AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ 攻略後雑感と考察 謎やNAIXの思想について
一通りクリアしたので雑感と考察を述べる。AI両作について核心的なネタバレを記載しているので、必ずクリア後にお読みください。ニルヴァーナの方はトゥルーエンド後の隠しエンドにも言及しています。
なお前回の記事ではゼロエスケープシリーズとの関連も考察していたのだが、流石に匂わせだけで直接的関係はないと思われる。もしくは、「別解釈」とも言えるかもしれない。
ゲーム内容的には前作より微妙だったが、それよりも明言されていない部分のほうが興味深かったりする。なので「面白いゲーム」というより「興味深い作品」という評価である。
雑感
まずストーリーの全体的な感想だが、ちょっと無理がある進め方だったかなと言うところ。前作とほぼ変わらないボリュームなのに龍木とみずき、ダブル主人公による弊害で薄くなってしまったのではないか。
みずきに関しては、超人的能力がゲノム編集によるもの、沖浦家とは血の繋がりがないなど、まさに前作を補完するような内容だった。ネエネは螺旋構造のチャートについてプレイヤー側を騙すための存在でしかないが、見ようによっては大人版みずきであるし、本当に頼れる血縁者が現れたことになるし、養親も片目も失い不幸続きであったみずきにとって救われる展開だった。無論、本物のみずきの活躍は実質ゲームの4分の1ということになるが…。
比べて龍木だが、おそらく違和感という名の不快感を抱くプレイヤーも多いのではないだろうか。いや、裏切っといて最後何事もなかったかのように颯爽と参上って、いくらなんでも都合良すぎないか。それもプライドと焦りに突き動かされ勝手に行動し、タマを人質に取られ、知らぬこととはいえ同僚であるネエネに障害を負わせ、周りに励まされるダサさを露呈した挙句死にかけるて…。最後には大団円で終わらせているが、いやいやいや待て待てと。
龍木が裏切ったのは全てタマのためではあるが、この2人の描写が少なすぎるのも原因だろう。開始直後から相思相愛みたいな状態だったが、もっと掘り下げるべきではなかったのか。例えば伊達はアイボゥに対して、恋愛感情というよりもそれこそ頼れる相棒としての愛であり、たとえファルコの姿になってもその愛に違いはないことを証明してみせた。前作はずっと伊達アイボゥのルートだったし、すでに5年一緒にいる設定もあったので、爆破のシーンは余計に心に残るものとなっていた。
対して龍木タマだが、プレイヤー側としては実質伊達アイボゥの半分しかプレイしておらず、龍木も「いまだにタマの怒りのラインがわからない」など、バディとして組んだばかりという印象が強かった。実際、タマは0歳である。そのせいで、ネエネを裏切るほどの愛があるとは到底思えなかった。
せめて6年後の現在の世界で裏切ったのであれば、寄り添ってくれたタマにそのような感情を抱くのも十分わかるのだが、いかんせん無理がありすぎる。おそらく、両親も弟も失い、愛に飢えていた龍木にとってタマはそれほど愛しい存在だったのかもしれないが、あまりに説明不足。AI-Ballの姿は所有者の理想の姿になるらしいので、龍木にとってはもしかしたら愛する人とか死亡した母親とかへのイメージなのかもしれないが、何の説明もないので流石にもっとフォローすべきだっただろう。ネエネとも最後は和解したようだが(龍木が撃たれた際に駆け寄っているので、何かしら謝罪や許しなどのやり取りがあったかもしれない)、この辺のシーンも省かれていて何事もなかったかのように接しているのを見ると、どうにもモヤモヤする。どう考えてもその時のシーンはちゃんと入れるべきでしょう…。
時系列がDNAの構造のごとくズレているという設定は見事だった。プレイヤーを騙すためだけでなく、このNAIXの言う世界の綻びを生み出すためというプロット上の理由もちゃんと補完してある。
確かに見返してみれば、ネエネに対して誰もみずきと呼んでいないし、龍木が犯人を取り逃がしただけにしてはあまりにボスがネチネチすぎ、ネエネはバレるので絆ら女子高生連中とは接触していない。ネエネが伊達を見つけても大して驚きがなく、一方の伊達もまるでそっくりさんを見たような反応であるのも当然だし、瞳がしばらく伊達と会っていないのも失踪した6年後の世界だから。他にもキャラの反応がおかしい部分は一応説明がつく。ただ、みずきの姿が6年前のネエネと同じだったら、誰か一人ぐらい「似ているね」とか言うと思うのだが…。もしくは、6年前に病院にいた祥磨も、好きなみずきそっくりの人と会ったら流石に何か反応しないか? この辺はご愛嬌か。
あとは、最後のアクションシーン。要らなくない? クオリティも展開も小学生向けレベルだし、これもシミュレーション世界なら許されるとでも言うのか。
前作にも登場した亜麻芽が犯人というのは、割と早い段階から匂わせてあるので大して驚きはなかった。そこで聞かされるアイボゥの説教シーンと、この世はシミュレーションという理論の対立が、何とも皮肉である。しかしママも言っていたが事件自体はこの螺旋構造に気付けば実にシンプルで、全ては隠しエンドの胡蝶之夢をプレイヤーに認識させるためのプロットに過ぎなかったのではないだろうか。というか、もはやこっちがメインまである。
謎と考察
本作では明かされなかった謎が多く存在するように思える。本当は答えがあるのに私が理解していないだけかもしれないが、個人的見解も含め羅列しておく。
・龍木に起きた異変のシーン
先ほど批判した龍木の件だが、彼の過去についてはほぼほぼ弟が事故死したことぐらいしか言及がない。タマへ愛情を向ける意味もぼやけすぎなので、次作で何かしら説明があるのだろうか。このままでは、自己的理由でネエネやみずきを傷つけ、最後は美味しい所をかっさらうイヤなキャラで終わってしまう。開発元は大きな宿題を自らに残したものだ。なお、アイボゥは伊達の趣味の造形らしいので、タマも龍木が好む誰かのイメージと思われるが、今のところ似ているキャラは見当たらない。
そしてヴェイパーウェーブ風味の動画を見たりするとバグるシーンだが、あれは結局、認識している時間軸がズレているために起こるのだろうか。TC-PERGEによるものという可能性も考えたが、あれは6年後の世界で感染しておりバグ自体は6年前の時点ですでに発症している。あり得るとすれば、6年後に感染したものが過去の自分に波及し世界線が変わった、ということだが、あまり釈然としない。またTC-PERGEは幻覚や見当識障害を引き起こすそうだが、そんなものは6年前から発症しているわけで、今更感染させる意味はそれぐらいしか思いつかない…。
ちなみにすべての動画で発症しているわけでなく、BATS490とニルヴァーナXでは起きていない。また、テアラァを逮捕するために米治と共にスタジオを訪れた際、QR動画を明らかに意図的に見せられていることから、テアラァも龍木のバグ現象=QR動画で発生させられることを理解している。また、龍木はプレイヤーであるフレイヤーがニルナンバーを入力した際にもバグっているので、時間軸の矛盾というか、そういうことが起きるとバグ現象も発生するのかもしれない。そしてこのバグはNAIXが求めている綻びであった。龍木にABISを裏切らせていることからも、明らかに彼を重要視している。なぜ龍木でなければならなかったのか。
・胡蝶之夢
プレイヤーが世界線を跨いでプレイできることについて、本作ではフレイヤーという観測者のようなメタ的存在を置くことにしたようだ。
時雨の発言から、彼女はAI世界がプログラムされた世界、すなわち我々が遊ぶゲームであることを完全に確信し、今回の事件を操っている。シミュレーション理論でいえば、我々プレイヤー側のリアル世界が、彼らの世界をプログラミングしているというわけである。どんなゲームでもキャラクターたちは我々プレイヤーのおもちゃである。そのことにNAIXは気づいたということだ。
そしてそこから抜け出す方法がバグ探しであった。縦軸と横軸の交差部分に生じるという理論のもと、時間軸のズレという矛盾を引き起こすことで達成しようとした。最終的には、未来で伝えるはずのニルナンバーを過去の自分が知っているという矛盾が決定打となり時雨は解脱したものの、だったらHB事件における螺旋構造の仕組みって要らないんじゃとも思うが、まあフレイヤー側を騙すことが矛盾を生み出すことに必須なのだろう。バグというのは、プログラマーを騙すものだから。
そして複数の世界線の存在は「胡蝶之夢」として説明づけられた。ありとあらゆる可能性のあるシミュレートされたパラレル世界、そこで得られた記憶は夢や予知夢として復元される。現実である我々プレイヤーは別の世界線の記憶など持っているわけがなく、あるとすれば夢で見た妄想世界である、と思い込んでいる。それは彼らにとっても同じで、実在しているかわからない記憶はただの夢。なので隠しエンドにおけるみずきたちに、かすかな記憶が残っているような描写になるのだ。おそらくAI1の伊達に違う世界線の記憶があったのも同じ。
AI世界は我々プレイヤーにとって虚構の世界とはいえ、彼らも我々と同じようにリアルな人間と思い込んで生活している。なので彼らにとってパラレルワールドなどという存在はあり得ないのが常識である。だがしかし、AI世界を作り上げた我々プレイヤーにとって、AI世界にパラレルワールドが存在するのはシミュレートしているのだから当然であるし、実際に複数エンドを通して顛末を観測できるわけである。リアルと思い込んでいる世界において、6年後の未来は観測できるわけがなく、できてしまえばそれはプログラムにおける致命的バグだ。しかしそれを可能にするのがNAIXがフレイヤーと呼ぶAI世界を作った我々プレイヤー側なのである。彼らはそれに気づき、接触してきたというわけだ。龍木を利用したのは、もしかしたら彼はプログラム的に不安定だから、という話なのかも?
NAIXの理論でいえば、マトリョーシカのように、AI世界は我々プレイヤーがシミュレートしているわけだが、我々プレイヤーの世界も何者かがシミュレートしている可能性がある。つまり我々プレイヤーが住むリアル(と思い込んでいる)世界も虚構だったりしないだろうか。いつしか、日本のどこかにリアルNAIXが現れ、この世はニセモノだと語りだす思想団体が生まれるかもしれない。そいつらが妄想を語っているという証拠は、あるのだろうか。既に、現実世界においてシミュレーション理論は誕生している。その瞬間、AI世界を含めた虚構世界の存在の可能性も誕生したようなものだ。
なお、時雨が龍木(おそらくフレイヤーも)に対して虚構世界であることの根拠を語る際、マンデラエフェクトの自由の女神がある島について話をしている。いわく、自由の女神はエリス島にあり、リバティ島ではない。これは厳と亜麻芽がバーで喧嘩していた内容とも同じである。だが調べてみてほしい、自由の女神はリバティ島に存在している。ニュースで見ると2021年に小型版であるリトルシスター像が期間限定で置かれたようだが、間違いなく皆の知る自由の女神はリバティ島所在だ。これはただのミスという可能性もあり得るが、彼らの住む世界はシミュレートされた虚構世界である。そのことは、我々プレイヤー側が一番知っている。であれば、ほんの少し事実が違っていてもおかしな話ではないのだ。もしくは、上の世界ではエリス島にあるのに、我々の方が誤認している可能性もあるのかもしれない…?
もう一つ疑問なのは、解脱を果たしたのは6年前の時雨であるのに、ニルナンバーを教える時点までこれから起きることを全て知っていたように発言する。なぜ完璧に把握しているのか。「ダリア・ボート」や「オールマイティ」と解答する部分は、我々フレイヤーがその記憶を持ってきたから、ということで説明はできる。みずき達に微妙な記憶の残滓があるのは、フレイヤーがプレイヤーとして観測してきたからというのもあるかもしれない。一方で時雨に関してはフレイヤーの直接的介入はないはずだ。完全な綻びが生じた瞬間、時雨も未来の顛末を知ったのだろうか。それとも、時雨には違う世界線の記憶を引っ張ってこれる特殊な性質でもあったのだろうか。もしくは、解脱とは悟りなので、我々プレイヤー側と同じ側に立った、だから当然プログラムの内容全てを知った、ということなのかもしれない。我々も解脱すれば、住んでいる世界を作り上げた存在の立場になれるというわけだ。
そして我々プレイヤー側と同じ側になった時雨は、下層にいる龍木に対して顛末という名のプログラム内容を教えるか否かの選択肢を我々に提示することすら可能になった。その世界線での時雨は最後に、「あなたは一匹の蝶なのかもしれない」と語る。これはプログラムされたAI世界にいる龍木を指しているかもしれないし、我々プレイヤーを指したのかもしれない。なぜなら我々もまた、プログラム世界で舞う蝶なのかもしれないのだから。
それにしても、悪役を除いて皆ハッピーになった隠しエンド、こんなにも歯切れの悪い終わり方があるだろうか。これでいいはずなのに、晴れぬモヤモヤ。亜麻芽の決死の思いも、龍木の苦悩も、みずきとネエネの受難も、ただの夢オチとして扱えというのか。
・2人の共謀はどこまでか
テアラァこと閏はNAIXの思想に共感し、HB事件やニルヴァーナ構想を画策していたわけだが、どこまで時雨と共有していたのだろうか。
というのも、閏は明らかにマヌケな殺され方をしており、わざとなのかそれとも本当にただバカだったのか分からない節がある。わざとだったとすれば、自分の死が時雨の思想成就に不可欠であることを理解していたことになる。
まず先述のように、螺旋構造によってフレイヤーを騙す必要があったのであれば、迅と閏の死はほぼ必須事項なのは間違いないだろう。おあつらえ向きに半身が違うので、我々を欺くにはピッタリ。また少なくとも、閏はパラレル世界の存在も信じている。そうでなければ「ダリア・ボート」の暗号は残さない。
亜麻芽と対峙した際「運命の人」と呼んでいたことについて、伊達らはただの一方的愛と片づけていたが、閏が偏愛しているのは母親役でもある時雨であり、可能性は低い気がする。むしろ、HB事件の共犯者に仕立て上げる人柱を見つけたような、そんな気持ちだったのではないだろうか。おそらく時雨による指示もあったと思われる。そうであれば、わざと亜麻芽に殺された可能性は高い。米治を殺されたことで恨まれるのは簡単に想像できることであり、自慢したいがため墓穴を掘るのは知能犯としてあまりに無理がある。そして偏愛する母親の思想成就のためなら、命を捨てることも考えうるだろう。
ただ、最後の最後に不可解な点があった。競技場でのシーンでは録画してある映像が流れていた。その発言はいずれもみずきらが妨害にくることを予期していた内容であるが、ロケットが破壊された後、閏はTC-PERGEが世界中に広まり人類の新しい夜明けとなったことを宣言するような発言をしている。その直後、時雨が割って入り「計画は…無事…(成功)」と告げている。
別に何もおかしい点が無いように聞こえるが、今までの展開を予期していた閏が最後の最後で間違えることがあるだろうか。ここには2つ可能性が考えられる。
1つは、最終的にロケット阻止がニルナンバー開示および時雨の解脱に成功するので、AI世界は虚構だと証明できることに対しての発言だったこと。しかし、隠しエンドを見ての通り、解脱しているのは時雨のみであり、他の人間が解脱しているような描写はなく、閏の言う全人類の解脱には至っていない。もちろん、これから時雨が何かするのであれば話は別だが。一応、事件が最大限平和に解決した隠しエンドにおいて、逮捕された閏の様子を聞くにこの展開は聞かされていなかった可能性が高い。
そしてもう1つが、TC-PERGE拡散によって世界中の人間がおかしくなり、バグが生じてみんな揃って解脱できる、と時雨にウソを吹き込まれていたこと。おそらく、閏は死んだ後もロケット発射の段階まであらゆる世界線の可能性があることを想定し、録画していたと思われる。最後には計画が成就し、自分が死した後に世界中の人類が解脱し、殉教者にでもなる気持ちだったのだろう。だがその前提が間違っていたとしたら。時雨はHB事件を経てフレイヤーに直接働きかけることで、バグを生じさせた。つまり閏のTC-PERGEによる計画はメインではなかったのではないか。彼女は、世界中の人間がどうこうでは綻びが生み出せず、フレイヤーによってのみ達成されると考えていたからかもしれない。事実、フレイヤーと呼んで接触してくるのは時雨しかいない。閏はそこまでの話は聞かされていなかったのではないだろうか。であれば、閏はTC-PERGE拡散成功の可能性しか録画していないのも理解できるし、その後時雨が無事成功と言ったのも合点がいく。
もしくは、閏にとってNAIXの語る解脱とは「死」と考えていたが、時雨にとっては違っていたから、というのも理由かもしれない。事実、時雨はこの世からの解脱とは死ではないと明言している。シミュレーション世界だとすればコードを書き換えることができるとも話しており、もしかすれば迅が病気にならないような、そういう世界のシミュレートでも目指していたのかもしれない…が、自分だけ解脱しようとする理由は何だったのだろう。
生死を彷徨い感情を失った時雨は、結果的にあれほど心を痛めていた迅と閏も容赦なく利用した。そして事実上、不老不死にも逃亡にも成功している。次作で全く関与しないということは無いだろう。
・時雨に問いかけられた3つの質問
時雨が解脱したあと、フレイヤーは以下の質問をする。
1.亜麻芽に死体を運搬させた理由
2.なぜ自殺したのか
3.ニルナンバーはなぜあの時に告げられたのか
これらに対して時雨は解脱のためと回答する。縦糸と横糸の交点、そこに「綻び」は生じる、つまり螺旋構造のフローチャートも重要だった。交わる部分は4つあり、最初の3つはそれぞれ時間軸がズレたと思われた死体が3つずつ、まさに誤解を生じさせるにはピッタリの並びだが、なぜか最後の交点だけはその要素がなかったりする。
1番の件について、亜麻芽は特立競技場に閏の半身を置くと、みずきを呼び出した。そこではおそらく偶然だがネエネとも接触している。なぜここに運搬しみずきを呼ばせたのだろうか。みずきを呼び出したことについては、成長したみずきはこの姿なんだと、我々フレイヤーに印象付けるためだったと思われる。そのせいでネエネの姿と一緒であることはしばらく見抜けなかった。だが特立競技場を選んだ理由はよくわからない。最終決戦の場になるから? ロケットの場所について、迅と法螺鳥、米治の死体の位置から交点である特立競技場が特定されていたが、念のため閏と時雨の交点も考えてみた。しかし、それぞれ「特立競技場」、「地下大聖堂」、「NAIX本部」(実質地下大聖堂と一緒)、「法螺鳥研究所」では交点が出てこなかった。ただ、「特立競技場」を除いていずれも事件が進展する重大な手がかりも一緒に隠されていたので、ただの目印だったのかもしれない。
2番については、あえて自殺する理由はあったのかがよくわからない。時雨自身は解脱=死というのを否定しており、かつ恐れていないような描写があったが、ニルナンバーを過去に伝えるだけなら、死ぬ必要はあったのだろうか。また、自殺でなくとも、適当にふっかけて亜麻芽に殺されるとかでもよかったのではないか。1番のように目印とするのが目的であれば、HB事件の不可解さも相まってフレイヤー側を混乱させるには十分ではあるが、果たしてそれだけなのだろうか。
3番については、伝えられたタイミングはHB事件の真相が明らかになった後となる。ホログラムを残していたことを考えると、主人公とフレイヤーがHB事件を解決することを全て予見していたかのようである。ここは完全な推測だが、時雨はこの世はシミュレーションと考えているということは、自分たちはゲームの住人であるということも理解していたのではないだろうか。ゲームであれば、プログラムとしてはクリアされるのが当然である。そしてその後のことはプログラムされていない。であれば、最大限綻びを生じさせて解脱を図るタイミングは、クリア直前しかなかった?
・カクレコウモリにおけるニルヴァーナスペル
隠しエンド後、ニルヴァーナスペルが開示され、カクレコウモリのサイトに入力できる。
その内容をまとめると、
1.イリスらは綻びを生み出せるフレイヤーであること。
2.極限状態になると、世界を作り出した存在に接触できる。
3.彼らを救いたいという念波によりさらに干渉力が増強される。
4.無数のシミュレーションによりイリスが攫われたAI世界と攫われていないAI世界がある。
5.プレイヤーである「あなた」が遊んだのはたまたま攫われていないAI世界であり、他の世界線の誰かは攫われたAI世界を遊んでいる。
6.カクレコウモリの主催者は「あなた」が攫われていないAI世界を遊ぶことを知っていた。
7.彼らが「あなた」方のいる世界に接触してきたのは構想にとって必要なステップ。
8.その構想は「あなた」がこの真相を知ったことで最終段階になった。
9.今度はフレイヤーである「あなた」が6人の立場になる番。
つまるところ、イリスが攫われたか否かのAI世界が2つ存在するように、我々プレイヤー側の世界にも攫われたか攫われていないかの2つの異なるゲームを遊ぶ世界線があるということになる。
先述でAI世界をシミュレートしたのは我々プレイヤー側であり、時雨はフレイヤーに接触することで同じ立場に解脱したと書いたが、上の内容から察するに、カクレコウモリ側は我々より1個上の存在ということではないだろうか。シミュレートをしているカクレコウモリ側が、我々プレイヤーが攫われていないAI世界をプレイするという予測はできて当たり前である。さすれば、我々の世界がAI世界をプログラミングするのも、当然知っているというか、そうするようにプログラムしているわけである。
彼らが接触してきた目的と構想とは何なのだろうか。我々の上に未知の存在がいることを知れば、シミュレーション理論は強固なものとなる。しかもこの世界全員ではなく、フレイヤーの素質のある人間だけがイヤでも謎の存在を知ってしまったわけだ(少なくともそういう設定)。そして我々フレイヤーが今度は上にいるカクレコウモリ達の世界への干渉のエサとなり、我々の世界の誰かが彼らの世界への解脱を目指すのである。その後は、上へ上の世界へとリピートされていく。干渉のエサと書いたが、これはつまりNAIXのような思想の誕生につながる。解脱者のマトリョーシカとでもいうべきか。
イリスがフレイヤーだったわけだが、ということは彼女もまた、AIのようなゲームを遊んでいたのかもしれない。世界層的には1個さがるので、我々の現実世界の何者かがイリスらにカクレコウモリの念波実験のような何かを行ったことになる。こうして上の存在を知ってしまったイリスは、オカルト話にのめりこんでしまったというわけだ。おそらく他の5人もそういう類と思われる。AI世界で解脱を果たしたのはイリスらではなく時雨となった。イリスたちは、ただの前提条件だったのだ。
そして我々も真相にたどり着いてしまった。上の世界への解脱の鍵を開けてしまった、といったところか。
この話の面白いところは、「いやいやAIソムニウムファイルてゲームだから、現実じゃないのに何マジになってんの」、とは言いきれない部分にある。我々の世界も上の世界が作ったゲームである、その可能性が存在している以上否定ができないのだ。我々は複数エンドのあるゲームと違って一本道を生きていて、だからこそアイボゥが言ったように何かやらかしても過去には戻れないと考える。他の可能性とか世界線とかはあり得ないと思うわけだが、ではなぜ我々がプログラムしたゲームではそれができるのか。彼らの顛末を思うがままコントロールできるのであれば、上の世界もこちらの世界線を好きなように作れるのではないか。絆の足が傷つかなかった世界線があるように、我々の人生ももっと晴れやかな、もしくは地獄になった世界線も上の世界はプログラムしているかもしれないのだ。そして重要なのは、8番のように「知った」ことにある。観測しなければ存在しないように、知らなければ存在しない(と思い込める)。だが誰かがあり得ると考えた瞬間、その可能性は0ではなくなってしまう。イリスや私たちフレイヤーとは、何か特殊能力があるとかではなく、辿り着いたことでその可能性を0より大きくした存在、と言えるかもしれない。
完全に否定できないのがオカルトたる所以であるわけだが、同時に宗教や思想はこういうオカルトから発生したのだろうとも思える。しかし、NAIXの唱える思想は、個人的には物質主義に成り下がった現存するエセ宗教どもより遥かに説得力があるようにも思えてしまう。人の思考は、本当に面白い。
その他にも、プレイヤー側を認知している謎の声があった。男性と女性の2つあり、男性は閏のようにも聞こえるが、女性は明らかに時雨とは違うのでおそらくこの2人ではない。%教団の教義を伝える声と同じだったことを考えると、おそらくこの教団の人間と思われるが、結局NAIXとの詳しい関係や何者なのかは説明無し。冒頭のクイズや「ダリア・ボート」入力時にフレイヤーに声をかけてくるので、少なくともこちらのことは認識している。
みずきらに対してSATが送り込まれるルートでは、慈しみをもって接していたボスが突然みずきを怪物扱いしているほか、伊達がテアラァとABISの関係について疑っていた。前作は体を乗っ取られていたボスだったが、今回は本人が敵対行動をとっている。みずきらを追い込むことをNAIXに命じられていたのだろうか。
またNAIXと関係があるとすれば、ウジャトシステムにも疑問が残る。前作のイリスの話によれば、ウジャトは宇宙の電波をキャッチし、そこからデコードした結果生まれたシステムで、目的は別の知的生命体へ自身のコピーデータを飛ばして繁殖すること、そのために影の勢力として操っているのがNAIXであった。映画『コンタクト』と似ている話である。イリスがNAIXに狙われていたこと、そして今回の上の世界への解脱と捉えると、この話はどうにも妄想であったり無関係だとは思えない。そしてウジャトシステムによって誕生しているのがAI-Ballであり、ABISと繋がりがあるというわけである。アイボゥらは認識していないようだが、彼女らの貯めるデータに何かしら価値があるのかもしれない。
カクレコウモリではイリスの存在が抹消されているが、これはおそらく「イリスが攫われた世界線」でのイリスと思われる。なので我々が遊んだ攫われていない世界線を描いたAI2では当然登場している。なぜ消す必要があったのだろうか。存在している世界線を正とするためだろうか。
個人的にはHB事件云々より、シミュレーション理論のほうが興味深い内容であった。むしろ、こちらを際立たせるためにわざとしょうもない展開にしたのかと疑いたくなるほど。みずきは期待していたほど出番が多くなくて残念だったが、時雨の残したインパクトのほうが遥かに大きかったと思う。彼女は救世主なのか、破壊者なのか、両方なのか。新しいAI-Ballのマルコと大人になったみずきの登場も期待し、次作を心待ちにする。何といっても今作はまだ「イニシアチブ」、始まりに過ぎないのである。
それにしても、亜麻芽が単純に不憫でならない…。連投させておいてこの仕打ち。絆とどこで差がついたのか。コロナ収束ができなかったからアマビエをモチーフにした彼女へ報復したとでも言うつもりか。運命とは理不尽なものだ。彼女にとってのカタツムリがあまりにも多すぎた。ダメ親父はどうしようもないとして、イリスも戦犯の片棒を担がせられているのは流石に笑う。
亜麻芽が悉く不正解を選んだ世界線は、時雨の解脱にとって必要だったわけで、年齢を正直に伝えたり死体遺棄を白状したような世界線ではニルヴァーナ構想は為されない。いつだって犠牲は、必要なのである。
追記:
AIシリーズの新作が発表か。今度はどんな恐ろしい展開が待っているのか。