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天空読書

10年以上振りに飛行機に乗った。

新千歳空港から外に出ると、すごく牧場のにおいがした。
真冬であれだけハッキリ嗅ぎとれるのだし、夏はもっとだろう。

近くに牧場があるのか、Googleマップで調べてみたけどよくわかんなかった。
もしなかったとしたら、何のにおいなんだろう。

ひさしぶりのビジネスホテルははやけに暑くて、乾燥していて、息苦しい。
あんまりよく眠れなくて、体調が芳しくなかった。

そんな状態での、スキー場のリフトの揺れが吐き気を呼び起こすほどだった。
夜更かしした翌日特有の臓器の痛みがあったし、縦に一回転する大コケをかまして内臓を地面に叩きつけてしまったりもした。
耳から臓物が吹き出すかと思った。
たぶんちょっとこぼれてた。

パウダースノーというらしい北海道の雪はたいへんお喋りで、歩いたり滑ったりこけたりするたびに「モギュモギュ」だの「ギュギュギュ」など鳴き続ける。


ホテルの乾燥には裏ワザがある。
どうぞお悩みの方は『ドアを開けたまま、浴槽に熱湯を張る』をやってみてほしい。

こんなの自宅でやってしまったらモクモクのムワムワのビタビタになるのに、ホテルでは、それでようやくちょうどよくなる。
これをやらずに眠ってしまったら、起きた頃にはミイラになっていることだろう。

床に水をちょっと撒くなんてワザもあるらしいけれど、私にちょうどよい加減ができようもない。
ホテルの乾燥に対する憎しみ、恨みつらみが溢れて洪水させてしまうに違いないから。


積読を減らしたいというつまらない思いで、適当な読みかけの本を持って行ってしまった。

空の中で読書をするってあんまりにも贅沢。
サン・テグジュペリを持っていくべきだった。

1時間半じゃたいして読めないから、海外旅行にはやっぱり行ってみたい。
拘束されながら、空を慈しんで、スカイタイムとかいう飛行機でしか見ない超美味ジュースを飲んで、サン・テグジュペリが生きて綴った景色を追体験したい。

日が早く沈むものだから、意外にも夜空を堪能できた。
どんどん遠くなっていく地上の建物たちを眺めて、『夜間飛行』を想起した。

読んでいるあいだ私が想像していたよりずっと、建物はちいさくよくわからない細々とした光になっていく。百聞は一見にしかずというけれど、現実の夜間飛行はこんなにも地上を感じられなくて心細いものなのだという気づきがすこし寂しかった。

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