がいいと思っている。
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